大和総研:上場維持基準の適合に向けた進捗状況の開示

政策調査部 主任研究員 神尾 篤史

「■本来の上場維持基準を充たさず、経過措置の適用によって東証の新市場区分に上場した会社による「上場維持基準の適合に向けた計画に基づく進捗状況」(進捗状況)の開示が行われ始めた。なお、現時点での進捗状況の開示は任意のものであり、経過措置が適用されているすべての会社に義務が生じているわけではない。」

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日本の大手機関投資家の「ESG」の真実…

BDTIのガバナンス改善の使命に賛同される皆様へ

公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)は、日本で最も影響力のある(1)取締役・執行役員研修(2)コーポレート・ガバナンスに関するデータの提供者であります。この度、2021年度の活動報告をご紹介させていただきます。特筆すべきは、昨年度の企業向け個別研修以外のプログラム参加者のうち、32%以上が女性であったことです。(こちらで報告書をダウンロード)。

BDTIの研修活動は増加いたしましたが、日本のコーポレート・ガバナンスの改善に大きなインパクトを与え続けるためには、投資家からの寄付が欠かせません。そのために、ここ数年、私自身の給料も最低限まで減らすことで活動を支えています。(実際、過去12年間、BDTIへの寄付を差し引くと、私自身文字通りゼロ報酬で国内株式市場と日本経済の改善のために働いてきたことになります)。

BDTIは政府の監督下で活動しております。2009年にNPO法人としてBDTIを設立し、その後活動が「公益」に寄与すると認められました。政府の特別認定を取得することで、日本でベストプラクティスおよび役員研修の習慣を普及させるための最も「支援しやすい」プラットフォームを築き上げました。 特に、私が2013年にコーポレートガバナンス・コードを政府に提唱した後(取締役研修の項目も含めて)、日本の機関投資家がスチュワードシップ・コードでの責任やESG・サステナビリティ投資活動がより具体的な成果を上げる観点からは、公益法人BDTIの活動は支援しやすいと考えました。 結局のところ、「G」(取締役会)の質は、「E」と「S」などが株主、ステークホルダー、そして社会に価値をもたらすかを決める柱であります。。

しかし、誠に残念なことに、この12年間、日本の大手機関投資家の一社からもご支援をいただけておりません。日本の大手機関投資家に勤めている個人から何等かのサポートおよび協力も、極めて珍しいです。BDTIの寄付金の99%は、世界で最も影響力のある投資団体を含む海外の資産運用会社や機関投資家から寄せられております。

メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか2021年(3)

前の記事「How far has corporate governance progressed in 2021 (1)」および「How far has corporate governance progressed in 2021 (2)」に続いて、上場会社のコーポレートガバナンスを改善する取り組みが2021年にどのくらい進んだかを数値を持って見ていきたいと思います。

前の2つの記事を簡単に要約しておくと、ボードプラクティスに関して、改訂コーポレートガバナンス・コードの中で具体的に改善すべき事項として言及がなかった評価項目、例えば取締役会の議長、女性取締役、買収防衛策に関してはほとんど改善していないか限定的な改善にとどまったことをご報告しました。上場会社が実際にとったキー・アクションに関しては、キャッシュと政策保有株式の効果的な使い方と成長戦略の明確な打ち出し方は今年も課題と思われることをご報告しました。株価およびバリュエーションが上昇する中で、外国人株主比率がやや低下していることを考慮すると、ROEおよびROAが伸び悩んでいることとも関係があると考えることもできることから、成長が期待できるキャッシュや資産の効果的な活用がやはり課題なのかもしれないことを結論としました。

今回の記事では、各会社の時価総額がどのくらい成長したのかという観点で分析します。下表は2020年12月および2021年12月で比較可能なMetricalユニバース1,704社の時価総額の変化を示したものです。2020年12月時点のMetricalユニバース1,704社の時価総額の中央値は385,547百万円で、2020年12月時点のMetricalユニバース1,704社の時価総額の中央値は421,138百万円に増加しました。1年間の増加率は9.23%でした。

4/14無料ウェビナー:ESG2.0-ISSB統一基準で企業経営と統合報告書はどう変わる?

ISSBが設立と同時に、VRF(旧SASBとIIRC)、CDSB(CDP)と統合すると発表し、ESG経営とその開示は新時代を迎えようとしています。2022年6月にまず発表されるという気候変動に関する統一基準を世界中が固唾を飲んで待っている状態です。社会資源の重要性と企業活動の持続可能性を考慮に入れた投資、それに応えるための企業経営、関連する情報開示は、これまでも社会全体の重要課題でした。上場企業は責任を果たすべく、統合報告書等の発行、格付けの取得などに努力してきました。しかし、世界統一基準の実現が現実的なものとなった今、上場企業にはこれまで以上の対応が求められます。

上場会社の担当者の皆様には先の見通せない中で今年の統合報告書等をどうすべきか、悩みが多いと聞きます。また経営層、取締役会の皆様におかれても、ESG経営の意味合いが腹落ちしない、Net Zeroを宣言するべきか姿勢を決めかねるという声も聞きます。本ウェビナーでは、現在VRFの理事を務められている北川哲雄氏、カタリスト投資顧問株式会社 取締役副社長COO小野塚 惠美氏を講師としてお迎えし、また優れた情報開示を行っている、味の素株式会社の矢崎久美子氏、株式会社アドバンテストの????本康志氏にパネリストとして加わっていただき、新時代に必要となるESG経営の真髄、効果的な開示の方向性をお示しいただきます。

BDTI 2021年度活動報告


 

2021年度はBDTIにとって非常に厳しい年でしたが、実り多い年でもありました。役員研修の頻度が増えただけでなく、BDTIとして挑戦することによりプログラムの種類も広がりました。2021年度を振り返り、活動報告をさせていただきたいと思います。

【研修活動】

BDTIが実施した役員研修の受講者は342名で、その内訳は以下の通りです。
・オープンプログラム(13回実施)122名
・社外取締役の役割に焦点を当てた新コース「社外取塾」32名
・「ガバナンス塾」にダイバーシティマネジメントを含んだコース16名
・企業向けにカスタマイズされた役員研修は169名
・このうち64件は、子会社の幹部が参加した研修でした
・オープンプログラムの役員研修の参加者のうち32%が女性で、日本の取締役会の女性役員比率の平均の4倍以上となります。この数字は、女性のための「研修奨学金」を提供する寛大なスポンサーにより、2022年度には増加すると思われます。

BDTIが開催した7回のウェビナーには608名が参加し、第一線で活躍する専門家が以下のトピックを取り上げました。
・「ポストコロナ時代のリスク管理−法改正を踏まえたD&O保険の見直し」
・「投資家が求めるガバナンスとエンゲージメントとは?」
・『「協働的エンゲージメント」はイギリスでは活発なのに、なぜ日本では殆どないのか?』
・ 『「ESG経営」をどう「開示」するべきか?』
・ 「実効的対話の本質と形態」
・「会社支配権争いと株主利益の毀損」
・「機関設計の選択と社外取締役の役割」~新設計選択の傾向と検討すべきポイント

ESGに不可欠なガバナンス向上のため支援下さい!

公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)が2011年に公益認定を受けた事業は2つです。両方、ESGの注心柱である「G」には不可欠です:

  • 「コーポレート・ガバナンスに関する専門的知識の普及および人材育成を推進する事業」(役員、執行役員、管理職向けの研修)
  • 「コーポレート・ガバナンスに関する調査研究および一般市民啓蒙に資する事業」(主にCG及びCGプラクティスについての情報発信)です。

ESGへの対応が単なる慈善活動としてではなく、事業そのものとして取組むべき経営の重要課題として認識されるようになってから、役員研修受講者も年々増え続け、BDTIの役員研修受講生は2011年の研修開始以来2,400人を超えました。これは、ガバナンスに関する研修の歴史が浅い日本で、BDTIが企業および個人に対して低価格で研修を提供してきたからです。(活動報告はこちらをご覧ください。)

事業継続に不足する資金は主に寄付や事業収入を充てていますが、今後さらに内容の充実を図るには、さらなる寄付金やご支援が必要です。そして今直面している問題は日本の大手機関投資家からの支援がまったくと言っていいほどないことです。この10年間、BDTI が活動を続けられてきたのは外国人投資家のお陰です。それには大変感謝しています。日本人が自国の経済を守るのに他国に頼り続けていいのでしょうかコーポレートガバナンスが強化され、投資環境も良くなっていることを日本の機関投資家も感じていると思います。なぜこんなに良くなっているか考えたことありますか?これも外国人である私が政府にコーポレートガバナンス・コードを提唱してきたからです。

日本経済新聞:「お飾り社外取締役、もう許されず 不正の監督責任厳しく」

本日(2022年2月21日)の日本経済新聞の記事で、友人でもある山口利昭弁護士のコメントを含めて、社外取締役への期待が高まっていることに着目しました。以下の文は正にその通りだと思いました。

「選定方法に課題

企業側の工夫も必要となる。企業統治に詳しい中村直人弁護士は「社外取締役の候補者を選定するプロセスから見直すのが大事だ」と話す。統治体制が最も厳しいとされる指名委員会等設置会社でさえ、社外取締役の候補者をまず経営陣が選び、指名委員会の了承を受ける流れになっている例も多い。経営者の「お友達人事」になってしまう可能性が残るという。

メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか?2021年 〜 ボードプラクティス編

Metricalは東証一部上場会社を中心に時価総額が約100億円を超える約1,700社を対象にコーポレートガバナンスの評価を毎月アップデートしています。2022年4月の東証の市場区分の再編に伴い、2021年はコーポレートガバナンス・コードの改訂が行われました。上場会社のコーポレートガバナンスを改善する取り組みも前に進むことが期待されます。その取り組みの成果によって、どのくらいコーポレートガバナンスが改善されたのかを数値を持って見ていきたいと思います。

これから下記に示すチャートは2020年12月のMetricalによる各評価項目の評価と2021年12月のそれらの推移を示していて、この1年間の上場会社のコーポレートガバナンスの取り組みがどれくらい改善しているかを見ることができます。それでは順に見ていきましょう。

最初のチャートはMetrical CGスコアの分布図です。Metrical CGスコアは多数のコーポレートガバナンスの評価項目を網羅した上場会社の総合的な評価を示すものです。2021年12月の緑色の棒の分布は2020年12月のオレンジ色の棒の分布と比べるとスコアが高い右方に移っていることがわかります。コーポレートガバナンス・コードの改訂の影響もあって、上場会社がコーポレートガバナンスの取り組みを進めたと推測することができます。下記でその中身についてもう少し詳しく見てみましょう。

Introducing the enjoi Wolfpack, a DEI Leadership Program for Corporate Men

(日本語訳は英語に続きます)

DEI Business Strategy is not a “Nice to Have”

Are you a forward-looking man in corporate Japan with an interest in learning how to shift your organization towards healthier, more equitable, and more innovative dynamics? 

Building diversity-positive workplaces is no longer a “nice to have.” It is now an IMPERATIVE just for baseline business continuity. Diverse talent mobilization strategy can no longer be delegated to the HR function where it is often under-resourced and disconnected from holistic innovation and business strategy.

Research by the Economist Intelligence Unit shows that just 38% of Japanese companies report that C-level executives have responsibility for the formulation of talent-management strategy, compared to 65% in the global results. If CEOs in Japan want to stem financial losses from talent attrition, building a gender-equal and diversity-positive workplace is the foundation.

That’s why we have developed the enjoi Wolfpack program.

This new, one-of-a-kind, six-month executive education program from enjoi Japan K.K. runs biweekly as virtual meetings on Monday evenings, 8:00-9:30 pm JST beginning February 28, 2022. There are three different packages available at three price levels: Wolfpack Explorer, Wolfpack Leader, and Wolfpack Mastermind.

There is only a limited number of spots still available in this confidential DEI leadership program! Applications close as soon as seats sell out. Final application deadline is February 15, 2022.

Visit www.en-joi.com/wolfpack to request pricing details and apply now!
We also welcome inquiries at wolfpack@en-joi.com.

メトリカル:どのような企業が買収防衛策を導入しているか(BDTIデータを利用したMetrical分析)

下表の通り、全東証一部上場企業の中で買収防衛策条項を採用していない会社は90%を超えています。Metricalのユニバース(東証一部上場会社を中心に上場会社全体よりも少し時価総額が大きい会社で構成されている)でも約90%の会社が買収防衛策条項を採用していません。

今や買収防衛策を保持していない会社が主流になっている中で、買収防衛策を採用している会社と採用していない会社のパフォーマンスとコーポレートガバナンス・プラクティスの状況を調べてみました。下表がそれらを示したものです。ご覧の通り、買収防衛策を採用していない会社のパフォーマンスが過去3年間平均のROE(actual)、ROA(actual)およびトービンのQにおいても優れていることがわかります。コーポレートガバナンス・プラクティスにおいては、独立取締役比率以外の女性取締役比率とMetricalスコアにおいて優れていることがわかりました。