ファミマ事件から、特別委員会の社外取締役の役割

ファミリーマート株式公開買付にかかる株式買取価格決定申立事件
東京地裁決定2023年3月23日

この事件は、親会社である伊藤忠が子会社ファミマを完全子会社とするため、まず公開買付し、その後株式併合により少数株主をスクイーズアウトするスキームをとったところ、スクイーズアウトの株主総会議案に反対したオアシスを含む少数株主らから、ファミマに対し公正な価格での買取が要求され、協議が整わず、双方から裁判所に対し、価格決定の申立てがなされた事件である。

東京地裁の決定文は長文であるが、裁判所の判断の枠組み、一般に公正と認められる手続、公正な価格の算定を記載する3箇所に分けることができる。そして、一般に公正と認められる手続の中では、特に特別委員会が役割を果たしたか、が真っ先に取り上げられている。社外取締役が特別委員会の委員となった場合、何に注意すべきか、参考となる点を多く含むので、ここでは、この箇所に限って、キーポイントを紹介する。

東京地裁決定はファミマの特別委員会に非常に厳しく、その役割を十分に果たしたものとは評価することができない、とした。ただし、決定について双方とも抗告中であり、東京高裁において地裁とは異なる判断がなされる可能性はある。

メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか? 2022年(1)〜 ボードプラクティス編

Metricalは東証一部上場会社を中心に時価総額が約100億円を超える約1,700社を対象にコーポレートガバナンスの評価を毎月アップデートしています。今年も昨年に続きこの1年間でどれくらい上場会社のコーポレートガバナンスの取り組みが進展したか見ていきたいと思います。

これから下記に示すチャートは2020年12月、2021年12月および2022年12月の過去3か年におけるMetricalユニバース約1,700社の各評価項目の推移を示しています。Metricalは評価項目をボードプラクティスとキー・アクションに分けて分析しています。今回はボードプラクティス編です。それでは順に見ていきましょう。

最初のチャートはMetrical CGスコアの分布図です。Metrical CGスコアは多数のコーポレートガバナンスの評価項目を網羅した上場会社の総合的なコーポレートガバナンスの評価を示すものです。2022年12月のスコア分布は紫色の棒で示されています。の分布は2020年12月、2021年12月、2022年12月と年を追うごとに棒の分布が右方向(スコアの高い方)に移動していることがわかります。2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂と2022年の東証の市場再編を受けて、上場会社がそれらに対応するために、コーポレートガバナンスの取り組みを進めたと推測することができます。下記でその中身について評価項目ごとに見てみましょう。

メトリカル:創業者ファミリー企業と他の会社との経営戦略の違いの背景にあるのは持株

10月14日の日経新聞に「「逆張り創業者ファミリー企業株」の磁力:危機下も攻め、コーポレートガバナンスが課題」との記事が掲載されていました。当該記事の論点について、考えてみたいと思います。

10月14日の日経新聞の記事の概略は次のように報じています。
危機下でもひるまず「逆張り戦略」に動いた創業者ファミリー企業が投資家を引き付けている。経営の意思決定が速く、COVID-19パンデミックで出店拡大などを進めた企業は業績回復の爆発力も大きく、株式市場で異彩を放っている。長年の課題だったガバナンスの弱さにもメスが入り、先手を打つ企業にマネーが集まる。

10月14日の東京市場で日経平均株価は大幅反発し、前日比853円高で終えた。昨年末比でみれば6%安。米利上げ継続や景気後退への懸念は強く、神経質な相場環境が続く。そんななかで株価が右肩上がりで推移し、上昇率が2倍以上の株価上昇を達成した銘柄が貸会議室大手のティーケーピーだ。コロナ禍で対面イベントの減った2021年2月期は上場以来初の最終赤字に転落。人件費や地代家賃など固定費を減らしつつ、裏では攻めの手を緩めなかった。割安になった優良物件などの仕入れを積極化した。こうした「逆張り経営戦略」がいま結実している。行動制限の解除で需要が戻り、2022年3~8月期は同期間として3年ぶりに営業黒字を回復。同社の河野貴輝社長は10月13日の決算説明会で「スペースを貸すだけでなく(配信サービスなど)コンテンツも提供して付加価値を高める」と意気込む。

中古車販売のネクステージも果敢にリスクを取った企業の一つだ。コロナ初期には在庫増に苦しんだものの出店はやめなかった。買い取りや整備、車検サービスを一括で提供する大型の「総合店」は2022年8月末で51店舗と、2019年11月末から2.4倍に拡大。優良顧客の取り込みで利益率が向上した。

両社に共通するのは、主要株主が経営者やその一族で構成される創業者ファミリー企業である点だ。危機下でも攻める企業を発掘する投資家が注目している。日興アセットマネジメントの「ジパング・オーナー企業株式ファンド」を運用する北原淳平シニアファンドマネージャーは「創業者ファミリー企業は意思決定の速さと大胆な経営戦略が強み」と指摘。「経営者と株主の視点が一体で、危機下でも利害関係者を納得させやすい」と分析する。

論点1:「創業者ファミリー企業は意思決定の速さと大胆な経営戦略が強みで、経営者と株主の視点が一体で、危機下でも利害関係者を納得させやすい」

創業者は元々リスクをとって事業を拡大させて上場会社になった経緯があります。創業者であればリスクテイクが事業拡大のチャンスであることをよく知っています。常識にとらわれない発想と戦略もとても必要な要素であると考えていても不思議はありません。また、創業者およびその家族は自社の株式を相当割合で保有しているため、自身が大株主であることから他の株主と同じ目線で経営しているということができ、他の株主とsame boatで企業価値の最大化という同じ目標を共有しやすい立場にあります。キーは持株にあると思っています。

Why Leaders Must Adapt To Evolving ESG Demands

By Helle Bank Jorgensen, CEO of Competent Boards

Earlier this year, I took part in a fascinating session with the World Economic Forum as part of the New Champion Dialogues 2022 series. Hosted by Olivier Schwab, Managing Director at WEF, I was joined by Anushka Bogdanov, Chair and founder of Risk Insights and Jason Jay, Senior Director at MIT Sloan School of Management. 

The discussion focused on the rapidly changing picture of environmental, social and governance (ESG) requirements for companies as they come under increasing pressure from stock markets to provide transparent, measurable and comparable data on their activities. 

And let’s not forget pressure from employees, suppliers, customers and other societal stakeholders. ESG risks and opportunities are a fast-moving field, with new regulations and expectations coming thick and fast. 

It starts and ends with the board of directors

For companies that want to effectively adapt to these evolving ESG requirements, including climate change, that process must start and end with the board of directors. ESG and climate change are areas where board directors cannot provide oversight if they don’t have the insight.

Unfortunately, today’s boards are not as ready as I believe they should be if we want future-fit organizations.

メトリカル:5月の株式相場はインフレ指標の上昇鈍化を好感した米国株式相場の上昇を受けて月前半の値下がりを取り戻して取引を終えた。CG Top20株価は弱気相場の中でTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対してアンダーパフォーマンス。

月前半は米国金利上昇懸念から弱含んだ米国市場を受けて株式相場は低迷した。月末は米国インフレ指標のピークアウト期待から大きく上昇した米国株式を受けて、月前半の値下がり分を取り戻して取引を終えた。5月1ヶ月間のTopixとJPX400の両株価指数は0.78%および0.82%とそれぞれ反発。一方、CGレーティング・スコア上位のCGTop20株価は-0.19%と、両インデックスに対してアンダーパフォーマンス。

先見の目:「これからの日本におけるコーポレートガバナンス」(立石信雄(オムロン株式会社代表取締役会長、2001年)

(訳20年前に書かれました。)「…これまで一般に言われてきた日本企業のコーポレートガバナンスの特徴を要約すると、①内部昇進者による取締役会・監査役会の運営、②企業間の株式持合による安定株主化、③メインバンクによる支援体制、といった点があげられる。これらの仕組みは、敵対的な買収を防止し経営の安定化を促進し、企業の長期的な戦略立案を可能にするなど、日本的経営が成功した要因の一つとして評価されてきた。

しかし、取締役や監査役の大部分が内部昇進者で占められ、社長が両者の実質的任免権を持つことにより、取締役会や監査役が利害関係者の集団にとどまってしまい、企業トップ自身が不祥事に深く関わるような場合には、経営に対するチェック機能が働かないという深刻な問題が浮き彫りになってきた。また、株式持合の進行により、互いの経営内容について口を挟まぬ「物言わぬ株主」を増加させ、資本市場からのチェック機能の不全化も招いた。このような経営のチェック機能の弱体化と併せて、株主の権利の軽視や低い投資収益率についての批判もなされるようになった。

九州旅客鉄道株式会社の株主のみなさまへ

ファーツリー・パートナーズ(以下「ファーツリー」といいます。)は、九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」といいます。)の社外取締役として私を選任する株主提案を提出しました。この株主提案の提出は、JR九州の新規株式公開以来、最も長期にその株式を保有するアクティブタイプの最大株主であるファーツリーが、同社に適した新たな取締役候補者を探し出すための対話を同社と重ねてきた末のものです。私は、私のこれまでの専門的な経験と知識が、JR九州の取締役会の現在のニーズに合致しているという信念に基づいて、指名を受けることを承諾しました。特に、私は投資家と企業との対話を重視しており、そのためにアナリストおよび会社役員の両方の経験を役立てることができると考えています。

4月中旬に、私はJR九州の経営陣が何か月もの時間をかけて審査と面談を行った結果、結局は、ファーツリーと検討した全ての候補者を採用しないと決定したことを知り、驚きました。この時に、私はファーツリーから、今年の定時株主総会で提出する株主提案の取締役候補者になるよう依頼されました。日本では、株主提案の候補者が取締役に選任される例はまだ多くありません。それでも、私は株主提案の候補者となることを決心しました。有効なガバナンス及び完全に独立した社外取締役の役割の重要性を強く認識しているからです。ここ数か月でJR九州についてさらに学んだ結果、私は社外取締役として、同社の取締役会に多様性および多角的な視点を提供し、さらにアナリスト、ファンドマネジャー、IR専門職、ガバナンスを担当する会社役員として培った専門性をもってJR九州の取締役会に貢献できると考えるに至りました。私は、JR九州が直面している新型コロナウイルス感染症が引き起こした数々の困難な課題に対処し、同社が本来の力を発揮するためのお役に立てるものと信じています。

また、私は、私がファーツリーから完全に独立していること、ファーツリーに対しても常にそれを伝えていることを公にお伝えしたいと思います。ファーツリーは、外部の人材調査会社を通じて私に連絡をしてきました。それまで私は、ファーツリーの方を誰一人として知りませんでした。私とファーツリーとの間には金銭的な取り決めは一切行われておりません。私がJR九州の取締役として選任された後も、ファーツリーとは独立した関係を保ちます。私はファーツリーの意見を、保有株数に関係なく、他の株主のみなさまからのご意見と同じように扱い、検討します。

私がJR九州の取締役に選任されたなら、広い視野を保ち、偏見を持たないようにいたします。全ての取締役会の付議事項について、公開および非公開の情報を収集して自分自身の意見を持った上で、他の取締役と協議し、経営陣および株主のみなさまのご意見を考慮して、慎重に判断いたします。全てのステークホルダーにとってベストになるような決定を、十分な情報を踏まえて行えるよう尽力いたします。

コロナウィルスが開く新時代・バーチャル株主総会

経産省から、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が2020年2月26日発表された。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html
バーチャル株主総会とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいう。インターネット等の手段とは、物理的に株主総会の開催場所に臨席した者以外の者に当該株主総会の状況を伝えるために用いられる、電話や、e-mail・チャット・動画配信等のIT等を活用した情報伝達手段をいう。

取締役候補者からのキリンHDの株主へのメモ

インデペンデントフランチャイズパートナー(IFP)は、菊池 加奈子氏(経験豊富なグローバル製薬幹部)と私を独立社外取締役として指名する株主提案をキリンホールディングス(KH)に提出しました。Glass Lewisは二人の選任を支持していますが、ISSは中途半端な「妥協」をして菊地氏の人材価値を認めながら、どういうわけか私だけを支持しているようです。

ですが現実問題として、投資家が菊地氏を支持してくだされば、取締役会がキリンホールディングスの企業戦略について十分な業界知識・情報・分析に基づいた客観的かつ独立した継続的評価を実際に行う確率が高くなります。このような客観的な評価はキリンホールディングスの将来価値向上には不可欠でしょう。

二人ともIFPとは以前から関係は一切なく、IFPの他の株主提案とも関係がありません。それらの提案については、中立的・独立した姿勢をとっています。 株主が配当提案を支持しない場合、我々が取締役会に参加し、質問できる状態になり、内部分析および機密情報が明らかになるまで、戦略に関する決定を保留することが最も賢明であると考えています。したがって、すべての事実を知る前に事前に決定することなく、二人は取締役会に参加するーこれが、真に独立した取締役として取ることができる唯一の論理的な方法です。私の個人哲学と法的義務はすべての株主に答えることであります。IFPがこれまでに取った、あるいは将来取る可能性のある立場に同意できない可能性があることはIFPに明確な形で伝えています。 IFPはこれで問題はないとしています。(もちろん、逐一IFPの「許可」を得る必要は全然ありませんが。)

多くの投資家は、今こ菊地氏の知識および経験が必要とされているのにも関わらず同氏が選任されなければ、取締役会にグローバルなバイオファーマ企業で経験を持つ人が一人もいないことに気付いていないかもしれません。キリンホールディングスはヘルスサイエンス・バイオファーマなどの分野へ事業の多角化を目指す成長戦略を考えれば、この状況は賢明ではなく、私にとって大きな懸念です。

IFP ― キリンホールディングス Webinarの聴衆からのコメント

Bagle より:2020年3月13日 9:42 pm

フランチャイズパートナーが公表した「キリンホールディングス株式会社 キリンの経営陣はなぜKV2027について独立性のある検証を恐れているのか?(2020年3月)」45ページは役員報酬についての問題点を指摘し修正を提案している。

三菱UFJ信託による信託型株式報酬の修正が総会議案となっているが、グローバルなコーポレートガバナンス の常識からは、以下が問題点と考える。

社外取締役・報酬委員会委員の永易 克典氏は三菱UFJフィナンシャルグループの出身で、グループ会社である信託銀行が信託型株式報酬に関与しており、利益相反の可能性が存在している。この意味では、報酬委員会委員の独立性欠如の可能性が存在する。