GPIFの「2019年度 ESG活動報告」が刊行されました

「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、次世代も含めた被保険者の皆様の利益のため、長期的な観点から積立金を運用しています。国内外の様々な企業・発行体に幅広く投資するGPIFにとって、国民の皆様からお預かりした年金積立金を長期的に増やしていくためには、市場全体の持続的かつ安定的な成長が不可欠です。そのため、投資先企業のガバナンスの改善に加え、環境・社会問題などによる負の影響を小さくすること、つまり、投資におけるESG(環境・社会・ガバナンス)の考慮を通じ、ポートフォリオの長期的なリスク低減やリターンの向上を目指しています。

GPIFはこうした認識に基づきESGに関する取組みを積極的に行っていますが、その取組みと効果を国民の皆様にご報告するため、今年で3回目の発行となる「ESG活動報告」を刊行しました。昨年度開始した「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)の提言を受けた分析について、今年はさらに分析対象を広げ、気候変動によるリスクと機会の資産横断的な評価にチャレンジしました。

GPIFでは、ESG活動が期待通りに金融市場の持続可能性やリスク調整後のリターンの向上につながっているのかを測定し、長期的な効果の検証につなげていきたいと考えています…」

キャシー松井さん「ウーマノミクス20年の軌跡とこれから〜現場へのヒント」動画

2020年8月5日、ゴールドマン・サックス証券株式会社 副会長のキャシー松井さんをお招きし、「ウーマノミクス20年の軌跡とこれから〜現場へのヒント」と題したウェビナーを開催いたしました。

安倍政権が成長戦略の柱として推し進めている「女性活躍推進」は大きな関心を集めるテーマです。当機構の使命といたしましても多くの方々に知ってもらいたいと思い、今回ウェビナーの動画をアップすることといたしました。ご参加いただいた方はご質問の機会や資料の配布等の特典もございましたので何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。

(「続きを読む」をクリックすると動画がご覧いただけます。)

「経済財政運営と改革の基本方針2020」と「成長戦略実行計画」

7月17日、政府は、令和2年第11回経済財政諮問会議および第41回未来投資会議を合同で開催し、「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針)」と「成長戦略実行計画」が取りまとめられました。

経済財政運営と改革の基本方針2020のポイントはコロナ禍と防災対策であり、新型コロナウイルス感染症の拡大が続くなかで、デジタルを活用した“新たな日常”の実現を強く打ち出しました。

コーポレート・ガバナンス改革の推進に関しては、成長戦略フォローアップ案(42ページ)に主に下記のように言及されています。

・「コーポレートガバナンス・コード」について、更なる中長期的な企業価値の向上を目指し、事業ポートフォリオ戦略の実施など資本コストを踏まえた経営の更なる推進(上記ⅲの事業再編を促進するための実務指針との連携も検討する。)、上場子会社の取扱いの適正化を含むグループ・ガバナンスの強化、監査の信頼性の確保、中長期的な持続可能性(サステナビリティ)についての考慮や社外取締役の質の向上などの論点につき検討を行った上で 2021 年中に改訂を行う。

・その際、東証の市場改革において高い時価総額・流動性とより高いガバナンスを備え投資家との建設的対話を中心に据えて中長期的な企業価値向上にコミットする企業が参加する市場(プライム市場(仮称))に上場することを予定する企業については、今後、「コーポレートガバナンス・コード」等の改訂等を重ねるごとに他の市場と比較して一段高い水準のガバナンスを求めていくこと等により、我が国を代表する投資対象としてふさわしいガバナンスの水準を求めていく必要があることから 2022 年4月の市場構造改革実施に向け、2021 年中に改訂が予定されている「コーポレートガバナンス・コード」において一段高い水準のガバナンスを求めることとする。

取締役・監査役のトレーニングは言及されず

ウェビナー『ウーマノミクス20年の軌跡とこれから〜現場へのヒント』(2020.08.05 )

「ウーマノミクス」という言葉がキャシー松井さんによって日本に紹介されてから20年余が経過しました。1999年56%だった日本の女性就業率は、2019年には71%に達して米国(66%)を追い抜きました。さらに就業率が日本の男性と同じレベル(83%)まで上昇すれば、日本のGDPを10%押し上げる可能性があると言われています。

今回、長年にわたるBDTIの支援者である松井さんをお招きし、日本の到達点と将来像についてお話いただきます。ウーマノミクスがアベノミクスの重要な一角となった背景には、キャシー松井さんのアドバイスがあったことは皆様ご承知の通りです。BDTIも、企業のリーダー層のダイバーシティと財務パフォーマンスとの相関等について、多くの示唆を頂いてきました。BDTI代表理事のニコラス・ベネシュも加わって、データの示すダイバーシティの効果についてご紹介します。

他方で、女性登用を進めたい企業や上司の方々には、特有の悩みがあるというのもよく聞く話題です。キャシー松井さんがこの度上梓された「ゴールドマン・サックス流女性社員の育て方、教えます」(中公新書ラクレ2020.7.8)は、そのような経営上の悩みへのヒントになります。労働法を専門とする弁護士の市川佐知子がお話を伺います。本では触れられていない、キャシー松井さんご自身の一人の女性としてのキャリア形成や、法と現実の狭間、女性を育てる現場の本音等に迫ります。

(上田亮子) 「政策保有株式の現状とコーポレートガバナンス~現状とガバナンス上の問題~ 第2回」

抜粋:「各国における上場子会社の状況を比較している(図表3)。これによれば、他の主要市場と比べると、我が国市場における従属会社の上場数が顕著に多いことが示される。欧州大陸のフランスおよびドイツでは、支配株主が50%以上保有する会社(親会社の子会社)が上場企業数のうち2%程度、支配株主が30%以上保有する従属会社も3%程度存在している。しかしながら、米国と英国ではいずれの比率も1%未満であり、ロンドン市場では子会社上場は存在しない。」[日本は10.73%です。]

「上場子会社とそれ以外の会社におけるガバナンス体制を示している(4)(図表7)。社外取締役、社外監査役の人数は、上場子会社の方が、それ以外の会社よりもわずかに少ない。

図表7:上場子会社とそれ以外の会社における取締役会体制(人数比)

先見の目:「これからの日本におけるコーポレートガバナンス」(立石信雄(オムロン株式会社代表取締役会長、2001年)

(訳20年前に書かれました。)「…これまで一般に言われてきた日本企業のコーポレートガバナンスの特徴を要約すると、①内部昇進者による取締役会・監査役会の運営、②企業間の株式持合による安定株主化、③メインバンクによる支援体制、といった点があげられる。これらの仕組みは、敵対的な買収を防止し経営の安定化を促進し、企業の長期的な戦略立案を可能にするなど、日本的経営が成功した要因の一つとして評価されてきた。

しかし、取締役や監査役の大部分が内部昇進者で占められ、社長が両者の実質的任免権を持つことにより、取締役会や監査役が利害関係者の集団にとどまってしまい、企業トップ自身が不祥事に深く関わるような場合には、経営に対するチェック機能が働かないという深刻な問題が浮き彫りになってきた。また、株式持合の進行により、互いの経営内容について口を挟まぬ「物言わぬ株主」を増加させ、資本市場からのチェック機能の不全化も招いた。このような経営のチェック機能の弱体化と併せて、株主の権利の軽視や低い投資収益率についての批判もなされるようになった。

九州旅客鉄道株式会社の株主のみなさまへ

ファーツリー・パートナーズ(以下「ファーツリー」といいます。)は、九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」といいます。)の社外取締役として私を選任する株主提案を提出しました。この株主提案の提出は、JR九州の新規株式公開以来、最も長期にその株式を保有するアクティブタイプの最大株主であるファーツリーが、同社に適した新たな取締役候補者を探し出すための対話を同社と重ねてきた末のものです。私は、私のこれまでの専門的な経験と知識が、JR九州の取締役会の現在のニーズに合致しているという信念に基づいて、指名を受けることを承諾しました。特に、私は投資家と企業との対話を重視しており、そのためにアナリストおよび会社役員の両方の経験を役立てることができると考えています。

4月中旬に、私はJR九州の経営陣が何か月もの時間をかけて審査と面談を行った結果、結局は、ファーツリーと検討した全ての候補者を採用しないと決定したことを知り、驚きました。この時に、私はファーツリーから、今年の定時株主総会で提出する株主提案の取締役候補者になるよう依頼されました。日本では、株主提案の候補者が取締役に選任される例はまだ多くありません。それでも、私は株主提案の候補者となることを決心しました。有効なガバナンス及び完全に独立した社外取締役の役割の重要性を強く認識しているからです。ここ数か月でJR九州についてさらに学んだ結果、私は社外取締役として、同社の取締役会に多様性および多角的な視点を提供し、さらにアナリスト、ファンドマネジャー、IR専門職、ガバナンスを担当する会社役員として培った専門性をもってJR九州の取締役会に貢献できると考えるに至りました。私は、JR九州が直面している新型コロナウイルス感染症が引き起こした数々の困難な課題に対処し、同社が本来の力を発揮するためのお役に立てるものと信じています。

また、私は、私がファーツリーから完全に独立していること、ファーツリーに対しても常にそれを伝えていることを公にお伝えしたいと思います。ファーツリーは、外部の人材調査会社を通じて私に連絡をしてきました。それまで私は、ファーツリーの方を誰一人として知りませんでした。私とファーツリーとの間には金銭的な取り決めは一切行われておりません。私がJR九州の取締役として選任された後も、ファーツリーとは独立した関係を保ちます。私はファーツリーの意見を、保有株数に関係なく、他の株主のみなさまからのご意見と同じように扱い、検討します。

私がJR九州の取締役に選任されたなら、広い視野を保ち、偏見を持たないようにいたします。全ての取締役会の付議事項について、公開および非公開の情報を収集して自分自身の意見を持った上で、他の取締役と協議し、経営陣および株主のみなさまのご意見を考慮して、慎重に判断いたします。全てのステークホルダーにとってベストになるような決定を、十分な情報を踏まえて行えるよう尽力いたします。

取締役会の評価制度と経営者との連携

今日の企業取り巻く厳しいビジネス環境において、取締役会はどのようにビジョンを描き、自社を成功に導くことができるだろうか。取締役会および経営者に対する評価制度は、現在もまだ十分に活用されているとは言えないが、これこそが企業トップ層の最適化に向けて容易かつ迅速に活用出来る取り組みである。

遡ること20年前、取締役会および経営者の評価制度を採用している企業は殆ど皆無であった。 当時の取締役会と経営者の関係性とは、経営者がビジョンを描き、取締役会はそれを忠実に実行することを意味していた。しかしながら、エンロン事件後、ビジネスの世界において、米国のSarbanes-OxleyやDodd-Frank、また英国のガバナンスコードなどの規制が取締役会の在り方に大きく影響し、評価制度を導入する企業や(既に導入している場合)評価制度を更に改善する取り組みが増加した。

そして、評価制度は株主の注目を集めるようになり、これによって機関投資家は企業に対して取締役会の最適化をより一層求めるようになった。今日、評価制度は、ESGやSBP(Sustainable Business Practice)など長期的にビジネスに影響する課題に対して企業のリーダー達がどのように取り組んでいるかを市場へ示すための指標となっている。

評価制度は、以下の取締役会の任務を常に優先課題として認識する上で有効である。

1.企業リーダーとしての能力判定および維持
2.取締役会の構成および再構成
3.企業戦略に対する同意と支援
4.会社のリスクプロファイルの監視
5.より重要な課題に取り組むための時間配分

では、企業はどのように評価を開始すればよいのだろうか。

オリンパス事件を参考に考える公益通報者保護法改正案

現行の公益通報者保護法は2004年に制定、2006年に施行された。三菱自動車によるリコール隠しや雪印食品による牛肉産地偽装がきっかけになったと言われている。しかし、施行当初から、その保護対象事実の狭さや、報復禁止の実効性の乏しさなど、不十分さが指摘されていた。国会の付帯決議や法律の附則に基づき、消費者委員会公益通報者保護専門調査会が設置され、改正議論がなされていたが、その速度は遅々としたものであった。2018年12月に同調査会報告書がようやくまとまり、対象となる法律を定める別表についてのパブリックコメント募集を経て、2020年3月9日に改正法案が閣議決定を受け、国会に上程される運びとなった。

法案の主な改正点には、次のようなものが含まれる。

メトリカル:ガバナンスプラクティスと変えようとする意思、企業風土

メトリカルでは女性取締役数を「いかに会社が変わろうとするのか」を測るうえでボードプラクティスの重要なファクターの一つと位置付けてきました。下の表は2020年3月末で1,755社について、女性取締役数と主なパフォーマンス指標であるROE (実績ベース)、ROA (実績ベース) および トービンのQ との相関分析を示しています。当ファクターは2017年に相関分析をBDTI と行ってきて以来、ROE (実績ベース)と統計的に有意性のある正の相関があることが確認されていました。そして、12月決算会社の年次株主総会後のデータがアップデートされた3月の分析では、当ファクターは新たにROA (実績ベース)とも有意性のある相関があるサインを示しています。 

私たちが当ファクターをコーポレートガバナンス評価のキーファクターと考えた理由は、当ファクターがパフォーマンス指標ばかりでなく、下表のとおりボードプラクティスを評価する際の他のファクターと有意性のある相関が確認されているからです。