メトリカル:CG Top20株価パフォーマンス(2022年9月)

9月の株式相場は金利の上昇を嫌気した欧米株式相場の下落により、下落して取引を終了した。CG Top20株価は1ヶ月間ではTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対してアウトパフォーマンス。

インフレを背景に米国の金融引き締めの長期化予想によるリセッション懸念から、大きく下落した米国株式相場を嫌気して、9月の株式相場は下落した。さらに、日銀の円買い介入した9月22日以降は、比較的値を保っていた日本株式相場にも弱さが目立った。TOPIXおよびJPX400の両株価指数がそれぞれ-6.83%および-6.96%に対して、CG Top20株価は-4.93%の下落にとどまり、大きくアウトパフォーマンス。2014年以来の長期間で見ると、CG Top20株価は両インデックスに対し年率2%程度のアウトパフォーマンスを継続。なおCG Top20は7月1日より構成銘柄が見直されました。新たな個性銘柄は下記の表の通り。

メトリカル:プライム市場の経過措置適用会社:バリュエーションを高めるために

・プライム市場の経過措置適用会社の「計画」は十分なのか?

4月から始まった東証市場区分再編に伴い、各上場会社は選択する市場を開示しました。現在の東証一部上場会社でプライム市場を選択したもののプライム市場の上場基準を充足できない会社は1,841社のうち296社が「経過措置」によって当面のプライム市場上場が認められています。プライム市場の上場基準の主なものは流通株式比率35%以上と流通株式時価総額100億円以上で、経過措置が適用されてプライム市場に上場する予定の会社の多くは後者の流通株式時価総額100億円以上を充足できていない場合が多いようです。これらの会社は「計画書」を開示して、経過措置の適用を受けています。その計画書の内容は、中期的な数値目標を提示して、目標達成のための施策を記載するものです。流動株式比率が不足する会社の場合には持ち合い株式の解消が主な施策になります。経過措置適用会社が抱える問題は流通株式時価総額であることが多く、その増加に関して特効薬はありません。「計画書」を見る限り、そのような会社の多くは企業価値の成長と株主還元の充実を掲げて、それが時価総額の拡大に結びつくストーリーを描こうとしています。企業価値の成長と株主還元の充実は株主・投資家にとってとても重要なテーマです。これらの施策の具体性、蓋然性が整って初めて、株主・投資家との十分なコミュニケーションが図られます。これらの施策が株主・投資家の賛同が得られた場合には、おそらくバリュエーションに変化がもたらされるのではないかと思います。バリュエーションは企業価値の成長の将来キャッシュフローにビルトインされていると考えることができますから、しっかりとした成長の見通しとキャッシュフローのアロケーションが求められるべきです。このことは経過措置が適用されている会社だけでなく、すべての上場会社にとっても同様です。今回は時価総額を決定する重要なファクターの一つであるバリュエーションを向上させるためのヒントを探ってみたいと思います。

バリュエーションを高めるために有効なファクターを探る
まず、Tobin’s qが上昇した会社はどのような傾向があるかを検証します。Metricalユニバースの2020年12月末から2022年2月末までの期間で比較可能な1,487社を用いて、当該期間にTobin’s qの変化と有効なファクターを探ってみます。

下表は、2020年12月末から2022年2月末までの期間のTobin’s qの変化とプロファイルおよびKey Performance Indicatorsの変化の間の相関分析を示しています。当該期間において、Tobin’s qの変化は時価総額の変化および外国人持株比率の変化と有意性のある正の相関が示されています。このことから、Tobin’s q(バリュエーション)の変化は時価総額の変化と外国人持株比率と関係が深いことが確認されます。また、Tobin’s qの変化は現金同等物の変化および総資産の変化と有意性のある負の相関が示されています。当該期間において、Tobin’s qを上昇させた会社は現金同等物と総資産を減少させた傾向があったことがわかります。

メトリカル:CG Top20株価パフォーマンス(2022年8月)

8月の株式相場は米国金融引締め早期終了期待から上昇した米国株式相場を受けて月前半まで大きく上昇。月後半から月末にかけては米国金融引き締め長期化け年から下落した米国株式相場を受けてボラティリティの高い相場展開。CG Top20株価は1ヶ月間ではTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対して、アウトパフォーマンス。

8月中旬までは米国経済リセッション観測から米国金融引締めの早期終了を期待して上昇した米国株式市場を好感して株式相場は上昇した。月後半には米国FEDの金融引締め長期観測懸念から相場の変動率が上昇した。
TOPIXおよびJPX400の両株価指数の8月の1ヶ月間のパフォーマンスは、それぞれ1.53%および1.33%の上昇。CG Top20株価は1.66%%の上昇し、両インデックスに対してアウトパフォーマンス。7月1日に見直されたCG Top20の構成銘柄は下記の表の通り。

メトリカル:株式リターンに有効なファクターは何か?

会社経営者と株主双方の共通の目的は会社の企業価値の持続的成長です。投資家にとってはそのような会社を見つけることが重要な目的です。これを探るために、今回はMetricalユニバースの2020年12月末から2022年2月末までの期間で比較可能な1,487社を用いて、当該期間に時価総額の変化と有効なファクターを探ることにしました。

下表は、2020年12月末から2022年2月末までの期間の時価総額の変化とプロファイルおよびKey Performance Indicatorsの変化の間の相関分析を示しています。当該期間において、時価総額の変化は総資産の変化、外国人持株比率の変化およびTobin’s qの変化と有意性のある正の相関が示されています。このことから、時価総額が増加した会社は総資産が増加し、外国人持株比率が上昇し、Tobin’s qが上昇した傾向が示されています。時価総額が増加する背景には、バリュエーションを表すTobin’s qが上昇することは理にかなっています。海外投資家の売買が存在感を持つ東京株式市場では外国人持株比率の変化と時価総額に変化に相関があることも自然なことです。総資産の変化と時価総額の変化との相関に関しては収益の拡大をサポートする資産の増加が背景にあることが要因の一つかもしれませんが、これについては検討の余地があります。一方で、時価総額の変化は現金同等物の変化、ROEの変化およびROAの変化とは有意性のある正の相関が示されませんでした。当該期間においては過去3年間の実績ベースの収益力の変化はあまり時価総額の変化に影響しなかったということがわかります。

メトリカル:CG 株価パフォーマンス CG Top20 vs. Topix, JPX400(2022年7月末)

7月の株式相場は米国株式相場の堅調に支えられ、月後半からは戻りを試す展開となった。今月から年1回の構成銘柄が変更されたCG Top20株価は1ヶ月間ではTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対して、若干のアンダーパフォーマンスながらも長期間ではアウトパフォーマンス継続。

7月中旬には米国経済のリセッションを予想した長期金利の低下を背景に米国相場が上昇したことから、月後半から株式相場は堅調な展開になった。TOPIXおよびJPX400の両株価指数がそれぞれ3.74%および3.90%に対して、CG Top20株価は3.19%の上昇にとどまり、若干のアウトパフォーマンス。2014年以来の長期間で見ると、CG Top20株価は両インデックスに対し年率2%程度のアウトパフォーマンスを継続。なおCG Top20は7月1日より構成銘柄が見直されました。新たな個性銘柄は下記の表の通り。

メトリカル:自己株式消却に関する考察

プライム市場の上場基準によって自己株式を消却に動く会社が少しずつ増えていることは皆様ご案内のことと思います。また、以前の記事で、自己株式を3度以上消却した会社はコーポレートガバナンスの取り組みにも前向きであることもMetricalの分析でわかってきました。

自己株式消却がコーポレートガバナンスの取り組みとパフォーマンスの改善が車の両輪のようにお互いに好作用を及ぼしている兆候であるとすれば、とても歓迎すべきことです。自己株式消却という実際に会社がとった行動がコーポレートガバナンスとどのように関連しているのか、さらに考えてみたいと思います。

下表はMetricalユニバース(1/2022現在)の自己株消却の頻度とROE、ROA、トービンのqとの相関を示しています。前回の記事でもお示ししました通り、自己株式消却の頻度とROEおよびROAと有意性の高い正の相関関係が確認されていることから、自己株式消却の頻度が多い会社ほどROEおよびROAが高いことがわかります。自己株式を消却するには自己株式を買い戻しているので、ROEおよびROAにとってはポジティブに作用することから、この結果は合理的に思われます。一方で、トービンのqと自己株式消却の頻度は有意性のある相関は示されていません。自己株式消却の頻度が多い会社ほど株価の評価が高いわけではないということですから、自己株式を消却する会社は株価の評価と関係があまりないということを意味しています。自己株式を消却する前に自己株式を買い戻しているわけですが、自己株式の買い戻しを実行する時にトービンのq(P/B)を会社が考慮して判断するわけでないことから、この結果も妥当であるということができます。逆に時価総額の変化率(12/2021-1/2022)と自己株式消却の頻度は有意性の高い正の相関関係が確認されていることは興味深い結果です。株価の割高・割安に関しては自己株式消却の頻度は相関がなくとも、12/2021-1/2022の期間で時価総額の変化率と関係があるということです。この13ヶ月間の期間では、自己株式消却の頻度が多い会社ほど時価総額が増加したことを示しています。この期間で自己株式消却は時価総額の増加と関係があったことが示されました。

メトリカル:6月の株式相場も米国株式相場の上下動によって、上昇と下落を繰り返し、方向感のない取引で終えた。CG Top20株価は、TOPIXおよびJPX400の両株価指数が下落する一方で、大きくアウトパフォーマンス。

6月中旬には米国CPIの上昇から下落した米国相場を受けて値下がりした後、月後半には値頃感からの反発局面の継続が期待されたものの、手掛かり材料難から月末にかけては方向感を欠く取引に終始した。
TOPIXおよびJPX400の両株価指数がそれぞれ-2.08%および-2.42%と下落する中、CG Top20株価は+1.03%上昇し、両株価指数に対して大きくアウトパフォームした。

メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか2021年(5)- 独立取締役比率の変化

前の記事「How far has corporate governance progressed in 2021 (4)」で、Metricalユニバース1,704社の2020年12月および2021年12月時点のROAおよびROEのそれぞれの変化率でコーポレートガバナンス・プラクティスの各評価項目について相関を分析について述べました。その分析結果では、コーポレートガバナンス・プラクティスをボードプラクティスと会社の実際の行動を表すキー・アクションで分けた場合、ROAおよびROEはともにキー・アクションとは有意性のある相関が確認されましたが、ボードプラクティスとは有意性のある相関は見られませんでした(下表参照)。このことから、2021年の分析期間では、会社の利益が増加して好業績が自信につながったことがボードプラクティスを改善するインセンティブにならなかったという推論ができます。会社はボードプラクティスを改善する何か別の動機があったのではないかとお伝えしました。

メトリカル:5月の株式相場はインフレ指標の上昇鈍化を好感した米国株式相場の上昇を受けて月前半の値下がりを取り戻して取引を終えた。CG Top20株価は弱気相場の中でTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対してアンダーパフォーマンス。

月前半は米国金利上昇懸念から弱含んだ米国市場を受けて株式相場は低迷した。月末は米国インフレ指標のピークアウト期待から大きく上昇した米国株式を受けて、月前半の値下がり分を取り戻して取引を終えた。5月1ヶ月間のTopixとJPX400の両株価指数は0.78%および0.82%とそれぞれ反発。一方、CGレーティング・スコア上位のCGTop20株価は-0.19%と、両インデックスに対してアンダーパフォーマンス。

メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか2021年(4)- ROAとROEの変化率とコーポレートガバナンス・プラクティス

前の記事「How far has corporate governance progressed in 2021 (3)」で、Metricalユニバース1,704社の2020年12月および2021年12月時点の時価総額の変化率とTobin’s q、ROAおよびMetricalスコアのそれぞれの変化率で相関を分析の結果について述べました。その分析結果は、下表の通り、時価総額の変化率とTobin’s qおよびROAおよびMetricalスコアのそれぞれの変化率において有意性のある正の相関が確認されたました。

今回のテーマは時価総額の変化率にはROEよりもROAと有意性のある正の相関が確認されたのはなぜか?に焦点を当てたいと思います。ご案内の通り、ROAは会社の収益力の言わば地力を示すものであるのに対し、ROEはその収益力に資本構成を変更することによって引き上げることができるから、ROAは業績改善によって直接的にインパクトがあるのに対し、ROEは業績向上に直接拠らずとも引き上げることができるということができます。本記事ではROAが改善した(然るに時価総額が増加する傾向がある)会社にコーポレートガバナンス・プラクティスの観点で何か変化があったのかを検証してみたいと思います。

Metricalユニバース1,704社の2020年12月および2021年12月時点のROAの変化率をコーポレートガバナンス・プラクティスの各評価項目において相関分析をしてみます。下表ではボードプラクティスとキー・アクションで分けて示しています。2021年の1年間のROAの変化率には、会社が実際に行動するキー・アクションの中の現金保有スコアと配当方針スコアが有意性のある正の相関、成長方針スコアとは有意性のある負の相関がみられました。会社はROAが1年間で変化したことによってボードプラクティスを変更する動機にはならないということができるかもしれません。一方で、キー・アクションに関してはROAが1年間で変化した場合に会社は配当を増やすことによって現金を減らした傾向があることが確認できました。ROAの変化率と成長方針との間に有意性のある負の相関があることに関してはさらに分析していく必要がありますが、利益の増加によってバランスシートに積み上がった現金を増配による株主還元に利用したものの、成長投資に現金を利用する面では説得力がまだ不足していると推測することができるのかもしれません。