メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか2021年(2)

上場会社のコーポレートガバナンスを改善する取り組みが2021年にどのくらい進んだかを数値を持って見ていきたいと思います。2022年4月の東証の市場区分の再編に伴い、2021年はコーポレートガバナンス・コードの改訂が行われました。その結果、改訂コーポレートガバナンス・コードの中で具体的に改善すべき事項として言及があった独立取締役比率と指名委員会および報酬委員会において、改善したことをあらためて確認しました。一方で、上場会社のコーポレートガバナンスを改善する取り組みも前に進むことが期待されます。その取り組みの成果によって、どのくらいコーポレートガバナンスが改善されたのかを数値を持って見ていきたいと思います。前の記事では、改訂コーポレートガバナンス・コードの中で具体的に改善すべき事項として言及がなかった評価項目、例えば取締役会の議長、女性取締役、買収防衛策に関してはほとんど改善していないか限定的な改善にとどまったことをご報告しました。

これから下記に示すチャートは、上場会社が実際にとったキー・アクションに関して、この1年間の上場会社の取り組みがどれくらい改善しているかをMetricalユニバース約1,700社で見ていきたいと思います。中でも、企業価値の成長に影響を左右するキャッシュの配分や資産の活用に注目して評価項目の変化を見ていきましょう。ボードプラクティスの改善は実際にとる会社の効果的なアクションにつながることが期待され、それがパフォーマンスの向上につながると期待しています。これまでの分析から、ボードプラクティス、キー・アクションの評価項目の中でパフォーマンスとポジティブな相関があることが確認されています。

最初のチャートは現金保有の評価を示すものです。売上高に対する現金同等物の比率が低いほどスコアが高くなるように設計されています。2021年12月の緑色の棒の分布は2020年12月のオレンジ色の棒の分布と比べるとスコアが低い左方に移っていることがわかります。売上高に対して現金保有の割合が上昇しています。成長投資のためにキャッシュが効果的に使われていないことが考えられます。他の評価項目について下記でもう少し詳しく見ていきましょう。

メトリカル:東証プライム市場上場基準と議決権電子行使プラットフォームの利用・英文開示

東証が市場区分を再編するに伴って、現在の一部市場に相当するプライム市場に求められる「より高いガバナンス水準」のガイドラインが示されています。

今回の記事では、議決権電子行使プラットフォームの利用・英文開示を取り上げたいと思います。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、補充原則1-2④および補充原則3-1②において、「議決権電子行使プラットフォームの利用・英文開示」において、プライム市場上場会社において、議決権電子行使プラットフォームの利用と英文開示を求めることが記載されました。

原文は次の通りです。補充原則1-2④「上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。」

補充原則3-1②「上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。」

要約すると、補充原則1-2④は、プライム市場上場会社は議決権行使を容易にするために、電子プラットフォームを利用可能とするべきであることと海外投資家に対しては招集通知の英訳を送付するべきであると明記したことです。補充原則3-1②は、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきであると明記されました。

補充原則1-2④では、「電子プラットフォームを利用可能とするべき」と議決行使の手段を特定されているので、プライム市場上場会社は次の株主総会までにこれを利用できる体制にしなければならないことになりました。招集通知を英訳して送付することは推奨事項なので、電子プラットフォームほどの緊急性はないので努力目標になっています。補充原則3-1②では、プライム市場上場会社には開示書類のうち必要とされる情報について英語での開示・提供を行うべきであるということですが、必要とされる書類とは何かに関して特定されていませんので、どの書類または情報が英訳必要なのかは、プライム市場上場会社の判断に委ねられています。筆者が英訳すべきであると考える情報の一つには、有価証券報告書があります。当該書類は法定書類なので、必要事項はすべて記載されています。注記も含めて本書類のすべてを英訳するべきです。海外機関投資家から特定の会社に関する質問をお受けする場合もありますが、有価証券報告書に記載してある事項も少なくないので(記載のない情報に関しては、当該上場会社に尋ねることになります)、投資家にとってはとても有益な情報が記載されている本書類が英訳されれば、海外機関投資家の利便性は格段に向上すると推察されます。現状では本書類を英訳している上場会社は極めて少数です。

これまでも以前の記事「Information Disclosure in English」において、上場会社の英語による情報開示の状況をお伝えしてきました。今回は上述のように、東証プライム市場上場基準に伴う議決権電子行使プラットフォームの利用と英文開示にフォーカスして、述べてみたいと思います。

メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか?2021年 〜 ボードプラクティス編

Metricalは東証一部上場会社を中心に時価総額が約100億円を超える約1,700社を対象にコーポレートガバナンスの評価を毎月アップデートしています。2022年4月の東証の市場区分の再編に伴い、2021年はコーポレートガバナンス・コードの改訂が行われました。上場会社のコーポレートガバナンスを改善する取り組みも前に進むことが期待されます。その取り組みの成果によって、どのくらいコーポレートガバナンスが改善されたのかを数値を持って見ていきたいと思います。

これから下記に示すチャートは2020年12月のMetricalによる各評価項目の評価と2021年12月のそれらの推移を示していて、この1年間の上場会社のコーポレートガバナンスの取り組みがどれくらい改善しているかを見ることができます。それでは順に見ていきましょう。

最初のチャートはMetrical CGスコアの分布図です。Metrical CGスコアは多数のコーポレートガバナンスの評価項目を網羅した上場会社の総合的な評価を示すものです。2021年12月の緑色の棒の分布は2020年12月のオレンジ色の棒の分布と比べるとスコアが高い右方に移っていることがわかります。コーポレートガバナンス・コードの改訂の影響もあって、上場会社がコーポレートガバナンスの取り組みを進めたと推測することができます。下記でその中身についてもう少し詳しく見てみましょう。

メトリカル:買収防衛策③ 買収防衛策を持っている会社のアンダーパフォーマンスの背景にあるものは何か?

前回の記事「メトリカル:買収防衛策② 株価パフォーマンスは?(BDTIデータを利用したMetrical分析)」では、現在でも買収防衛策を有している会社は上場会社全体で271社あり、当該271社の多くは株式時価総額が相対的に小さく、また、当該グループの5年間の株価パフォーマンスは各株価指数と比較してアンダーパフォームしていることが確認されました。

さて、今回はその前の記事「買収防衛策③」で立てた仮説の検証を試みたいと思います。買収防衛策条項を今も持っている会社の多くは株式時価総額が小さく、株式時価総額の成長が緩慢なペースである背景に何かあるのではないか。買収防衛策を保有していることを投資家に事前警告することによって、投資家が投資対象から外すこと以外に、当該会社の株価パフォーマンスが劣っていることには何かが関連していないか考えてみたいと思います。以前の記事では、会社の成長性の方針が明確でない、そのような成長方針を投資家に伝えきれていない、IRなどの機能を使いきれていないなどが複合的に関連しているのではないかと仮説を立てました。

そもそも事前警告型の買収防衛策があると投資家が投資を躊躇うために、当該会社の株価が低くなると言いこともできますが、東証の開示資料「White Paper on Corporate Governance2021」の次の考え方が参考になります。「買収防衛策を導入していない会社の中でその理由を説明している会社をみると、企業価値を高めることが最良の買収防衛策であると考え、現状では買収防衛策の導入を予定していないとの説明が大半である」との買収防衛策を保有していない会社の回答からも、上述の仮説と共通するところがあります。買収防衛策を保有している会社は企業価値を高めるための取り組みが十分でない一方で、買収防衛策を保有していない会社はその取り組みを実践する傾向があると推測することができます。

メトリカル:買収防衛策② 株価パフォーマンスは?(BDTIデータを利用したMetrical分析)

ポレートガバナンス・プラクティスを分析しました。その分析結果では、2014年以降で買収防衛策を株主総会の議案に提案したことが確認された会社421社のうち、現在は買収防衛策を採用していない会社のパフォーマンス指標としてのROE、ROA、P/B、コーポレートガバナンス・プラクティス指標としての独立取締役比率と女性取締役比率において、優れた数値を示していました。

今回は、当該データからもう少し分析を進めてみましたので、ご紹介したいと思います。BDTI様のデータにおいて、2014年以降で買収防衛策を株主総会の議案に提案したことが確認された会社は443社で、そのうち買収防衛策の議案が否決された会社は10社で、可決された会社が433社でした(下表参照)。このことからも分かるように一旦買収防衛策が議案として提案されると大方可決されることになります。可決されるか否決されるかは、会社の株主構成に依存し、主に外国人株主の持株比率に負うところが大きいと考えられています。東証の開示資料「White Paper on Corporate Governance2021」でも「外国人株式所有比率でみると、買収防衛策を導入している比率は30%以上の区分で2.7%と最も低く、前回調査より3.7ポイント減少している。また、20%以上30%未満の区分では9.2%と、前回調査より11.1ポイントと大きく減少している。筆頭株主の所有比率との関係をみると、筆頭株主の所有比率が低い区分で導入比率が高い傾向がみられるが、所有比率が5%未満の区分では13.8%と、前回調査より9.5ポイントと大きく減少した。」と述べています。

下表の通り、前回の分析でお示ししたように2014年以降で買収防衛策を株主総会の議案に提案したことが確認された会社433社のうち、今も上場している会社が421社あり、その中で買収防衛策を現在では保有していない会社が41%の173社、現在でも買収防衛策を保有している会社は59%の248社です。上述の通り、買収防衛策を現在では保有していない会社のパフォーマンスとコーポレートガバナンス・プラクティスにおいて優れた数値を示しています。さらに、株式時価総額で見ても、買収防衛策を現在では保有していない会社と現在でも買収防衛策を保有している会社の間には大きな差があることもわかります。

メトリカル:どのような企業が買収防衛策を導入しているか(BDTIデータを利用したMetrical分析)

下表の通り、全東証一部上場企業の中で買収防衛策条項を採用していない会社は90%を超えています。Metricalのユニバース(東証一部上場会社を中心に上場会社全体よりも少し時価総額が大きい会社で構成されている)でも約90%の会社が買収防衛策条項を採用していません。

今や買収防衛策を保持していない会社が主流になっている中で、買収防衛策を採用している会社と採用していない会社のパフォーマンスとコーポレートガバナンス・プラクティスの状況を調べてみました。下表がそれらを示したものです。ご覧の通り、買収防衛策を採用していない会社のパフォーマンスが過去3年間平均のROE(actual)、ROA(actual)およびトービンのQにおいても優れていることがわかります。コーポレートガバナンス・プラクティスにおいては、独立取締役比率以外の女性取締役比率とMetricalスコアにおいて優れていることがわかりました。

メトリカル:11月の株式相場は下落。CG Top20株価はインデックスに対しアンダーパフォーマンス。

11月の株式相場は新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」への警戒感が強まり、月末にかけて大きく下落し、2ヶ月連続の下落。11月1ヶ月間のTopixとJPX400の両株価指数は-3.60%、-3.44%とそれぞれ下落した。CGレーティング・スコア上位のCGTop20株価は-4.56%と両インデックスに対して大きくアンダーパフォーマンス。

メトリカル:エクイティ発行とパフォーマンス、コーポレートガバナンス

Metricalではこれまでに「自己株式消却とパフォーマンス、コーポレートガバナンス」および「配当方針とパフォーマンス、コーポレートガバナンス」において、自己株式消却とパフォーマンスとコーポレートガバナンスそして配当方針とパフォーマンスとコーポレートガバナンスにおける関係についてそれぞれ検証してきました(詳細をお知りになられたい方はMetricalへご連絡ください)。今回のエクイティ発行に関する検証で三部作になります。意外にもそれぞれの切り口で興味深い分析結果が確認されました。

これまで前の2回の記事をまとめると、自己株式消却スコアはROA (actual)とTobin’s qと有意性のある正の相関が確認されていて、自己株式を3度以上消却した会社は主要パフォーマンス指標としてROE (actual)、ROA (actual)、Tobin’s qとの間に顕著に優れた数値を示しています。また、同様にコーポレートガバナンス・プラクティス(アクションを含む)の評価として、Metricalコーポレートガバナンス・スコア、独立取締役比率、エクイティ発行スコア、配当方針スコアにおいても、3度以上自己株式を消却した会社100社は、自己株式消却の頻度が低い会社よりも顕著に高い数値を示しているので、これらの会社はコーポレートガバナンスを改善する意識が強いことが確認されました。

下表の通り、2021年10月のMetricalユニバース1,716社では、エクイティ発行スコアが0(2000年以降1度もエクイティ発行を行いいていない)の会社は797社、エクイティ発行針スコアが-1(1度 だけ直接希薄化をもたらさないCB、WB、優先株などでエクイティ発行を行ったことがある)の会社は121社、エクイティ発行スコアが-2(1度増資もしくは2度直接希薄化をもたらさないCB、WB、優先株などでエクイティ発行を行ったことがある)の会社は557社、エクイティ発行スコアが-3(上記よりもエクイティ発行を行なったことがある)の会社は69社、エクイティ発行スコアが-4(上記よりもエクイティ発行を行なったことがある)の会社は118社、エクイティ発行スコアが-5以下(上記よりもエクイティ発行を行なったことがある)の会社は54社です。

下表で、エクイティ発行スコアが高い順に、主要パフォーマンス指標としてROE (actual)、ROA (actual)、Tobin’s qを示しています。また、同様にコーポレートガバナンス・プラクティス(アクションを含む)の評価として、Metricalコーポレートガバナンス・スコア、独立取締役比率、エクイティ消却スコア、配当方針スコア、現金保有スコアを示しています。

メトリカル:10月の株式相場は下落。CG Top20株価はインデックスに対し大きくアウトパフォーマンス。

前月の上昇から一転して、10月前半に株式相場は急落した後、月末から始まる決算発表を控えて膠着感が強まる相場展開となった。10月1ヶ月間のTopixとJPX400の両株価指数は-1.34%、-1.35%とそれぞれ下落した。CGレーティング・スコア上位のCGTop20株価は-0.41%と両インデックスによりも下落を小幅に抑えて、両インデックスに対して大きくアウトパフォーマンス。

メトリカル:指名委員会に関する考察

指名委員会はコーポレートガバナンスのプラクティスの中で最も難しい問題です。取締役の選任(指名)は人事権に関わる問題で、人事は報酬にも大きく関係する問題なので、とりわけ取締役会で社内取締役が多数構成する日本では今でも多くの会社でCEOがこの決定に深く関わっています。この決定権を独立社外取締役に委任することに、抵抗があることは想像に難くありません。結論を先に言ってしまうと、指名委員会を設置したからといっても実質的にその指名委員会が適切に機能しているのかを精査しなければわかりません。指名委員会が適切に機能しているかをチェックするには、まず、その指名委員会の構成メンバーを独立社外取締役が過半数を占めているのか、また独立社外取締役が委員長を務めているかがポイントになります。しかし、その前提として、透明性と客観性のあるプロセスを経た取締役指名の決定を取締役会が受け入れる用意があることが必要です。このことは取締役会自体が透明性と客観性のある運営をされていることと考えることもできます。それをはかる一つの尺度として、独立社外取締役が取締役会の中で過半数を占めているのかで検証してみたいと思います。社内取締役が多数を占める取締役会では、そもそも透明性のある客観的な手続きで取締役の指名プロセスが行われるのか不明ですし、指名委員会が提出した取締役候補の案を取締役会で承認するかも不明だからです。

まず、現時点の日本の上場会社全体の指名委員会の状況は下表の通り、2021年10月1日現在の東証全上場会社3,784社中コーポレートガバナンス報告書を提出していた3,733社の中で、法令上の指名委員会があるのは指名委員会等設置会社の組織形態をとっているのは82社(全体の2%)でした。監査等委員会設置会社および監査役設置会社は1,249社および2,401社で、そのうち任意で指名委員会を設置している会社は、それぞれの組織形態で609社(49%)および1,046社(44%)でした。