メトリカル:創業者ファミリー企業と他の会社との経営戦略の違いの背景にあるのは持株

10月14日の日経新聞に「「逆張り創業者ファミリー企業株」の磁力:危機下も攻め、コーポレートガバナンスが課題」との記事が掲載されていました。当該記事の論点について、考えてみたいと思います。

10月14日の日経新聞の記事の概略は次のように報じています。
危機下でもひるまず「逆張り戦略」に動いた創業者ファミリー企業が投資家を引き付けている。経営の意思決定が速く、COVID-19パンデミックで出店拡大などを進めた企業は業績回復の爆発力も大きく、株式市場で異彩を放っている。長年の課題だったガバナンスの弱さにもメスが入り、先手を打つ企業にマネーが集まる。

10月14日の東京市場で日経平均株価は大幅反発し、前日比853円高で終えた。昨年末比でみれば6%安。米利上げ継続や景気後退への懸念は強く、神経質な相場環境が続く。そんななかで株価が右肩上がりで推移し、上昇率が2倍以上の株価上昇を達成した銘柄が貸会議室大手のティーケーピーだ。コロナ禍で対面イベントの減った2021年2月期は上場以来初の最終赤字に転落。人件費や地代家賃など固定費を減らしつつ、裏では攻めの手を緩めなかった。割安になった優良物件などの仕入れを積極化した。こうした「逆張り経営戦略」がいま結実している。行動制限の解除で需要が戻り、2022年3~8月期は同期間として3年ぶりに営業黒字を回復。同社の河野貴輝社長は10月13日の決算説明会で「スペースを貸すだけでなく(配信サービスなど)コンテンツも提供して付加価値を高める」と意気込む。

中古車販売のネクステージも果敢にリスクを取った企業の一つだ。コロナ初期には在庫増に苦しんだものの出店はやめなかった。買い取りや整備、車検サービスを一括で提供する大型の「総合店」は2022年8月末で51店舗と、2019年11月末から2.4倍に拡大。優良顧客の取り込みで利益率が向上した。

両社に共通するのは、主要株主が経営者やその一族で構成される創業者ファミリー企業である点だ。危機下でも攻める企業を発掘する投資家が注目している。日興アセットマネジメントの「ジパング・オーナー企業株式ファンド」を運用する北原淳平シニアファンドマネージャーは「創業者ファミリー企業は意思決定の速さと大胆な経営戦略が強み」と指摘。「経営者と株主の視点が一体で、危機下でも利害関係者を納得させやすい」と分析する。

論点1:「創業者ファミリー企業は意思決定の速さと大胆な経営戦略が強みで、経営者と株主の視点が一体で、危機下でも利害関係者を納得させやすい」

創業者は元々リスクをとって事業を拡大させて上場会社になった経緯があります。創業者であればリスクテイクが事業拡大のチャンスであることをよく知っています。常識にとらわれない発想と戦略もとても必要な要素であると考えていても不思議はありません。また、創業者およびその家族は自社の株式を相当割合で保有しているため、自身が大株主であることから他の株主と同じ目線で経営しているということができ、他の株主とsame boatで企業価値の最大化という同じ目標を共有しやすい立場にあります。キーは持株にあると思っています。

下表はMetricalユニバース(2022年9月)1,785社をクライテリアごとにROE、ROA(過去3年間の平均)とTobin’s Qの相関を検証したものです。Metricalユニバース1,785社を(a)50%以上保有する株主が存在する会社、(b)20%以上50%未満保有する株主が存在する会社、(c)20%以上保有する株主が存在しない会社の3つのグループに分けてOwnership Scoreとしてスコア(グループ(a)<グループ(b)<グループ(c))をつけています。大株主ファクター(Ownership Score)はROAとTobin’s Qで有意性のある負の相関があることがわかります。よって、Ownership Scoreが低いグループ(a)、グループ(b)、グループ(c)の順にROAとTobin’s Qが高いということができます。つまり、50%の株式を保有する大株主(次いで20%以上50%未満の株式を保有する大株主)が存在する会社のROAと株式バリュエーションが高いことが示されています。グループ(a)およびグループ(b)には創業者ファミリーだけでなく上場親会社傘下の子会社と関連会社が含まれます。強みを持つ特定の事業にフォーカスして経営していることは創業者ファミリー企業と同じです。いずれの場合でも、特定の大株主の影響を強く受ける傾向にあり、特に創業者ファミリー企業はファミリーの資産に影響が大きい株価に対する意識が高いことが特徴です。

以前の記事「Parent-Subsidiary Listing Investment Strategy Update (4) – The Impact of Major Shareholder Stakes on Governance and Stock Performance」では、大株主ファクターとコーポレートガバナンス・プラクティスとの相関について述べました。Metricalユニバース1,713社(2022年1月)を上記のグループ(a)(b)(c)に分けて、コーポレートガバナンス・プラクティスの変化率(12/2020-1/2022)を分析しました。その結果、大株主ファクターとボードプラクティスとキー・アクションの間には有意性のある相関がある評価項目が多いことから、大株主ファクターはコーポレートガバナンス・プラクティスに大いに影響を及ぼすことが確認されました。ボードプラクティスに関しては、50%以上の持分を保有する株主がいる会社は少数株主の声にあまり気にかける必要がないこともあり、プラクティスの改善に取り組む意識は概して希薄です(下表参照)。

一方で、キー・アクションに関しては、50%以上の持分を保有する株主がいる会社は成長投資に前向きと推測され、成長方針が明確で余剰現金保有や持ち合い株式が少ないことから、成長投資に資金と資産を有効活用していると推測できます。逆に20%以上の持分を保有する株主がいない会社は成長投資の機会を見出せないからか、成長方針が不明確な会社が多いことが示されています。その一方で、これらの会社は外国人株主比率が高いこともあり、配当性向や自己株式消却頻度が高く株主還元の意識が高く、AGMやIRディスクロージャーにおいて投資家とのコミュニケーションを取ろうとしています(下表参照)。

以上をまとめると、「創業者ファミリー企業は危機下でも果敢な経営戦略でその後のパフォーマンスを向上させた」旨の日経記事の論点について考えてみました。
確かに創業者はリスクテイクが事業拡大のチャンスであることを経験上よく知っていることから、危機をチャンスに変えるべく常識にとらわれない発想と戦略で柔軟に経営することに同意します。創業者ファミリー企業と他の会社の一番の違いは持株であると思われます。

Metricalユニバース(2022年9月)1,785社を大株主がいるかいないかで(a)50%以上保有する株主が存在する会社、(b)20%以上50%未満保有する株主が存在する会社、(c)20%以上保有する株主が存在しない会社の3つのグループに分けて、ROE、ROAとTobin’s Qで相関を検証しました。その結果、大株主ファクターはROAとTobin’s Qで有意性のある負の相関があることが示されました。よって、50%の株式を保有する大株主(次いで20%以上50%未満の株式を保有する大株主)が存在する会社のROAと株式バリュエーションが高いことが示されています。グループ(a)およびグループ(b)には創業者ファミリーだけでなく上場親会社傘下の子会社と関連会社が含まれますが、創業者ファミリー企業は相対的に収益力(ROA)が高く株価バリュエーションが高い傾向があります。

また、コーポレートガバナンス・プラクティスに関しては、以前の記事「Parent-Subsidiary Listing Investment Strategy Update (4) – The Impact of Major Shareholder Stakes on Governance and Stock Performance」で、大株主ファクターとコーポレートガバナンス・プラクティスとの相関について述べました。Metricalユニバース1,713社(2022年1月)を上記のグループ(a)(b)(c)に分けて、コーポレートガバナンス・プラクティスの変化率(12/2020-1/2022)を分析しました。その結果、ボードプラクティスに関しては、50%以上の持分を保有する株主がいる会社は少数株主の声にあまり気にかける必要がないこともあり、プラクティスの改善に取り組む意識は概して希薄です。

一方で、キー・アクションに関しては、50%以上の持分を保有する株主がいる会社は成長投資に前向きと推測され、成長方針が明確で余剰現金保有や持ち合い株式が少ないことから、成長投資に資金と資産を有効活用していると推測できます。逆に20%以上の持分を保有する株主がいない会社は成長投資の機会を見出せないからか、成長方針が不明確な会社が多いことが示されています。その一方で、これらの会社は外国人株主比率が高いこともあり、配当性向や自己株式消却頻度が高く株主還元の意識が高く、AGMやIRディスクロージャーにおいて投資家とのコミュニケーションを取る傾向があります。

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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
akimatsumoto@metrical.co.jp
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