コロナウィルスが開く新時代・バーチャル株主総会

経産省から、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が2020年2月26日発表された。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html
バーチャル株主総会とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいう。インターネット等の手段とは、物理的に株主総会の開催場所に臨席した者以外の者に当該株主総会の状況を伝えるために用いられる、電話や、e-mail・チャット・動画配信等のIT等を活用した情報伝達手段をいう。

このガイドは、企業と株主・投資家が建設的な対話を行うために、諸外国の状況も踏まえ、株主総会当日のあり方について、新たな選択肢を追加的に提供する目的に作成されたものである。ところが、コロナウィルスの影響で、大規模集会の開催が困難となる状況が発生し、株主総会の規模を縮小するための手段としてのバーチャル株主総会(VSM)に注目が集まっている。

このガイドに沿って、神奈川県横浜市に本社を置くITソリューションベンダーである富士ソフト株式会社が、3月13日にバーチャル出席型の定時株主総会を開催し、第一号事例を作っている。
https://www.fsi.co.jp/company/news/200313_2.html
総会運営をアドバイスする信託銀行にはVSMについて多くの相談が集まっていると言う。2020年総会シーズンは日本のVSM元年になるだろう。

アメリカでは、VSMは無視できないトレンドとなっている。2000年にデラウェア州一般会社法が改正され、その211条は、株主総会を物理的な場所で開かない、バーチャルオンリーのVSM開催を認めた。しかし、ICT技術がそれを実現するには、時間がかかった。フォーチュン500企業としてはVSM第一号となるシマンテック社が、音声だけを配信したのは2010年であった。
https://www.nytimes.com/2010/09/26/business/26gret.html

VSMを開催する企業は増え、バーチャル化ソルーションを提供するブロードリッジ社によれば2019年は326社である。

https://www.broadridge.com/_assets/pdf/broadridge-virtual-shareholder-meetings-2019-facts-and-figures.pdf

また、ICTの進んだ現在においても、音声だけの配信が圧倒的に多い。

https://www.broadridge.com/_assets/pdf/broadridge-virtual-shareholder-meetings-2019-facts-and-figures.pdf

アメリカにおける過去のVSMの様子は、実施企業のIRの一環として、あるいはバーチャル化ベンダーの宣伝の一環として、多くが公開されている。それらを閲覧・視聴してみると、VSMがどのようなものか、イメージが掴める。コロナウィルスの影響でVSMを検討する日本企業にとって重要な参考資料となるだろう。ここではそのいくつかを紹介してみたい。ただ、株主総会議事運営は、アメリカと日本とで法律の違いから生じる、小さからぬ相違点がある点には注意が必要である。相違点のうちいくつかは、次のようなものである。

  • 所有と経営の分離についての考え方の違いからか、日本では株主総会での決議事項が多く、株主提案議案が可決されればその決議は会社経営を拘束する。アメリカでは株主総会で業務執行事項の決議はできないとされており、株主提案はしばしばなされるものの、その多くは法的拘束力のない勧告的提案である。
    http://www.moj.go.jp/content/001182033.pdf
  • 日本では株主総会の目的である事項であれば株主による議案提出が可能であるから(会社法304条)、すでに提出された議案の修正動議が可能である。アメリカでは議案の事前通知を求める定款の規定により、通知のない議案の提出は不可とされており、動議は出されない。
    https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/shin_sokai_process/pdf/006_04_00.pdf
  • 日本では株主総会決議について不存在・無効確認や取消を求める訴訟の関する会社法規定があり(会社法830および831条)、会社が決議の瑕疵回避のために注ぐ注意の程度は非常に高いが、デラウェア州一般会社法に代表されるアメリカの会社法にはそのような広範な規定はなく、取締役等選任の効力および投票の結果についての審査が規定されている(225条)。
    https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/shin_sokai_process/pdf/006_04_00.pdf

これらの相違点を踏まえると、アメリカにおけるVSMが一般的に次のような3部構成をとることに、合点が行くだろう。すなわち、①取締役選任、②会計監査人承認、③執行役員らに対する報酬への勧告的承認(Say on pay)という会社側提案3議案と、株主提案議案とを紹介し、株主に議決権行使クリックを促す第1部、CEOやCFOからプレゼンテーションを行う第2部、株主から寄せられた質問に役員が答える第3部である。議決権を行使できる時間は第2部に入る前に締め切られ、委任状と合わせて暫定的集計結果がVSMの最中に報告される。第1部は、株主総会としての最重要部分であるが、ごく短い。会社側提案についてはプロキシーステートメントにある通りと紹介されるだけで、説明はなされない。株主提案議案については提案した株主(その代理人)から数分の説明がある。第1部が短時間であるのは、インターネット等通信の技術上のトラブルを避ける意味合いもあるだろう。

日本の株主総会では、計算書類・事業報告の説明、議案説明、質疑応答、場合によっては動議提出等を経て、採決にたどり着く。アメリカにおけるVSMの構成部分の順番を入れ替え、第2部、第3部、第1部という流れにすると、日本におけるVSMのごく大まかなイメージができる。これらを踏まえた上で、アメリカで2019年に行われたVSMの実例をいくつか紹介したい。

家電製品量販店であるベストバイのVSMは、配布資料を見ながら音声を聞く形式である。CEO兼取締役会議長が提案議案を読み上げ、議決権行使とオンラインでの議案に関する質問を促すが、質問はなく、採決終了となり、委任状集計結果と合わせて可決の由が告げられる。第1部を終了することについて「異議なし」「賛成」と呼ぶ声がしてCEOが終了を宣言する。その後業績についてCEOがグラフを示してプレゼン行い、IR担当者にバトンタッチしてQAに移る。IR担当者が慣例に習い15分間質疑応答することを告げ、オンラインで質問を寄せるよう促すが、読み上げられた質問は事前に寄せられた3つであり、うち2つは従業員株主からの給与体系に関するものである。人事担当らしい者からベストバイの長期インセンティブ等が説明され、VSMは全体で15分ほどで終了である。
http://investors.bestbuy.com/investor-relations/news-and-events/events/event-details/2019/2019-Regular-Meeting-of-Shareholders/default.aspx

ネット証券会社であるチャールズシュワブのVSMは、ハイブリッド型であり、2画面が配布資料と会場の映像を映し出す。進行役であるCOOからの会社提案議案3つの紹介の後、株主提案議案について、来場している提案株主代理人がマイクに向かって趣旨説明を行う。人材多様性を分析するのに必要な、性別や人種に関する情報開示を行うよう求めるものである。取締役会の推奨は反対であることが告げられ、ここで採決に移る。バーチャル出席の株主に議決権行使のクリックをするよう促す発言がなされる。リアル出席の株主の議決権行使は後にカウントされて最終報告書に記載されると説明される。既に提出された委任状集計の結果、会社提案議案は可決され、株主提案議案は否決されたことが告げられる。その後はCFOおよびCEOから企業業績や将来戦略についてプレゼンテーションがなされ、最後に質疑応答となる。CEOは、意見でなく質問を寄せる機会であること、個人の口座でなく会社に関する質問の場であること、について注意を喚起する。リアル出席者2名がマイク前に立って質問を行う様子を、カメラは遠景で捉え、質問者の顔ははっきりとは見えない。数年前から出席していて、この会社の総会の名物になっているらしい13歳の少年株主については声は聞こえるが姿は見えない。バーチャル出席者からは質問はなく、全体で1時間弱で終了である。 http://irwebreport.com/20100331/virtual-annual-shareholder-meetings/

マイクロソフトのVSMは、バーチャルオンリーである。バーチャル化ベンダーの提供するプラットフォームで閲覧することもできるが、マイクロソフトが提供するバーチャル会議システム「チーム」で閲覧することもできる。「チーム」には同時翻訳機能もついており、日本語も選択できる。日本語訳は実用に耐えるレベルとは言い難いが、翻訳の質は急速に上がるだろうから、日本企業の外国人投資家対応に新たな可能性をもたらしそうだ。進行役を務める社外取締役会長から紹介され、コーポレートセクレタリが登場して、経営側提案議案3つを説明する。2つある株主提案議案について、それぞれの提案株主代理人が、与えられた3分間を使って電話とビデオレターで説明する。2つのうち賃金格差是正を求める議案につき、多くの質問が寄せられたことがコーポレートセクレタリから報告されるが、取締役会は反対推奨だと言う。この後採決は締め切られ、委任状集計と合わせた暫定結果が報告され、最終結果は当日中にIRサイトに掲載されることが告げられて、QAパートに移る。シンポジウムのようにスツールが配置され、事前に寄せられた質問およびライブで寄せられた質問をIR担当者が読み上げ、3人の経営陣が答え、全体で1時間で終わる。
https://www.microsoft.com/en-us/Investor/annual-meeting.aspx

インテルは、バーチャルオンリーVSMに投資家から批判が寄せられ、一度リアル総会に戻り、また2019年にバーチャルオンリーVSMを実施する企業である。1ヶ月前からサイトを立ち上げ、質問を受け付けてきた。当日の質問は一人一問に限られるが、後日全ての質問に回答してサイトに掲載することが約される。議決権行使の締切りは、8:45AMかCEOのプレゼン開始か、いずれか遅い方までであること、それまでは議決を変更できることがコーポレートセクレタリから告げられる。3つの株主提案は、それぞれの提案者・代理人が与えられた5分ずつを使って電話で説明する。一人の提案株主からは、電話ではエコーが聞こえ、パソコンでは映像が見えないという不満が寄せられている。バーチャルオンリー総会への批判の意味合いもあるのだろう。8:45AMが過ぎ、採決は締め切られ、CEOのプレゼンテーションが始まる。その後QAセクションがあり、議決権行使結果の報告が締めくくりとなって、全体で1時間で終わる。https://central.virtualshareholdermeeting.com/vsm/web?pvskey=INTEL19

企業それぞれの創業者や経営者の個性が反映されてか、様々なスタイルがある。これからVSMを検討・実施する日本企業は、それぞれの置かれた状況、株主との関係に鑑みて、どのようなVSMとするのが適切か、よく考える必要がある。うまく使えば、VSMは企業と株主との関係構築に有効な新たな手段となるだろう。コロナウィルス対策として始まるVSM元年は、株主対話の新時代の幕を開けようとしている。以上

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