メトリカル:買収防衛策③ 買収防衛策を持っている会社のアンダーパフォーマンスの背景にあるものは何か?

前回の記事「メトリカル:買収防衛策② 株価パフォーマンスは?(BDTIデータを利用したMetrical分析)」では、現在でも買収防衛策を有している会社は上場会社全体で271社あり、当該271社の多くは株式時価総額が相対的に小さく、また、当該グループの5年間の株価パフォーマンスは各株価指数と比較してアンダーパフォームしていることが確認されました。

さて、今回はその前の記事「買収防衛策③」で立てた仮説の検証を試みたいと思います。買収防衛策条項を今も持っている会社の多くは株式時価総額が小さく、株式時価総額の成長が緩慢なペースである背景に何かあるのではないか。買収防衛策を保有していることを投資家に事前警告することによって、投資家が投資対象から外すこと以外に、当該会社の株価パフォーマンスが劣っていることには何かが関連していないか考えてみたいと思います。以前の記事では、会社の成長性の方針が明確でない、そのような成長方針を投資家に伝えきれていない、IRなどの機能を使いきれていないなどが複合的に関連しているのではないかと仮説を立てました。

そもそも事前警告型の買収防衛策があると投資家が投資を躊躇うために、当該会社の株価が低くなると言いこともできますが、東証の開示資料「White Paper on Corporate Governance2021」の次の考え方が参考になります。「買収防衛策を導入していない会社の中でその理由を説明している会社をみると、企業価値を高めることが最良の買収防衛策であると考え、現状では買収防衛策の導入を予定していないとの説明が大半である」との買収防衛策を保有していない会社の回答からも、上述の仮説と共通するところがあります。買収防衛策を保有している会社は企業価値を高めるための取り組みが十分でない一方で、買収防衛策を保有していない会社はその取り組みを実践する傾向があると推測することができます。

下表にそれらを探るためのデータをまとめてみました。すべての上場会社の中で買収防衛策を持っている271社のグループA、Metricalのユニバース(東証一部上場会社を中心とする時価総額100億円以上の会社など)1,715社の中で買収防衛策を持っていない会社1,541社のグループB、Metricalのユニバースの中で買収防衛策を持っている174社のグループCで比較しています。まずは前回の記事のおさらいになりますが、パフォーマンスでみると、ROE、ROA、P/BでグループAはグループBに顕著に劣後しています。株価リターンも東証データの各市場の株価指数のリターンに劣後していることがわかります。プロファイルでみても、純資産と時価総額でグループAはグループBに顕著に劣後しています。また、注目していただきたいのが、外国人株主比率です。グループAの時価総額が小さいので投資対象になり難いことも理由の一つと推測できますが、グループAの外国人株主比率が低いことも注目に値します。

さて、「買収防衛策を保有している会社は成長性の方針が明確でない、そのような成長方針を投資家に伝えきれていない、IRなどの機能を使いきれていないなどが複合的に関連しているのではないか」との仮説を検証してみます。成長方針・キャピタル・アロケーション方針の各スコアでもグループAはグループBに顕著に劣後しています。各スコアを簡単に説明すると、成長方針スコアは中期経営計画が明確か、数値目標がありKPIが妥当か、ROEや資本コストを意識した方針かを評価しています。現金保有スコアは売上高に対して過剰に現金を保有していないかを評価し、株式消却スコアは株式消却の頻度が高いほど高いスコアで評価しています。配当方針スコアは配当性向50%を上限に5の最高評価に、配当性向が10%低下するごとにスコアを1ずつ下げて評価しています。株式保有スコアは持ち合い株式を含む政策投資株式の保有が総資産に占める割合が低いほど高いスコアをつけています。情報開示の各スコアでもグループAはグループBに顕著に劣後しています。株主総会情報開示スコアは株主総会の集中日を避けて株主総会を開催しているか、電子的方法やプラットフォームを議決権投票で利用できるか、招集通知を英文で案内しているかなどで評価しています。IRスコアはアナリストミーティングを開催してCEOが説明しているか、海外IRミーティングを行なっているか、ウェブサイトに情報開示を行なっているか、IR担当部署を設置しているか、英文で情報開示を行っているかなどで評価しています。コーポレートガバナンス・プラクティスにおいては、女性取締役比率でグループAはグループBに顕著に劣後しています。

本分析をするまでは、ここまで明確に差がつくとは思っていなかったのですが、結果は仮説が概ね妥当であることが証明されました。成長方針・キャピタル・アロケーション方針の各スコアのグループAとグループBの差からみて、買収防衛策を持っている会社の成長方針が明確でない、企業価値を高めるための方針やKPIに合理性が明確でない、キャピタル・アロケーションにおいてキャッシュの使い方や政策株式保有の見直しについて取り組みが希薄であることなどが推測できます。このことから、買収防衛策を持っている会社の成長性の方針が明確でなく、実際にも資金配分の結果からみても有効な活用に問題があるということができます。情報開示に関しても、IRなどの取り組みに課題があり、企業価値を高めるための成長戦略を投資家に伝えきれていないという側面が見られます。

鶏が先か卵が先かの議論はあるにせよ、買収防衛策を保有している会社は総じて成長性の方針が明確でない、そのような成長方針を投資家に伝えきれていない、IRなどの機能を使いきれていないなどが複合的に関連しているのではないか」との仮説は妥当であると思われます。買収防衛策を保有している会社は総じて成長性の方針が明確でない結果として、パフォーマンスのROEとROAが買収防衛策を持っていない会社に比べて劣後しているということができます。また、買収防衛策を保有している会社は総じてIRなどの機能使って成長方針を投資家に伝えきれていない結果として、外国人株主比率が低く、時価総額およびP/Bが低いということができます。これまで3回にわたって買収防衛策に関する分析を行ってひとまず結論を得ましたが、今後もアップデートを行なって行きたいと思います。

 

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