経済産業省は「持続的な価値創造」に向けた投資を推進

経済産業省は2-3月の「持続的な価値創造に向けた投資のあり方検討会」3回の会議の議事要旨を4月に公表した。検討会の目的は企業と投資家が以下の2点について共通の基礎に立つことだった。

  1. 企業が、持続的価値創造に向けて、様々な資本を有効に活用し、未来に向けた投資判断を行なうための方策は何か
  2. 投資家が、長期的な企業価値を判断する視点や評価軸、及びそのために必要となる情報や対話のあり方はどのようなものか

この2点はいずれも日本版スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンス・コードに由来し、投資家の受託者責任に必要な建設的な対話のための制度的な枠組みとしている。今後の課題は、これらの枠組みが要請する内容について、企業や投資家が形式的な対応のみに終始するのではなく、それぞれの通長期的な戦略や投資計画、経営判断等に組み込みながら実施されていくことである。

同検討会は日本での持続的な価値創造のために改善の余地を示唆した。例えば、企業の投資活動について十分に議論されたとは言い難い。座長の伊藤邦雄教授は国際統合報告評議会(IIRC)の大使であり、人的資本、知的資本、製造資本を含むIIRCの6つの資本の考え方も視野に入れた検討を求めた。

検討会の事務局は企業投資についての6テーマからなる調査フレームワークを提示した。

  1. 根本にある企業理念
  2. 企業を取り巻く環境の評価
  3. 中長期経営戦略の見立て
  4. 投資戦略の方向性
  5. 投資の形態
  6. 投資回収の見込み

一方検討会最終回の議事要旨を見る限り、議論は主に投資家視点で行われ、検討会の目的が果たされたとは言い難い。議事要旨は以下の項目を含む。

  1. 日本と海外における「企業と投資家の対話」の違い
  2. 投資家と企業の情報隔壁
  3. 統合報告の現状
  4. 非財務情報の開示方法
  5. 投資判断における過去の取り組みに対する評価
  6. 財務・非財務ファクター以外に企業評価において考慮すべき要素
  7. 日本と海外のアナリストの違い

企業による投資活動についての議論が限定的だったものの、検討会の議事要旨は過去の取り組みに対する評価は将来の投資戦略を考える上で重要と示唆している。無論企業は過去の取り組みから学ぶべきことはある。しかしバックワード・ルッキングな投資評価は、如何に優れたものであっても、将来の適切な決定につながるとは限らない。そもそも伊藤レポートや先述の制度的な枠組みは資本コストに対するROE(資本利益率)の低さを問題意識に据えたものである。投資判断は外部環境・内部資源についてのフォワード・ルッキングなシナリオにより成功と言えるかが決まる。企業はメガトレンドやそのシナリオで成功に必要な内部資源の内容について熟考すべきである。また統合報告による開示内容の標準化は心理的な障壁により順延されてきた。検討会の議事要旨では、日本の国民性を加味すると、非財務情報開示の標準化を導入することで、資本市場におけるエンゲージメントが形骸化するとの懸念が示された。確かに日本はルールベース・アプローチの長い歴史があるため、非財務情報開示についてもフル・コンプライアンスを目指す傾向が見られるのではないかという考え方もある。しかし日本でのガバナンスの傾向は先述の制度的枠組みにみられるようにプリンシプル・ベースへの移行している最中である。統合報告についてもプリンシプル・ベースで実施されるべきであり、情報開示の際に単一のフォーマットがあるというわけではないということである。むしろ標準化は統合報告の効率性、及び先進的な取組の洗い出しに寄与する。

日本でエンゲージメントの実効性が失われてきた原因の一端は、企業による投資に対する投資家の調査能力不足にもあると考えられる。その解決策は投資家教育であり、それは投資家がIIRC資本モデル等を参考に、企業投資の評価モデルを作成できるようにすることである。

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