【メトリカル】個人の株式保有が増加傾向。個人の役割に注目が高まる

2023年7月6日付で東証が「2022年度株式分布状況調査の調査結果について」を公表しました。本資料の概要を下記にお示し、論点を考えてみたいと思います。

【特徴点】

1. 個人株主数は、前年度比521万人増加して6,982万人となった。

2022年度の全国4証券取引所上場会社(調査対象会社数:3,927社)の株主数合計(延べ人数)は、前年度比525万人増加して7,140万人となった。全体の97.8%を占める個人株主数は、前年度比521万人増の6,982万人となり、9年連続で増加することとなった。2022年度の個人株主数の増減要因を見てみると、上場廃止会社の影響で49万人減少する一方、新規上場会社で54万人増加、株式分割実施会社で75万人増加、その他の会社で441万人増加となっており、その結果、今年度の個人株主数は521万人の増加となった。

2.投資部門別株式保有金額は、個人・その他において大幅に増加する結果となった。

2022年度末(2023年3月末)の全投資部門における株式保有金額(調査対象会社の3,927社の時価総額)は、前年度比13兆9,048億円増(+1.9%)の744兆1,808億円となった。主な投資部門の動向をみると、個人・その他がプラス10兆530億円、証券会社がプラス2兆350億円、外国法人等がプラス1兆8,779億円となった一方で、都銀・地銀等がマイナス8,966億円、事業法人等がマイナス6,212億円となった。

3.外国法人等の株式保有比率は、マイナス0.3ポイントとなったものの、3年連続で30%を超える状況となった。

外国法人等の株式保有比率は、前年度比マイナス0.3ポイントの30.1%となったものの、3年連続で30%を超える状況となった。外国法人等の株式保有金額は、前年度比1兆8,779億円プラスの224兆2,232億円となったものの、個人・その他、証券会社の保有金額の増加額が外国法人等を上回った結果、外国法人等の株式保有比率が相対的に低下することとなった。海外投資家の投資部門別売買状況をみると、2022年度は1兆8,090億円の売越しとなり、2年連続の売越しとなった。月別にみると、2023年3月に2兆2,503億円の売越しが目立った。外国法人等の業種別株式保有比率と業種別株価指数騰落率を並べた状況であるが、33業種中20業種で保有比率が低下する結果となった。

4.個人・その他の株式保有金額は、131兆2,553億円(前年度比+10兆530億円)となった。

個人・その他の株式保有金額は、前年度比10兆530億円プラスの131兆2,553億円となった。また、株式保有比率においても、前年度比プラス1.0ポイントの17.6%となった。個人の投資部門別売買状況をみると、年度合計では7,690億円の買越しとなり、2年連続の買越しとなった。月別にみると、2022年9月における9,937億円の買越しが目立った。個人・その他の業種別株式保有比率と業種別株価指数騰落率を並べた状況であるが、33業種中30業種で保有比率が上昇する結果となっている。

5.信託銀行の株式保有比率は、マイナス0.3ポイントの22.6%となり、9年振りの低下となった。

信託銀行の株式保有比率は、前年度比マイナス0.3ポイントの22.6%で9年振りの低下となった。信託銀行の株式保有金額は、前年度比1兆2,452億円プラスの168兆2,615億円となったものの、個人・その他、証券会社の保有金額の増加額が信託銀行を上回った結果、信託銀行の株式保有比率が相対的に低下することとなった。一方、信託銀行の投資部門別売買状況をみると、2022年度は1兆8,920億円の売越しとなり、2年振りの売越しとなった。月別にみると、2022年11月から2023年3月にかけて5か月間連続の売越しとなるなど、2022年度下半期における継続的な売りが目立った。信託銀行の業種別株式保有比率と業種別株価指数騰落率を並べた状況であるが、33業種中22業種で保有比率が低下する結果となっている。

6.事業法人等の株式保有金額は、145兆6,703億円(前年度比-6,212億円)となった。

事業法人等の株式保有金額は、前年度6,212億円マイナスの145兆6,703億円となった。株式保有比率も、マイナス0.4ポイントの19.6%まで低下し、調査開始以降初めて20%割れとなった。一方、事業法人等の投資部門別売買状況をみると、年度合計で5兆7,907億円の買越しとなり、2004年度以来19年連続の買越しとなった。なお、自己株式は、保有する会社が属する投資部門に合算しているが、大部分は事業法人等にカウントされ、今年度は合計で29兆1,917億円(前年度比+1兆510億円)となり、保有比率は3.92%(前年度比+0.07ポイント)となっている。

 

論点1:「個人・その他の株式保有金額は、前年度比10兆530億円増加し、131兆2,553億円となった。株式保有比率は前年度比プラス1.0ポイントの17.6%となった。」

個人・その他は2022年度に7,690億円の買越し、2年連続の買越しでした。2022年9月は9,937億円の買越しで、個人は従来と同様にBuy on declineの傾向が顕著です。また、個人株主数は、前年度比521万人増の6,982万人となり、9年連続で増加しました。政府は少額投資非課税制度(NISA)を2024年1月から拡充させることから、個人株主数が今後も増加することが期待されます。2022年度の個人・その他の株式保有比率は17.6%(前年度比+1.0ポイント)に上昇しました。NISAを通じて個人の株式保有が増えることが予想されることから、個人の株式保有比率も今後も上昇することが期待されます(投資信託協会の株式投信の増加傾向を見ると、国内株式よりも海外株式に投資する投資信託の増加が顕著ですが)。

論点2:「外国法人等の株式保有比率は、前年度比マイナス0.3ポイントの30.1%となったものの、3年連続で30%を超える状況となった。」

外国人の株式保有比率は3年連続で30%を維持しています。株式相場が上昇した2023年3月に2兆2,503億円の売越しが目立ちましたが、4月、5月の大幅な買い越しが見られたことから、外国人の株式保有比率は今年度上昇することが予想されます。前述の通り、個人の株式保有比率の上昇が予想されることから、個人投資家へのIRを強化する上場会社が増加することが予想されます。

論点3:「信託銀行の株式保有比率は、マイナス0.3ポイントの22.6%となり、9年振りの低下となった。」

日銀のETF買いが沈静化したことに加え、2022年11月から2023年3月にかけて5か月間連続の売越しとなったことから分かる通り、年金のリバランス売りや投信の利食い売りが継続的に出たことから信託銀行の株式保有比率は低下しました。

論点4:「事業法人等の株式保有比率は19.6%(ー0.4ポイント)低下し、調査開始以降初めて20%割れとなった。」

持ち合い株式が徐々に削減されていることが背景にあります。その一方で、事業法人等は2022年度合計で5兆7,907億円買越しています(2004年度以来19年連続の買越し)。このことから、自己株式買い戻しもキャピタル・アロケーションの有力な手段になっていることがわかります。

以上をまとめると、東証が7月6日に開示した資料「2022年度株式分布状況調査の調査結果について」の概要とその論点を考えてみました。

 

2022年度に個人投資家の株式保有比率の上昇がどの投資家よりも顕著で、17.6%(前年度比+1.0ポイント)に上昇しました。政府は少額投資非課税制度(NISA)を2024年1月から拡充させることから、今後も個人投資家の保有比率の上昇が予想されます。2022年9月には個人投資家は9,937億円を買越したことから、個人投資家のBuy on declineの傾向は健在です。一方で、個人の株式保有比率の上昇を期待する上場会社による個人向けIR強化が予想されます。Proxy Fightの際には個人株主の投票行動に注目が集まりそうです(現状では株主提案に賛成する顕著な傾向は見られていませんが)。

株式相場が上昇した2023年3月に2兆2,503億円の売越しがあったにも関わらず、外国人の株式保有比率は3年連続で30%を維持しました。4月、5月の大幅な買い越しが見られたことから、外国人の株式保有比率は今年度再び上昇することが予想されます。

日銀のETF買いが沈静化した現在は信託銀行の株式保有比率の上昇は予想されません。年金への純資金流入は限定的で、DBからDCへのシフトの継続が予想されます。DCへのシフトおよびNISAの拡充に伴い、投資信託への資金流入が期待されます。しかしながら、投信協会の公募投信の資金流入状況を見る限り、海外に投資する投資信託への資金流入が継続している一方で、国内株式に投資する投資信託には株式相場上昇過程で利食い売りが見られます。

事業法人の株式保有比率は19.6%に低下しました。持ち合い株式が徐々に削減されていることが背景にあります。その一方で、事業法人は2022年度合計で5兆7,907億円買越していることから(2004年度以来19年連続の買越し)、自己株式買い戻しがキャピタルアロケーションの重要な手段として定着したことがわかります。

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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
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