メトリカル:多様性は強くなければならない

今月もダイバーシティについて取り上げます。ダイバーシティは企業の底力を引き上げると信じているからです。ダイバーシティはESGのSとGに深く関わっていて、会社のカルチャーの変革に大きく影響を及ぼすのです。一方で、ESGの取り組みの中でSとGに比べてEに熱心な日本企業が多いように感じられます。Eの場合には、CO2排出量目標のような技術的な数値目標を設定して、エンジニア中心にボトムアップで技術水準を向上させて最終的に高い目標を達成してきた成功体験を持つ日本企業には相対的に取り組みやすい分野だからなのでしょうか。SとGでも、数値目標でなくとも明確な目標を掲げ、タイムフレームを設定して改善に取り組むことはできるはずです。これまで何度かダイバーシティについて取り上げる中で、さまざまな人々が関わりあう企業であれ社会であれ、皆が生きやすい環境を作っていくには、人権の尊重、つまり多様性の理解が大切なことを述べてきました。以前の記事でも触れた、先進的なダイバーシティの取り組みを行なっている物語コーポレーション(3097)の2021年6月期決算のアナリスト・ミーティングが8月19日(木)にあり、参加しましたので、当社のダイバーシティの取り組みをアップデートしてみたいと思います。

物語コーポレーションはダイバーシティに積極的に取り組む上場会社の一つです。当社はパートタイム・ワーカーでない幹部社員としてインターナショナル(外国籍)社員の積極登用を進め、2021年6月時点で13カ国126人が在籍(全社員比率10%)と2020年12月時点の11カ国105人が在籍(全社員比率9.5%)から増加しています。この6ヶ月間でインターナショナル(外国籍)社員の店長は4人から18人に大幅増加しました。また、LGBTQ人財の活躍支援にも取り組んでいて、全社員に対しての研修で基礎知識から始まり職場での対応方法などを学び、あらゆるセクシャリティを理解し、支援する考えを共有するほか、同性パートナーが社内で法律婚と同じ待遇を受けることができる「ライフパートナーシップ制度」を導入しています。これによって、LGBTQまだ同性婚が法律上認められていない日本で法律婚カップルと同等の待遇を受けられるようになり、具体的には結婚お祝い金や、配偶者手当、同居できない場合には単身赴任手当や帰省旅費の支給などを行なっています。

本アナリスト・ミーティングで、当社は新しく策定した「長期経営ビジョン」の中で、「個の尊厳を組織の尊厳より上位に置く」との経営ビジョンのもと、「目指すべき姿」として、(1)多様性の表現、(2)多様性の表現が生む価値、(3)多様性の受容 を掲げています。企業の持続的成長のためには、差別化が欠かせない中で、当社社長の加藤氏は「仕組みや構造で差別化を起こす大きな差別化(type of operation)は真似されやすいが、小さな差別化の積み重ねは大きな差別化になり、キャッチアップされにくい。後者の差別化のためには、個人が自分を表現することによって、多様な議論が会社の中で巻き起こり新しい価値を生み出すことが必要。個人の価値を会社全体に広げていく企業文化にしていきたい」と述べました。

その背景についてもう少し詳しく知りたかったので、質問したところ、「単に女性、LGBTQやチャレンジドの社員が住みやすい会社を目指すのでなく、(皆が異なり、考え方や気の使い方も異なる、ということを理解し)多様性を受容する会社になると、マイノリティの人たちも恐れずに多様性を表現できるようになるので、他の人たちも含めて皆で議論する文化ができるので、新しい価値を生み出すことができる。」「女性活躍を話し合うときに女性だけで議論したり、LGBTQの活躍推進を話し合うときにLGBTQの方だけで議論する場合には、本質的な結論を導かないことが多い。当事者だけでなく皆で議論することが発展的な議論を促し、有益な結論に導くことが多い。たとえば、店舗のトイレを皆で議論して“男”、“女”と“みんなのトイレ”のマークに変更した時にも、お客様やさまざまな人々の目線で議論して結論を導くことができた。」と、着実にダイバーシティが企業文化に根付きつつあり、その成果に手応えを感じている様子でした。トイレの事例はわずかな一歩かもしれませんが、すでに多様性を受容するところから、多様性の表現ができる環境作りが始まっていることを意味しています。当社の取り組みに比べて、ポリシーすら作っていない会社やポリシーが「絵に描いた餅」になっている会社がいかに多いことでしょう。自分の会社の企業活動において、ダイバーシティの取り組みをどのように発展させていくかを考えて、皆で議論して、その結論を企業活動に利用しているのです。企業文化が企業価値を生み出す差別化になる力になると加藤社長は考えています。ダイバーシティは企業も強くする」、と私も信じています。

下表はMetricalユニバース1,722社の2021年7月の相関マトリックス。女性取締役スコアとROA (actual)は有意性のある正の相関を示しています。

株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
akimatsumoto@metrical.co.jp
http://www.metrical.co.jp/jp-home/

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