日本企業の統合報告に関する調査2020

KPMGジャパン コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンスでは、2014年から日本企業の統合報告の内容に関する調査を継続して実施しています。前回の調査から有価証券報告書の記述情報も調査対象に加えており、今回は前回との比較も行っています。

「8つの領域における調査結果の主なポイント」

1. マテリアリティ
マテリアルな課題を特定する企業は年々増加していますが、未だ、多くは統合報告で求められる価値創造に関わる視点から検討された内容にはなっていません。それらを特定した根拠や、特定のプロセスに取締役会が適切に関与している旨についても説明されていないのが実態です。特定の根拠や、そのプロセスにおける取締役会の役割を説明することで、より企業価値との関わりや組織内での議論の深度が伝わりやすくなるでしょう。

2. リスクと機会
統合報告書でリスクや機会を説明する企業は70%と前年から増加し、有価証券報告書では、すべての企業がリスクを説明しています。しかし、列挙した個々のリスクや機会について、顕在化の可能性、影響、対応策などが必ずしも十分には説明されていません。リスクと機会が影響を及ぼす事象に関する具体的な対応を検討し、それに裏打ちされた実効的なリスクマネジメントの導入が前提ではありますが、取組みの実効性を伝えるためには、個々のリスクや機会に関するより踏み込んだ説明が必要でしょう。

3. 戦略と資源配分
長期戦略と中期経営計画を併記する企業が増えています。長期的な価値創造への過程として中期戦略を位置付け、さらには全体から各事業へと繋がる一貫性のある戦略の説明は有用です。これにより、説得力が増し、企業価値の適切な評価に繋がるものと考えます。また、戦略目標をブレイクダウンし、価値創造ドライバーと結び付けて説明している企業はまだ少数にとどまっています。戦略を達成する道筋をより伝わりやすくするためにも、より結合性のある説明が求められてくるでしょう。

4. 資本コストと財務戦略
急激な環境変化が予想される状況下では、安定的な収益構造や資金確保のための方針を示し、企業のリスク耐性を伝えることが肝要です。収益力や資本効率に関する目標値を、その設定根拠と共に説明している企業は統合報告書で23%、有価証券報告書で18%と少数でした。資本コストを踏まえて、収益力・資本効率等の目標設定を行い、それが全社レベルのみならず、事業ごとに設定されている旨の説明があれば、事業ポートフォリオを意識した経営が推進されていることと併せて、中長期的な企業価値向上の道筋も示すことができるでしょう。

5. 業績
中長期的な視点で経営計画や戦略を策定している企業であれば、財務・非財務の両面から施策や取組みの検討が必要になると考えます。しかし、財務指標と併せて、非財務指標を用いた戦略達成度を示す企業は、統合報告書で37%、有価証券報告書で12%と少数でした。統合的思考で企業価値実現への道筋を捉え、グループ全体の目標達成の進捗を把握するには、非財務指標も含めた目標を設定するとともに、測定の仕組みの導入や、管理・分析が可能な体制構築がカギとなるでしょう。

6. 見通し
企業報告では、戦略遂行の際に想定される課題や不確実性への見解に加えて、不確実性が短中長期的な価値創造能力に与える影響への対処と検討施策の説明が期待されています。見通しを説明している企業は、統合報告書、有価証券報告書のいずれにおいても過半数にのぼりました。しかし、マテリアリティや戦略と関連付けた説明は十分とはいえない現状です。コロナ禍で将来の不確実性が顕在化した今だからこそ、変化し続ける環境に関する見解を読み手と共有できれば、価値創造ストーリーの実現可能性や施策への理解も、同時に深まっていくでしょう。

7. ガバナンス
「企業内容等の開示に関する内閣府令」の一部改正により、記載の拡充が求められたことで、役員報酬の各構成要素の評価・算定方法への言及が、いずれの報告書でも増加しました。しかし、コーポレートガバナンス・コードで対応が求められている取締役会評価の実効性評価の説明については、統合報告書と有価証券報告書の記載には差異がみられました。ルールだから対応するのではなく、企業のパーパス(存在意義)や戦略の実現を導き支えるガバナンスに対する読み手の関心を踏まえた説明の拡充が望まれます。

8. TCFD提言に基づく開示
2020年末時点で、日経225構成企業のうち、TCFDに賛同する企業は64%(145社)までに増加しています。そのうち、統合報告書でTCFDの提言に関連した情報を示す企業は76%ありますが、有価証券報告書では8%でした。また、世界的なESG投資の拡大に伴い、投資家からのニーズが高いと考えられる「気候変動シナリオに基づく戦略のレジリエンス」に関する記載は最も低い状況に留まりました。」

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