企業年金連合会 コーポレートガバナンス担当部長
公益社団法人 会社役員育成機構 理事
北後(ほくご) 健一郎[2]
「安定株主」、「政策保有株式」、「持ち合い株式」等々、本件に関する呼び名はいくつかあり、特に海外投資家にとっては理解しづらい。彼らは「Cross Shareholdings(持ち合い株式)」という言葉のみを主に聞くのみであり、そこにある日本特有の商慣習の微妙なニュアンスにまで考えが至らないことがほとんどである。筆者は、この数ある呼び名の中でも、コーポレートガバナンスにとっては「安定株主」が最も重要な概念であると考える。従い、実際の「安定株主」はどれくらいの「規模」で、コーポレートガバナンスの改善にどのようなインパクトがあるのか、アセットオーナーの立場としての考えをまとめてみたい。
筆者は、海外出張時に必ずと言っていいほど「日本のコーポレートガバナンスの現状」という題目での講演を依頼されるが、その際に一番やっかいなことは、海外投資家の頭の中には「日本の持ち合い株は10%かそれ以下になった(と報道されている)のだから、それはもう問題ではないだろう」という、点である。無論、著名な研究機関のアナリストによる分析を立派なメディアが報道しているのでその数字自体が間違っているわけではない。しかし、その数字がどのように計算されたのか、その数字だけが全てなのか、という点を説明するのに一番苦労するのである。言うまでもないが、筆者は講演において、海外投資家に日本株式への投資を思いとどまらせるなどという意図は毛頭ない。日本の株式市場の価値極大化はアセットオーナーである我々の悲願でもある。日本のコーポレートガバナンスの進捗をスピードアップし、本物にするためにも、きちんとした現状理解をした上で投資するように講演では聴衆に伝えているのである。