Metricalではこれまでに「自己株式消却とパフォーマンス、コーポレートガバナンス」および「配当方針とパフォーマンス、コーポレートガバナンス」において、自己株式消却とパフォーマンスとコーポレートガバナンスそして配当方針とパフォーマンスとコーポレートガバナンスにおける関係についてそれぞれ検証してきました(詳細をお知りになられたい方はMetricalへご連絡ください)。今回のエクイティ発行に関する検証で三部作になります。意外にもそれぞれの切り口で興味深い分析結果が確認されました。
これまで前の2回の記事をまとめると、自己株式消却スコアはROA (actual)とTobin’s qと有意性のある正の相関が確認されていて、自己株式を3度以上消却した会社は主要パフォーマンス指標としてROE (actual)、ROA (actual)、Tobin’s qとの間に顕著に優れた数値を示しています。また、同様にコーポレートガバナンス・プラクティス(アクションを含む)の評価として、Metricalコーポレートガバナンス・スコア、独立取締役比率、エクイティ発行スコア、配当方針スコアにおいても、3度以上自己株式を消却した会社100社は、自己株式消却の頻度が低い会社よりも顕著に高い数値を示しているので、これらの会社はコーポレートガバナンスを改善する意識が強いことが確認されました。
下表の通り、2021年10月のMetricalユニバース1,716社では、エクイティ発行スコアが0(2000年以降1度もエクイティ発行を行いいていない)の会社は797社、エクイティ発行針スコアが-1(1度 だけ直接希薄化をもたらさないCB、WB、優先株などでエクイティ発行を行ったことがある)の会社は121社、エクイティ発行スコアが-2(1度増資もしくは2度直接希薄化をもたらさないCB、WB、優先株などでエクイティ発行を行ったことがある)の会社は557社、エクイティ発行スコアが-3(上記よりもエクイティ発行を行なったことがある)の会社は69社、エクイティ発行スコアが-4(上記よりもエクイティ発行を行なったことがある)の会社は118社、エクイティ発行スコアが-5以下(上記よりもエクイティ発行を行なったことがある)の会社は54社です。
下表で、エクイティ発行スコアが高い順に、主要パフォーマンス指標としてROE (actual)、ROA (actual)、Tobin’s qを示しています。また、同様にコーポレートガバナンス・プラクティス(アクションを含む)の評価として、Metricalコーポレートガバナンス・スコア、独立取締役比率、エクイティ消却スコア、配当方針スコア、現金保有スコアを示しています。
これによると、エクイティ発行スコアは主要パフォーマンス指標との間に一定の関係性が見て取れます。エクイティ発行スコアが最も低い-5以下(Metricalユニバースの中で最も頻繁にエクイティ発行を実施した)の会社54社は、主要パフォーマンス指標としてROE (actual)およびROA (actual)において、エクイティ発行スコアがより高いグループに比べて最も低い数値を示しています。一方で、Tobin’s qに関しては最も高い数値を示しています。頻繁にエクイティ発行を行うことで、ROE (actual)において株主利益の希薄化をもたらし、ROA (actual)において資産の効率的運用の低下を招いてしまうことが要因と考えられます。その一方で、エクイティファイナンスによって、将来もたらされる利益への期待から株価の評価が高まることが高いTobin’s qを示しているのかもしれません。あるいは、株価が高いが故にエクイティファイナンスを実行できるということもできます。このようなプラクティスやアクションを論理的に推論することは現時点では難しいというほかありません。引き続き分析するとともに、これらの会社の動きを注視していきたいと思います。
下表は2021年10月の相関マトリックスの一部です。Metricalユニバース1,716社において、エクイティ発行スコアはROE (actual)およびROA (actual)と有意性のある正の相関を示す一方で、Tobin’s qとは有意性のある負の相関を示しています。よって、エクイティ発行は株主価値の希薄化をもたらし、資産の効率的運用に負の効果をもたらす恐れがある一方で、将来成長への投資への期待から株価の評価は高い傾向があるとの見立てができます。このような会社の株価はおそらく相対的に変動性が高いと推測されることから、投資戦略という観点からは投資機会を捉えることができれば比較的大きめのリターンを得ることができるのかもしれません。
CG スコア Top100:
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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
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