メトリカル:エンゲージメントの効果をより上げるために投資家と会社がすべきことは….

2024年6月7日付で金融庁が「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」に関する資料を開示しました。本資料の中の「スチュワードシップ活動の実質化」概要を下記にお示し、論点を考えてみたいと思います。

スチュワードシップ活動の実質化
課題:
チェックボックスを埋めるような形式的な対話が行われており、投資先の深い理解に基づく建設的な目的を持った対話や、双方向の対話が行われていないとの指摘がある。協働エンゲージメントについても、単に協働するのみならず、テーマを絞った意味のある対話が行われることが重要との指摘がある。
また、対話の担当部門、議決権行使の担当部門、運用部門等が分離しており十分な連携が図られていないなど、対話と議決権行使を一体とした実効的なエンゲージメントが行われていないとの指摘がある。
そもそもスチュワードシップ・コードへの対応についてはその遵守状況が確認されていないため、当局において実際の取組みを点検することが必要ではないかとの指摘がある。

今後の方向性:
⚫エンゲージメントを一層実効的なものとするため、金融審議会の報告書による提言を踏まえ、建設的な目的を持った対話に資する協働エンゲージメントの促進や、実質株主の透明性確保に向けて、スチュワードシップ・コードを見直すべきである。その際、議決権行使と対話は点と線の関係にあり、議決権行使(点)に至るまでの対話の過程(線)で、どのような対話をすることが重要かという意識をもつことや、エンゲージメントの成果を意識し検証することが重要であるといった観点にも留意する必要がある。
⚫また、上記の課題の解決に向けて、望ましいエンゲージメントや望ましくないエンゲージメントについて、投資家・企業等の関係者の意見も踏まえ、具体的な事例や一定の目線を共有することが有用である。
⚫こうした視点も踏まえ、一層実効的なエンゲージメントの実現に向けて、金融庁は、関係者と連携しつつ、運用機関・アセットオーナー・議決権行使助言会社等によるスチュワードシップ・コードの遵守状況を検証すべきである。

論点1:「形式的な対話が行われており、投資先の深い理解に基づく建設的な目的を持った対話や、双方向の対話が行われていないとの指摘がある。」
以前の拙記事で何度か述べましたが、資本的収益性を向上させ、バリュエーションを上昇させた会社の特徴には外国人持ち株比率が高いことが挙げられます。またそのような会社はボードプラクティスの評価も優れている傾向があることから、海外投資家のエンゲージメントによるものと推論できます。もしも国内機関投資家のエンゲージメントが効果を挙げていないとすれば、次の理由が考えられます。(1)国内機関投資家がエンゲージメントを行うようになって日が浅い。(2)国内機関投資家のAUMの大半がパッシブファンドなので、エンゲージメントに時間と労力をかけられない。このような理由から、テンプレートの質問がエンゲージメントと称して、実効性よりもエンゲージメントの回数を実績値にしていると思われます。(1)については、今後時間をかけると効果が出てくると期待されます。(2)については、深い分析の中から出てきた提案があってこそ、会社経営者も本気で投資家と向き合うことができますから、中身のある対話のためには資産運用会社はコストとリソースをかける必要があります。そのためにはアクティブファンドを増やさなければ、深い分析はできません。投資家の後に議決権があるから、会社経営者は対話の場に出てくるのです。企業価値、株主価値を高めるために中身のある対話ができる貴重な機会を無駄にするのは惜しいことです。

論点2:「協働エンゲージメントの促進や、実質株主の透明性確保に向けて、スチュワードシップ・コードを見直すべきである。」
金融庁だけでなく官庁は制度改正する際には、一方に有利な改正にならないように、両者の勝ち負けが同じになるようにすることが多くあります。今回も投資家が求めてきた協働エンゲージメントを認める代わりに、上場会社が望んでいる実質株主の判明の助けになるよう制度を改正します。このような改正が行われれば、投資家と上場会社の双方にとってこれまでよりもエンゲージメントや実質株主判明が進めやすくなるはずです。エンゲージメントを進める上で、もう一つ大事なことがあります。会社が持ち合い株式を解消することです。会社議案に無条件で賛成してくれる持ち合い株式が減少すると、投資家の保有する議決権の重みが増しますから、投資家の提案に会社は耳を貸すようになります。

以上をまとめると、金融庁が6月7日付で開示した「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」の中の「スチュワードシップ活動の実質化」概要とその論点を考えてみました。

以前の拙記事で何度か述べましたが、資本的収益性を向上させ、バリュエーションを上昇させた会社の特徴には外国人持ち株比率が高いことが挙げられます。海外投資家のエンゲージメントによる効果と考えられます。

国内機関投資家のエンゲージメントが効果を挙げていない理由は、エンゲージメントを行うようになって日が浅いことと、国内機関投資家のAUMの大半がパッシブファンドなので、エンゲージメントに時間と労力をかけられないことです。中身のあるエンゲージメントのためにはアクティブファンドを増やす必要があります。

投資家が求めてきた協働エンゲージメントと上場会社が望んでいる実質株主の判明の助けになる制度を改正が行われれば、双方にとって課題の一部が解消されます。

もう一つ大事なことは会社が持ち合い株式を削減すると、投資家の保有する議決権の重みが増すので、エンゲージメントがもっと効果を発揮します。
http://www.metrical.co.jp/jp-cg-ranking-top10

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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
akimatsumoto@metrical.co.jp
http://www.metrical.co.jp/jp-home/

 

 

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