【メトリカル】収益性を高めることによって海外投資家の支持を得ることがバリュエーション上昇の条件

Metricalの分析
日本の会社のコーポレートガバナンスの分析を本格的に始めたのは2015年6月からで、その当時は500社をカバーしていました。その後2018年2月から現在まで約1,800社を分析しています。これら1,800社をユニバースとして、有価証券報告書、コ―ポレートガバナンス報告書、決算短信など公開情報をもとに月次でアップデートしています。Metricalのコーポレートガバナンス分析はボードプラクティスとキー・アクションに分かれています。それは取締役会の構成などボードプラクティスの部分を形式的に整えたとしてもそれが価値を生み出す経営に生かされているか懐疑的なためです。というのは、理想的にはコーポレートガバナンスの改善は価値を生み出すことに直接つながるか、あるいはボードプラクティスの改善がキャッシュ・アロケーション、自己株式買い戻し・消却などのキー・アクションを通じて価値を生み出すという仮説に基づいているのです。よって、キー・アクションをコーポレートガバナンスの評価に加えるべきだと信じています。

外国人持ち株比率
このような考え方は投資家の投資先会社に対するエンゲージメントの考え方に近いと考えています。海外投資家はエンゲージメントを通じて、ボードプラクティスを改善するとともに、企業価値の持続的拡大という経営目標を達成するためにキー・アクションにも改善を求める対話を行ってきました。この成果は収益性、ボードプラクティス、キーアクションの改善に現れ始めています。

Metricalユニバース1,822社(2024年1月)を外国人持株比率で5つのグループ(30%以上、20%以上30%未満、15%以上20%未満、10%以上15%未満、10%未満)に分けて各項目で分析した結果を下に示します。外国人持株比率の中央値は15%ですが、東証のデータによる海外投資家の保有比率は30%あまりです。このことから海外投資家の投資対象である大型株の外国人持ち株比率が高い傾向がわかります。また、これまでの分析から外国人持ち株比率30%に閾値のようなものがあると考えられ、外国人株主の影響力が強くなり、その結果会社の経営改善が進むことが期待できます。株主総会で特別決議の1/3の存在が影響していると推測しています。

外国人持ち株比率が高い会社の特徴は、下表の通り時価総額が大きく収益性の高い会社です。その結果、株価バリュエーションが高くなります。別の特徴には、親子上場の上場子会社への投資は避ける傾向があります。

次に、外国人持株比率の高い会社のボードプラクティスの特徴は、外国人持株比率30%以上の会社は顕著に優れた値を示しています。外国人持ち株比率20%以上30%未満の会社でも、概ね優れた値を示していることから、外国人持株比率が上昇して海外投資家の影響力が増すと、ボードプラクティスが改善すると考えて良さそうです。海外投資家のエンゲージメントがボードプラクティスの改善に寄与してきたと考えられます。また、上述の通り、外国人持ち株比率が高い会社には時価総額が大きい会社が多いことから、海外投資家のエンゲージメントがあまり届いていない時価総額の小さい会社のボードプラクティス(下で述べるキー・アクションでも)と差がついていると推察します。

外国人持株比率の高い会社のキー・アクションは、下表の通り、外国人持株比率30%以上の会社はGrowth Policy Score、Policyshare Holding Score、Treasury Stocks Retirement、AGM Disclosures Score、IR Disclosures Scoreで優れた値を示しています。一方で、Cash Holding Scoreはいずれのグループにも課題があることが示されているので、手元キャッシュを余分に抱えている会社が多いと考えられ、キャッシュ・アロケーションには全ての会社に課題があります。会社はもっと投資と株主還元にキャッシュを使う必要があります。

過去1年間のバリュエーションの動向
2023年3月末に東証がP/B引き上げを要請して1年間経過しました。多くの会社の株価も上昇したことからバリュエーションの上昇が期待されています。下記の分析では2023年3月から2024年3月の期間のMetricalユニバースにおけるTobin’s Qを上昇させた会社の傾向を検証しています。

2023年3月から2024年3月で比較可能なMetricalユニバース1,750社において、Tobin’s Qの変化率で5つのグループ(50%超上昇、25%超50%以下上昇、0%超25%以下上昇、変化なし、低下)に分けて各項目で分析します。この期間のTobin’s Qの変化率の中央値は2.06%でした。

Tobin’s Q が50%超上昇した会社はTobin’s Q、過去3年平均ROEおよびROA、外国人持ち株比率が高い会社が含まれていることがわかります。ここでもバリュエーションを上昇させるドライバは海外投資家であることが確認されます。海外投資家の投資対象である比較的時価総額が大きい会社のTobin’s Qが上昇しました。もう一つの注目は、Tobin’s Q が50%超上昇および25%超50%以下上昇した会社は継続してROEとROAを上昇させたことです。

対照的にTobin’s Q が変化しなかった会社は従来からTobin’s Qが低めで外国人持ち株比率が低く、時価総額が小さく、ROEおよびROAも低いことがわかります。一方で、Tobin’s Q が低下した会社の場合にはやや複雑です。もう少し詳しく分析する必要がありますが、これらの会社には外国人持ち株比率が低く、時価総額が小さい傾向がありますが、Tobin’s Q が比較的高いことから、行き過ぎたバリュエーションが調整された会社が含まれている可能性があります。これらの会社はROEとROAを上昇させていることから、収益力に問題がなければバリュエーションが低下して投資魅力が増加した会社が含まれている可能性があります。

Tobin’s Qの変化率とボードプラクティスの特徴に関しては、下表の通り際立った特徴はありませんが、外国人持ち株比率が最も高かったTobin’s Q が25%超50%以下上昇した会社がボードプラクティスおよびMetrical CG Scoreで最も優れた値を示しています。このことは上述の通り、外国人持ち株比率がボードプラクティスのドライバであることを示しています。

Tobin’s Qの変化率とキー・アクションの特徴に関しては、もう少し傾向がはっきりしています。Tobin’s Q が50%超上昇した会社およびTobin’s Q が25%超50%以下上昇した会社はGrowth Policy Score、Treasury Stocks RetirementおよびAGM Disclosures Scoreが優れています。一方で、Cash Holding ScoreおよびPolicyshare Holding Scoreには改善の余地があります。これらの会社は高い収益力を背景に積み上がった手元キャッシュを返還し、政策投資株式を削減することによって一段の資本収益性が向上する余地があります。

このことから、東証のP/B引き上げ要請が注目を集めましたが、Tobin’s Qを上昇させた会社は従来からTobin’s Qが高い会社が多かったことがわかります。そして、バリュエーション上昇のドライバは海外投資家であることです。また、バリュエーションを上昇させた会社は継続してROEおよびROAを伸ばしています。言い換えれば、収益力の向上なしにP/B底上げ期待だけでバリュエーションを引き上げることはできませんでした。収益力が高い会社はなおさら手元キャッシュが積み上がるので、一段の株主還元がさらにROE、ROAにポジティブな影響を与えることが期待されます。

一方で、バリュエーションを低下させた会社には時価総額が小さいために海外投資家がカバーしていない会社が含まれていますが、中にはROEおよびROAが比較的高い会社が含まれています。バリュエーションが低下して投資機会が高まった小型株が含まれている可能性があります。

さらに、IR Disclosures Scoreの中央値はTobin’s Qの変化率で差異はありませんでした。このことから、海外投資家の支持が得られる収益力がなければ、単にP/B底上げ期待とIRアクティビティの強化だけではバリュエーションを引き上げる効果は限定的であると思われます。
http://www.metrical.co.jp/jp-cg-ranking-top100

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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
akimatsumoto@metrical.co.jp
http://www.metrical.co.jp/jp-home/

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