【メトリカル】会社はようやくROE改善の第一歩を踏み出すスタートラインに着いたところ

東証は、2023年10月26日に「「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について」を公表しました。以下、この資料の概要を紹介し、問題点を考えてみます。

1. 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の取組み
開示企業一覧表の公表、趣旨・留意点の再周知。
■対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取組みを後押しする観点から、要請に基づき開示している企業の一覧表を公表。 【2024年1月15日に公表開始、毎月更新予定】
■ 公表開始前に、一覧表の公表を開始する旨とあわせて、要請の趣旨・留意点について上場会社に改めて周知。 【2023年10月26日、上場会社に通知】

対応のポイント・取組事例の公表
■投資者の視点を踏まえた対応のポイントや、投資者の高い支持が得られた取組みの事例について、企業の規模や状況に応じていくつかのパターンを取りまとめ、公表。 【2024年1月を目途】

対応状況の集計・周知
■企業の開示状況や投資家等からのフィードバック等を概ね半年に1回程度集計。 【次回は2024年1月を目途】

2. 開示企業一覧表の公表について
■対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取組みを後押ししていく観点から、以下
のとおり、要請に基づき開示している企業の一覧表の公表を開始いたします。

開示状況の集計方法
直近に提出されたコーポレートガバナンス報告書の「コードの各原則に基づく開示」欄、もしくは、「コードの各原則を実施しない理由」欄において、
■「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」というキーワードを記載している
場合には「開示済」
■「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワードを記
載している場合には「検討中」
として集計。
※ いずれのキーワードも記載されていない場合、一覧表には掲載されません。

3. 今般の要請、一覧表に関する留意事項
要請の対象
■ 今般の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請は、中⻑期的な企業価値向上の実現に向けた取組みや株主・投資者との建設的な対話を促進するための施策であり、PBR水準に係わらず、全てのプライム市場・スタンダード市場上場会社に対応をお願いするものです。
■ 他方で、⾜元の開示状況を⾒ると、PBRが低い企業を中⼼に開示が進展している一方で、PBRが⾼い企業では相対的に開示が進んでおらず、国内外の投資家からは、PBRが1倍を超えていれば今般の要請への対応は不要という誤解が生じているという指摘が寄せられています。
■ 既にPBR1倍を超えている場合であっても、株主・投資者の期待、国内外の同業他社との比較、PBR以外の資本収益性や市場評価に関する指標の状況などを勘案しつつ、更なる向上に向けた取組みについて、積極的な検討・対応をお願いいたします。
■今回の要請では、開示の形式・書類は一律に定めていないものの、いずれの形式でも開示した場合には、投資者がその閲覧方法がわかるよう、CG報告書において、開示している旨や閲覧方法の記載をお願いしておりますが、CG報告書における記載が無い(決算説明資料等のみで開示されている)事例も散⾒されています。

「検討中」という開示を⾏う場合の留意事項
■「検討中」という開示を⾏う場合には、株主・投資者のわかりやすさの観点から、検討状況や開示の⾒込み時期について、可能な限り具体的な説明をお願いします。

英文開示
■ 今般の要請に基づく開示内容について、英文開示を⾏っている場合、CG報告書において、「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」もしくは「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワードに続けて、「【英文開示有り】」と記載してください。

論点1:「要請に基づき開示している企業の一覧表を公表。2024年1月15日に公表開始、毎月更新予定。」
一覧表に記載される項目は、ticker、会社名、上場市場、業種、開示済みor検討中の別、英文開示、の6項目です。どのような内容の開示だったのかのサマリーはありませんので、開示したか、まだ開示していないかの区別ができるだけですから、内容はともかく「開示する」という目標に向かって会社は動くことになります。まだ30%程度の会社が開示したとの報告があるので、12月末までにコーポレートガバナンス報告書の提出が増える見通しです。一方で、にコーポレートガバナンス報告書に「検討中」と記載した会社は一覧表の中で目立ち、その理由に関心を持つ投資家も増えると予想されるので、「検討中」と記載する勇敢な会社がどのくらいあるのか疑問です。また、いっそのこと当面の間は何もアクションを起こさない(開示も「検討中」とも記載しない)会社があらわれることも考えられます。あくまで東証の「要請」出会って、ルールでないので、開示できる内容が準備できるまで何もアクションを起こさないこともできます。「検討中」と記載して「後むきな対応」だと思われたり、開示しても「その内容が乏しい」と批評されるリスクを恐れてそのようなノーアクションの会社が出てくることも考えられます。

論点2:「投資者の視点を踏まえた対応のポイントや、投資者の高い支持が得られた取組みの事例について、企業の規模や状況に応じていくつかのパターンを取りまとめ、公表する。」
好事例は東証が委員メンバーと選ぶのかもしれません。一覧表よりもこちらの方が上場会社と投資家の関心を集めるかもしれません。とりわけ開示内容が乏しい会社にとっては、翌年度の開示において内容を改善するヒントが欲しいと思っているからです。それゆえ、東証が公表する好事例はメルクマールになるので、その内容をある種の基準として投資家にとってもその基準あたりの開示を会社に求めやすくなります。現時点では、その基準が多くの会社に容易い目標値なのか、ジャンプが必要なくらいのものなのか不明ですが、来年度以降の会社の取り組みに良い影響が出ることが期待されます。

よって、好事例の会社の開示内容が注目されます。少なくとも資本コストは明示されていると思われますから、開示するほとんどの会社が資本コストを明示することになり、このことは大きな前進です。そして、多くの会社が資本コストに対してそれより低いリターンに甘んじていることから、このギャップを埋めてさらに高いリターンを上げるための施策(できれば短期と中長期の施策)を開示できるのかがポイントです。この課題をクリアできる会社は少ないと推測されますし、にわかにその施策を信じることができる投資家も多くないと思われます。会社は決算という成績表を持って実績を積み上げて投資家の信頼を得る以外に方法はありません。大きな一歩のあとの地道な実績づくりは息の長い工程です。

以上をまとめると、東証が10月26日に開示した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について」の概要とその論点について検討しました。

東証の要請に基づき開示している企業の一覧表には、「開示したかどうか」だけがわかるだけなので、12月末までにコーポレートガバナンス報告書にとりあえず開示する会社が増える見通しです。

東証は好事例を公表する予定です。とりあえず開示した会社にとっては、乏しい開示内容を翌年度の開示において改善するヒントが欲しいと思っているので、好事例を参考にするでしょう。投資家にとっても好事例を基準として会社に改善を要求しやすくなります。会社と投資家の双方にとって、どの程度の開示が基準になりそうなのか注目されます。

少なくとも資本コストは明示されていると思われますから、このことは大きな前進です。しかし、その後の資本コストとそれより低い実績リターンとの間のギャップを埋めてさらに高いリターンを上げるための施策を開示できるのかがポイントです。会社は決算という成績表を持って地道に実績づくりをすることはさらにハードワークです。ようやくその第一歩を踏み出すスタートラインに着いたところなのです。

コーポレート・ガバナンス・ランキング Top 100 をもっと見たい。
http://www.metrical.co.jp/jp-cg-ranking-top100

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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
akimatsumoto@metrical.co.jp
http://www.metrical.co.jp/jp-home/

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