ニデックによる同意なき公開買付、独立社外取締役の仕事

ニデックはTAKISAWAに対するTOBの開始予定を2023年7月13日に公表し、開始公告日を9月14日とした。最近増加中の、同意なきTOBの一事例として、注目されている。
https://www.nidec.com/-/media/www-nidec-com/corporate/news/2023/0713-01/230713-01.pdf?rev=8a29661706974025b71b8c1aa94315e2&sc_lang=ja-JP

TAKISAWAはTOBに対する意見表明を9月13日に行う予定である。
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS03883/ff839bdc/66b0/426c/b7a4/7b1063f68ebc/140120230822545294.pdf

永守氏が工作機械事業について売上高目標を掲げ、M&Aを活用することを宣言すると、ニデックが必要な技術や、買収に適した企業規模に鑑み、TAKISAWAが買収対象となることは、識者には容易な推測であったようだ。
https://kabushiki.jp/news/523323
この記事の中では、また、別候補として高松機械工業の社名もあがっている。
https://www.takamaz.co.jp

TAKISAWAも高松機械工業も、事前導入型買収防衛策を株主総会で決議しているが、両者の防衛策はかなり異なる。これらの会社で独立社外取締役となっていたら、どのような判断が求められるのか、考えてみよう。

TAKISAWAは2010年に買収防衛策を導入し、直近の2021年株主総会で継続を決めた。70.7%で可決決議されている。
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS03883/ebe348cc/0450/493b/965a/583a68005d75/S100LWDD.pdf

この買収防衛策では、対抗措置を発動することがあるのは、以下の(1)または(2)に定める要件のいずれかに該当し、当該大規模買付行為が明らかに当社の企業価値を毀損し株主共同の利益を害するものであり、対抗措置をとることが相当であると当社取締役会が判断した場合である、とする。
(1)下記に掲げる行為等により、当社の企業価値ひいては株主共同の利益に対する明白な侵害をもたらすおそれのある買付行為である場合
(a)株式を買い占め、その株式について当社に対して高値で買取りを要求する行為
(b)当社の経営を一時的に支配して、当社の重要な資産等を廉価に取得する等、当社の犠牲のもとに買付者等の利益を実現する経営を行うような行為
(c)当社の資産を買付者等やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する行為
(d)当社の経営を一時的に支配して、当社の事業に当面関係していない高額資産等を処分させ、その処分利益をもって、一時的な高配当をさせるか、一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って高値で売り抜ける行為
(2)強圧的二段階買付等、株主に株式の売却を事実上強要するおそれのある買付である場合
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS03883/8a0b7507/59a6/4f5f/b18c/c1ba71efe453/140120210514418369.pdf

上記(a)-(d)はニッポン放送高裁判決が示した、株主全体の利益の保護という観点から、新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある例外的な場合として挙げられた、4例である。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/011/000011_hanrei.pdf

ニデックによる買収がこれら4類型に当たるとは、言えないだろう。買付予定数は上限なし、下限は発行済株式の過半数であり、強圧的二段階買付でもない。すると、TAKISAWA取締役会に、対抗措置を発動する余地は殆どないように思われる。

TAKISAWAの独立委員会は、社外取締役監査等委員である5名で構成され、取締役会の諮問機関となる。
https://www.takisawa.co.jp/company/index.html
独立委員会は対抗措置が発動される場合に、その是非について諮問を受けるのみであるので、対抗措置発動がなければ、独立委員会の出番はない。ただ、同意なき公開買付に際して特別委員会なるものが設置されたようであり、適時開示情報からは明らかではないが、独立委員会と同じメンバーで構成され、取締役会の諮問機関となっていることが窺われる。

現在、取締役会及び独立委員会において検討が進められ、9月13日には、(I)TOBに賛成か反対か、つまりこの買収がTAKISAWAの企業価値を向上させると考えるか、そして(II)TOBに応募することを推奨するか否か(中立もありうるが)、つまり買付価格は十分なプレミアムを含むものであるか、について意見が公表されるだろう。買収防衛策について答申しなくてもよい点は、TAKISAWAの独立社外取締役にとって、大きな安堵をもたらしたはずだ。

これに対して、高松機械工業に対して同じTOBがなされたと仮定してみると、様相はかなり異なる。

高松機械工業は、2008年に買収防衛策を導入し、直近の2023年に継続を決めた。高松機械工業では、社外取締役3名と社外監査役1名とが第三者委員会を構成し、取締役会の諮問機関となるそうだ。
https://www.takamaz.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/05/230522-2.pdf

高松機械工業の買収防衛策は、対応措置をとることがあるのは、7類型に該当する場合であるとするところ、5つまではTAKISAWAで挙げた場合と同じである。しかし高松機械工業には以下のような2つの追加類型がある。
(i)大規模買付者が当社の経営を支配したことにより、当社の株主の皆様はもとより、顧客、従業員、取引先、地域社会その他の利害関係者の利益を含む当社の企業価値ひいては株主共同の利益を著しく損なうと判断される場合
(ii)大規模買付者の提案する当社株主等の買付条件(対価の価額、種類、対価の価額の算定根拠等)並びに買付の内容、時期、及び方法等が当社の企業価値の源泉に鑑み、著しく不十分又は不適当である場合

しかし、上記(i)(ii)は、株主が自らの意思で決めれば良いことであり、高松機械工業としてはTOBに関する意見として表明すれば済むはずであり、対抗措置の発動を正当化する類型として構成するのが適切かは、疑問である。それとも、上記(i)は、株主意思には任せられない、という意味合いを含むのであろうか。株主利益よりもその他ステークホルダーの利益を優先させることが、全体としての企業価値としては必要であり、それが結局は株主利益になるのだが、近視眼的な株主にはそれが見えていないから、取締役会及び第三者委員会が父権的に対抗措置を発動するということなのであろうか。さらに上記(ii)は、個々の株主が評価すれば良いことに思える。いくらで株式を購入していくらで売却し、いくらの投資成績を上げるかは、基本的には各株主の自由だ。対抗措置を発動して投資成績を上げる機会を奪う正当化理由はどこにあるのだろうか。

高松機械工業臨時報告書によれば、この買収防衛策は91.7%で可決されている。
EDINET

2023年3月31日現在の大株主の状況は、上位から、高松機械工業取引先持株会(9.75%)、株式会社タカマツ(7.48%)、北国総合リース株式会社(4.00%)、株式会社北國銀行(3.77%)、日本生命保険相互会社(3.55%)、株式会社朝日電機製作所(3.34%)、明治安田生命保険相互会社(3.32%)、BBH FOR FIDELITY LOW-PRICED STOCK FUND(3.22%)、高松機械工業社員持株会(3.10%)、高松明毅(3.05%)、合計44.56%である。株主利益には強い関心を持たない、別の立場での利益を優先する者が多いように見える。
https://www.takamaz.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/06/202306.pdf

高松機械工業に同じようなTOBが起きたならば、少数株主保護を考えねばならない独立社外取締役としては、難しい判断を迫られる、厳しい状況に陥ることになりそうだ。

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