メトリカル:コーポレートガバナンスはどのくらい改善したか2021年(5)- 独立取締役比率の変化

前の記事「How far has corporate governance progressed in 2021 (4)」で、Metricalユニバース1,704社の2020年12月および2021年12月時点のROAおよびROEのそれぞれの変化率でコーポレートガバナンス・プラクティスの各評価項目について相関を分析について述べました。その分析結果では、コーポレートガバナンス・プラクティスをボードプラクティスと会社の実際の行動を表すキー・アクションで分けた場合、ROAおよびROEはともにキー・アクションとは有意性のある相関が確認されましたが、ボードプラクティスとは有意性のある相関は見られませんでした(下表参照)。このことから、2021年の分析期間では、会社の利益が増加して好業績が自信につながったことがボードプラクティスを改善するインセンティブにならなかったという推論ができます。会社はボードプラクティスを改善する何か別の動機があったのではないかとお伝えしました。

Metricalではこれまでの記事で何度かボードプラクティスの評価項目の中で独立取締役が取締役総数に占める割合が取締役会の運営を改善するための鍵になると述べてきました。そこで、今回の記事で独立取締役比率の2020年12月および2021年12月時点の変化とコーポレート・ガバナンスの各評価項目それぞれの変化率との相関を分析してみました。その結果、独立取締役比率の2020年12月および2021年12月時点の変化率と有意性のある正の相関が示されたのは、指名委員会スコアと報酬委員会スコアそれぞれの変化ということが確認されました(下表参照)。それ以外には有意水準5%には僅かに至りませんでしたが、ex-CEOアドバイザーの人数と成長方針スコアそれぞれの変化率は独立取締役の変化率と負の相関が示されました。これらの負の相関に関しては有意水準5%には至っていませんが、なぜこれらが独立取締役比率の変化と負の相関になったかの理由を探るとともに今後有意水準になるのかに注目していきたいと思います。

一方で、有意性のある正の相関が示された指名委員会スコアと報酬委員会スコアに関しては納得がいきます。以前の記事「How far has corporate governance progressed in 2021 (1)」および「How far has corporate governance progressed in 2021 (2)」で述べました通り、各評価項目について1年間の推移を検証した結果、2022年4月の東証の市場区分の再編に伴い上場会社のコーポレートガバナンスの改善には2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの影響があったことが確認されました。つまり、改訂コーポレートガバナンス・コードの中で具体的に改善すべき事項として言及があった独立取締役比率と指名委員会および報酬委員会が改善し、改訂コーポレートガバナンス・コードの中で具体的に改善すべき事項として言及がなかった評価項目、例えば取締役会の議長、女性取締役、買収防衛策に関してはほとんど改善していないか限定的な改善にとどりました。

このことは上述および上表の独立取締役比率の変化率とコーポレートガバナンス・プラクティスの各評価項目の変化率との相関分析の結果と一致しています。上場会社の多く、とりわけプライム市場への上場を選択した会社はプライム市場上場会社に対して2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて言及された独立社外取締役3分の1以上の選任(原則4-8)および委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等の開示(補充原則4-10①)において改善したことが裏付けられました。それ以外にも、企業の中核人材における多様性の確保(補充原則2-4①)や企業の中核人材における多様性の確保(補充原則2-4①)など、いくつかプライム市場上場会社に対して改訂コーポレートガバナンス・コードが求めた事項がありました。しかし、具体的な改善すべき事項や数値目標として言及されなかったものは、2021年には手をつけられなかったということができます。

実際に独立取締役比率が上昇した会社が指名委員会スコアと報酬委員会スコアをそれぞれどれくらい向上させたかを下表に示します。独立取締役比率の変化のグループごとに指名委員会スコアと報酬委員会スコアの変化を見ると、2021年に独立取締役比率を引き上げた会社は指名委員会スコアと報酬委員会スコアをともに改善させています。このことから、Metricalユニバース1,704 社のうち独立取締役比率を引き上げた719社(42.2%)は指名委員会と報酬委員会を設置したり、委員会の過半数を社外取締役が占めたり、委員長を社外取締役が務めるなどの改善を行った結果、それぞれのスコアでMetricalユニバース全体の平均改善点を上回ったことがわかります。このことから、Metricalユニバース1,704 社の42.2%の会社が2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて具体的に言及された独立社外取締役3分の1以上の選任(原則4-8)および委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等の開示(補充原則4-10①)に対応したと考えることができます。

下表にコーポレートガバナンス・プラクティスの各評価項目それぞれの変化の相関のマトリックスを示します。これによると、有意性のある正の相関が最も多かった評価項目はキー・アクションの中の現金保有スコアの変化でした。現金保有スコアの変化は自己株式消却スコア、成長方針スコアおよびMetricalスコアと有意性のある正の相関がありました。現金を減らして自己株式消却と成長方針を明確にすることは理屈にもあっています。結果としてコーポレートガバナンスのスコア(Metricalスコア)が改善することも理解できます。その次に有意性のある正の相関が多かったのは独立取締役比率の変化でした。ボードプラクティスの評価項目の中では独立取締役比率がコーポレートガバナンスに最も影響力があるということを裏付けているということができます。

独立取締役比率の変化が指名委員会スコアと報酬委員会スコアの変化と有意性のある正の相関があった以外には、他の評価項目の変化に影響を与える有意性のある正の相関があったボードプラクティスの評価項目の変化はありませんでした。2021年の1年間の分析だけでは結論を出すわけにはいきませんが、2021年の改善の多くはコーポレートガバナンス・コードの改訂により、プライム市場の上場会社に具体的に求められた独立取締役比率、指名委員会および報酬委員会の改善に取り組んだことによるものでした。業績が改善するなど会社経営に自信を高めた会社がコーポレートガバナンスを改善する傾向があるのか、コーポレートガバナンスを改善した会社はより良いキー・アクションにつながり、業績が改善する傾向があるのか、という「鶏と卵」の議論がありますが、2021年に関してはプライム市場の上場会社に具体的に求められた事項に関して多くの会社が対応したということができます。今後もコーポレートガバナンス・コードの改訂などパッシブなイベントによる動機がコーポレートガバナンスの一層の改善の動機になるのか、それともアクティブにコーポレートガバナンス・プラクティスを改善する会社が増えていくか検証していきたいと思います。

株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
http://www.metrical.co.jp/jp-home/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください