板垣隆夫氏レポート:『2019年住友化学(株)株主総会(6月21日)出席報告』

「[1]全般概況

ここ数年、コーポレート・ガバナンス(CG)改革の影響を受けて、日本企業のCGは確実に変化しつつあり、株主との対話の場としての株主総会も変貌してきたのは明らかだと思います。当社の株主総会も、参加者は増加傾向にありましたが、今年は更に大幅に増えて、質問も活発で以前と比べると明確に活性化してきたと言えます。しかし、形だけでなく実質的に本当に企業体質は変わったのか、株主と本当に真摯に向き合う株主総会になっているか、その真価を見定めるためには暫く時間が必要です。

●一昨年から、会場が利便性の高いベルサール東京日本橋に移り、参加者は着実に増えています。昨年10月に単元株式数を1,000株から100株に変更した影響もあったのでしょう、今年は更に大幅に増え、会場はほぼ満員状況でした(2017年700人、2018年800人、本年1100人强)。

●質問者は昨年より2人増の10人でした。参加者数の大幅増加を見込んだためか、冒頭議長より多くの人に発言してもらうため1回の発言につき2問に制限するとの宣言がありました。小生は事前に3項目の質問状を送付していましたが、ルールに従い1回目は2項目質問し、もう1項目は後でするつもりでしたが、他の人から類似の質問が出たことから、結局2回目は質問出来ませんでした。終了時間は11時50分で昨年より20分短くなりました。手を挙げている人が何人もいたのに、質疑を早々と打ち切ったのは、新社長の「安全運転」したいという願望の表れでしょうが、釈然としないものが残りました。

●小生の一番目の質問は、「ESG経営とミツバチ問題・廃プラスチック問題への対応」の問題です。近年当社が最も先進的なESG・SDGs経営企業として名を知られるようになったことは、住友精神を具現化したものであり、大いに応援したいと思っています。ただ、経済価値と社会価値の矛盾の問題、有名になった分だけ、反社会価値的言動への監視が厳しくなることも忘れるわけにはいきません。そこで、ミツバチの大量死・農薬問題と廃プラスチック海洋汚染問題という懸念される問題への対応を質しました。廃プラ問題は産業界全体で今後積極的に取り組むとの前向きな説明でしたが、ミツバチ問題は科学的に因果関係が特定されたわけではないという従来の主張の延長線での回答でした。いつまでこの論理が通用するのか疑問を抱かざるを得ません。食糧増産と生物多様性保全と言う二つの有用な社会的価値の相克の問題なので、解決は簡単ではないでしょうが、少なくとも養蜂家や環境団体との誠実で透明性ある対話に努力して頂きたいと改めて思いました。

●小生の二番目の質問は、「監査役と内部監査の監査機能の実効性向上のための方策」、とりわけ内部監査のレポートラインの問題と監査役の選任プロセスの問題です。最近CG改革の議論が、攻めのガバナンスから守りのガバナンスに移りつつあり、経産省や金融庁のガバナンス関連会合でも、監査役・内部監査を巡って活発な議論が展開され始めたことは、大いに歓迎すべきことです。これらは経営トップからの独立性の確保が重要な課題となっていることを踏まえ、当社の状況と今後の課題について、敢えて監査役と社外取締役を指名して質問しました。両者の回答は、個々の論点では賛同し難い点も少なくありませんが、真面目に問題を受け止め、当社の取組みを誠実に説明しようとした姿勢は、評価できるものでした。ただし、以前実行されていたはずの、子会社監査役の選任議案作成の際の親会社監査役の関与について、何の説明もなかったのは誠に残念です。

●小生の三番目の質問は、サウジ・ラービグプロジェクトに関してでした。株主への情報提供のあまりの少なさを指摘し、せめてHP上で公開されている投資家向け説明と同程度の情報が必要ではないかと提起した上で、以下の説明を求めました。①ここ数期の損益状況(当社持分損益)、②Ⅱ期計画の立上り状況と損益への寄与、③増資案の進捗状況と当社キャッシュフローへの影響について。

  今回他の株主からのサウジアラビアの政治リスクに関する類似の質問と重なったため、小生の2回目の質問ができなかったことは已むを得ないでしょう。しかし、事前質問状で詳しく質問事項を記載していたにもかかわらず、一部を除いて断片的な説明しか行わず、結果的に回答漏れとなったのは、大きな疑問があります。当然議長はサウジ・ラービグに関して事前質問状が来ていることを紹介して、担当役員に①~③への回答を促すべきだったと思います。従来から、本件に関する株主への情報提供は全く不充分でありますので、今後の改善を強く求めたいと思います。

●新社長はやや硬さはあったものの、全体として真摯かつ丁寧な説明を行っていたと感じました。ただ気になったのは、「当社は住友の事業精神を継承しており、その教えを戒めとして守ってきたので、トップの腐敗や暴走と言うことは、当社には起こり得ないと考えている。」との発言です。その前後に、「威儀を正せという叱咤激励だと考えている」とか「驕りとか油断によってそういうことは絶対に発生しないとはいえないということは、自分自身にも常々言い聞かせている。」と自身では自戒していることは良く理解できます。とはいえ、当社の少なくともこの10年の過去の問題点に目をつぶることなく、そこから重要な教訓を汲み取ることは不可欠です。

昨年の伊藤社外取締役、今年の池田社外取締役が語る通り、「この数年で住化のガバナンスは非常に進化した」のは間違いないと思います。

  しかし、次のことは決して忘れてはならないでしょう。業績さえ挙げればコンプライアンスなどはどうでも良いと公言する幹部が我が物顔で社内を闊歩していたこと、トップ経営者のワンマン・オールマイティ化と権限の過度の集中があったこと、トップと取り巻きグループによる恣意的人事が横行し、物申す気概のある幹部や社員の排除があったこと、そして役員によるパワハラの放置、ガバナンス不全の犠牲者としての執行役員の死。これらは、ほんの数年前まで現実に存在していた病弊です。新社長には、総会で述べられた決意を大切にして、健全な組織風土の更なる涵養に努めて頂くことを期待します。

[2]小生の質問と会社側の回答(詳細)

【事前質問状】

OB株主の板垣隆夫です。コーポレート・ガバナンス改革が進む中、株主総会は意思決定の場であるだけではなく、株主・投資家との建設的な対話、コミュニケーションの場としても、実質的な充実、活性化が求められています。そのためにも、新社長をはじめとした経営陣と監査役には従来以上の真摯かつ丁寧な説明を期待しています。

1.ESG・SDGs経営への取組みの先進性とミツバチ問題・廃プラスチック問題への対応

近年ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)などグローバルな社会的課題への企業の取り組みが強く求められています。その点で、当社は昨年の「ジャパンSDGsアワード」での受賞に続き、本年世界自然保護基金(WWF)ジャパンの「企業の温暖化対策ランキング」で化学業種の第1位を獲得したように、最も先進的な企業の一つと評価されています。これらは、素晴らしいことではありますが、株主として喜んでばかりはいられません。そもそも、経済価値と社会価値の創出の両立を目指すことは当然としても、短期的にはそれらがぶつかり合い難しい選択を迫られることは十分あり得ます。また注目度が高くなればなるほど、社会価値に反する活動には厳しい批判を覚悟せねばなりません。

そこで、我々が一番心配している事案が二つあります。第一は、当社が製造販売するネオニコチノイド系農薬がミツバチの大量死や失踪の原因となっていると言われる問題です。EUや米国では使用禁止など規制が行われており、我が国でも養蜂家や環境NGOが規制を求めています。第二は、廃プラスチックによる深刻な海洋汚染の問題です。今や世界的な課題となっており、化学産業の責任は極めて重大です。高度の技術開発力を生かして社会課題の解決を目指す当社の真価がまさに問われています。これらの問題にどう対応するのか、具体的な説明をお願いします。

【会社回答】

・当社はサスティナブルな社会実現に貢献していくことを企業理念としている。外部からの高い評価を励みに様々な社会課題の解決に真摯に取り組んでいきたい。

・農薬事業は飢餓のない社会を実現するための食糧増産に貢献している。一方生物の多様化保全も重要な社会課題であるが、当社は環境や生物への安全性を最優先して農薬開発を取進めている。ミツバチの大量死は未だ原因が特定されておらず、様々な原因説がある。欧州を中心にした規制はあくまで可能性を考慮したもので、科学的に断定されたものではない。当社としては、欧米の大手メーカーと協力して自社での実証研究や、科学的研究にも協力を行い、安全性への懸念を払拭していきたい。また養蜂家との対話、農家での適切な使用の普及に努力していく。

・廃プラスティック問題の解決はバリューチェーンに携わる企業として早急に取り組むべき課題だと捉えている。一企業だけでなく、産業界全体、国際的な取組みが重要である。当社は環境排出低減を推進する国際的イニシアティブ(「AEPW」)にいち早く参加することにしており、高い技術開発力を活かして貢献して参りたい。

【事前質問状】

2.監査役と内部監査の監査機能の実効性向上のための方策

ガバナンス改革の深化の中で、最近守りのガバナンスの重要性が再認識されており、とりわけ監査役と内部監査の連携と各々の監査機能の実効性向上の方策が様々な研究会等で議論されています。これらは経営トップからの独立性の確保が課題となっているのが特徴ですので、本日は監査役と社外取締役にご意見を伺いたいと思います。(取締役会、監査役会としてではなく、個人的見解で構いません)

①監査役については、CEO等が実質的に選任権を持っていることが監査役の独立性を弱めているとの指摘があります。監査役の選任について、監査役会もしくは監査役を含む任意の諮問委員会が議案を提案することが必要との意見があります(なお会社法には監査役会の選任議案提出請求権の規定があるので、現行法の枠内で可能です)。また子会社監査役の選任について、親会社監査役が同意等により関与することや4年の法定任期の遵守が必要との意見があります。当社の現状と今後の対応について、監査役のご意見を伺います。

②内部監査部門については、CEO等のみの指揮命令下となっているケースでは、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていないとの指摘があります。そこで、内部監査部門から監査役会・取締役会への報告に加え、監査役会による指揮・承認及び内部監査部門長の人事への関与が必要との議論があります。当社の現状と今後の対応について、社外取締役のご意見を伺います。

【長松監査役回答】

・監査役の独立性確保のために、社外監査役が多数を占める監査役会が同意権を持つことで、監査役会の意見を反映するようになっている。またその前の取締役会で監査役選任議案を作成するに当たっては、社外取締役が多数を占める役員指名委員会に諮られている。また、株主の負託を受けて取締役の職務を監督するために株主総会で選任されていることを監査役全員が十分に認識している。

・こうしたプロセスから、当社において監査役の独立性が弱められていることはないと考えている。

・子会社の監査役の選任も同様であり、監査役会が同意するという会社法の規定通り運用している。親会社としては子会社ガバナンスと内部統制の確保という観点から、親会社監査役と子会社監査役の連携の外、親会社からの非常勤取締役の派遣、コンプライアンスを含めて管理部門によるお世話により子会社管理の充実を図っている。

・ご指摘の監査役の在り方に関しては、今後の法改正も含めて様々な意見が交わされていることは承知している。その動向には注意を払っているが、当社の現状において特段の懸念があるとも、変更が必要であるとも考えていない。

【池田社外取締役回答】

・CEOなど経営陣幹部の不祥事を未然に防ぎ、あるいは早期に解決するために、内部監査部門を取締役会または監査役の直接または間接の指揮下におくべきとのご指摘に対しては、経営陣幹部の牽制の仕組みはどうあるかという観点から回答したい。

・私自身2011年から社外監査役、2015年から社外取締役を務めているが、この8年間で当社は年を経るごとにコーポレート・ガバナンスが進化し、取締役会でも活発な議論が行われている。内部統制からの報告も内部監査結果を含め、ありのままにスピーディーに報告されている。社外取締役の要望を取り入れる形で、取締役会審議が活性化するために様々な取組みがなされており、業務執行に対するモニタリングも格段に向上している。

・新社長選任に当たっても、社外取締役が多数を占める役員指名委員会で審議し、透明性と客観性を確保した。初めての試みであったが、画期的なことであった。経営陣の不正防止などガバナンスに完璧はないが、不断の見直しを行い、社外取締役として皆さんのご期待に沿うべく実効性向上に努力して参りたい。

【社長】

・株主のご指摘は、社長である私がしっかり威儀を正せという叱咤激励だと考えている。当社は住友の事業精神を継承しており、その教えを戒めとして守ってきたので、トップの腐敗や暴走と言うことは、当社には起こりえないと考えている。一方で驕りとか油断によってそういうことは絶対に発生しないとはいえないということは、自分自身にも常々言い聞かせている。私の背後には、十倉会長や社外取締役や監査役が厳しい目で見て頂くようお願いしている。コンピライアンス委員会のルールとして、通報のあったものは事務局から直接監査役に報告することになっている。多くのステークホルダーの声に耳を傾けていき、会社の持続的発展に貢献して参りたい。

【事前質問状】

3.サウジ・ラービグプロジェクトについて

当社の最も重要な関係会社の一つであるサウジアラビアのペトロラービグ社は、持分法適用の海外上場企業であるため情報開示に制約があるとは言え、あまりに株主に対する情報提供が少な過ぎると思われます。当社の収益に現状どう貢献し、これからどうなるのか、今までの巨額の当社投資額に見合うリターン回収はどこまで進んでいるのか等は株主がぜひ知りたい情報です。せめて、機関投資家やアナリスト向けの説明会で開示している情報は、一般株主にも自発的に提供すべきではないでしょうか。ついては、①ここ数期の損益状況(当社持分損益)、②Ⅱ期計画の立上り状況と損益への寄与、③増資案の進捗状況と当社キャッシュフローへの影響について、説明をお願いします。

【他の株主からの質問】 

サウジアラビア事業について、政治体制等不透明感がある、今後の事業への影響は如何か。

【会社回答】 

・皇太子が実権を握る一方、暗殺事件が起こるなど不透明な状況がある。アラムコの協力も得て、情報を収集し、分析に努めて参りたい。現状では、事業の変更をきたすようなことにはなっていないと認識。株主様がご不安にならないように、手が打てるようにしていきたい。

・Ⅱ期はすべてのプラントが立ち上がり、全製品の販売が開始された。正式の営業運転開始は年内に可能となると見ている。

・PJ開始から15年、幾多のトラブル、課題を乗り越えて一昨年から安定軌道、直近1-3月36億円黒字(当社持分ベース)。Ⅱ期を安定軌道に乗せることに全力を挙げる。

 [3]その他の質問

NO1 流動負債減と固定負債増の理由、積上がる利益剰余金の用途、大型M&Aに使うべきでないか

     M&Aの考え方、株主還元の方針

NO2 石油由来のプラスティックから植物由来のプラスティックへの転換の考え方

NO3 連結持分計算書で、親会社所有者に帰属する持分に比しての非支配持分の比率が一般より高くないか

NO4 重厚長大事業からスペシャリティ事業に転換しようとしているのか

社外取締役の村木氏は厚労省からの天下りになるのではないか

NO5 板垣

NO6 役員がおじさんばかりだが、若い人はいないのか。配られた紙袋も真っ白でシンプル過ぎる。

NO7 株主総会に村木社外取締役が欠席しているのは、もし兼任している他社総会とぶつかってそちらに行かれたのなら、社長がそこは調整する責任があるのではないか。伊藤社外取締役には、この1年で自分が貢献できたと思う点、住友化学の課題は何だと思われたか伺いたい。

NO8 中国の事業展開にどう取り組んでいるか、特に知的財産対策は如何か。

    コメの生産など農業事業への取組みの現状と先行きの見通しは如何か。

NO9 サウジアラビア事業について、政治体制等不透明感がある、今後の事業への影響は如何か。

NO10 研究開発力が肝、技術者の中で博士号取得者の比率は如何か。

以上」

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