日本をダメにするイエスマン、「忠臣株主」に立ち向かう方法

ニコラス・ベネシュ (翻訳 市川佐知子)

概要: 機関投資家が本気になれば、企業の株式持ち合いを解消することは難しくありません。これを実現する方法として実務的なテクニックを1つご紹介します。

「忠臣株主」問題

最近の改革で改善したとはいえ、企業の株式持ち合いは依然日本市場の大きな問題です。株価連動インセンティブの小さい経営陣や社外取締役は、めまぐるしい市場経済の変化の中で現状維持に甘んじ、ビジネスリスクをとって収益性を追求する戦略を練らず、経営陣のイエスマンである「忠臣株主」は何も言わない、そしてこれらの経営陣や社外取締役は再任を重ねる、という悪循環が続いています。企業のことを真剣に考える株主の諫言は大きくなりつつありますが、忠臣株主のイエスの大コーラスの前に、かき消されてしまいます。

金融庁の「コーポレートガバナンス改革の進捗状況」(2017年)によると、「株主総会決議で会社側提案を支持することが期待できる株主が保有する議決権数の総議決権数に対する比率」について、30-60%と考える上場企業は、3分の2以上に上ります。

このような「安定株主」は、「政策保有」によって他社における資本配分を歪めて、経営を実はリスクにさらしてしまいます。パナソニックの創業者である松下幸之助は、1967年、当時台頭しつつあった「安定化」のための株式持合いについて、単刀直入に次のように語りました。「しかし、こういう状態のままでは、資本が一部に偏在してしまうという姿が再びわが国に生まれてくるおそれもあるので、決して望ましいことではないと思う。私はこれは、資本主義の進歩している姿ではなく、むしろ退歩している姿だとも考えられると思うのである。」

しかし、状況は変化しつつあります。2019年以降、機関投資家に与えられた手段で、その発言力は大きくなっていくでしょう。つまり、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードです。

コーポレートガバナンス・コードは昨年6月に改訂され、政策保有株式を縮減する方針について開示すること、また個々の保有株に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査することを取締役会に求めます。投資家はこのコード原則を拠り所に、企業の経営陣に対し、種々の質問をすることができますし、返答次第では不満足であると意思表示することもできるわけです。また2017年に改訂されたスチュワードシップ・コード は、投資家同士がエンゲージメントや議決権行使方針について協議・協働する、「集団的行動」を支持しています。

金融庁は2014年に、「共同保有者」として大量保有報告書を提出する必要がない集団的行動を定めた「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた 法的論点に係る考え方の整理」を公表しましたが、多くの投資家が集団的エンゲージメントに踏み切らなかったのは、投資家同士がそれぞれの見解を話し合うことは「重要提案行動」には当たらないという、明確なセーフハーバーがないと感じたからです。

ある企業について意見を交換しただけで、「共同して議決権を行使することを合意した場合」に当たるとして、保有分を合算させられ、大量保有報告書を提出すべき5%基準を超えるか、考えなければならない事態に至ることを、投資家は懸念します。合算が必要だとなれば、大規模な投資家が提出しなければならない報告書は大変な数になるでしょう。この点が争点になった事件は未だありませんし、機関投資家は自分が第一号案件にはなりたくないと考えるのが普通です。

忠臣株主にどう立ち向かうか

しかし、内外の機関投資家は、改訂された2つのコードをうまく使った以下のようなアプローチで、忠臣株主の分厚い防衛ラインを突破することができます。

アセットマネージャーが小さなグループを作り、「忠臣株主」にどう立ち向かうか議論します。合意するのはごく一般的な原則だけにします。つまり、政策保有株式合計額が純資産マイナス現預金の25%を超えた場合は、社長と会長(日本ではこの2ポストが最重要であり効果的です。)の再任に反対する、という原則です。東京証券取引所の第1部に上場する企業の20%がこの原則の対象になります。つまり現状では、東証一部上場企業の20%の企業の資本の25%が、コアビジネスには投資されず、政策的に株式投資に回されており、株式市場のボラティリティが企業価値を振り回しているのです。日本が目指す資本の効率的配分を妨げているのは、そのような政策投資を行う企業です。私が資本金の大きな企業について分析したところ、他の条件が同じならば、政策保有株式の割合が大きい企業の利益性は小さくなるという傾向が、統計的な有意性をもって現れるという結果が出ています。

投資家グループは共同報告書を公表し、このような議決権行使が日本になぜ必要か説明し、他の投資家にも同調行動を促し、猶予期間例えば18ヶ月を設定した後に、議決権行使に踏み切るよう訴えます。このような議決権行使はスチュワードとしての責務を果たすためのものであること、「忠臣株主」が実は企業の資源を誤用しており日本の資本市場を歪めていることを、報告書に盛り込むことが肝要です。

特定個別銘柄について同じ議決権行使方針で臨むことを合意するのではなく、一般的な方針としての合意であることを報告書で明確にする必要があります。そもそもこのグループに属する個々の投資家の投資先企業は様々ですから、合意も特定銘柄を想定して行うものではありません。このため、2014年金融庁の「考え方の整理」が許容する集団的エンゲージメントの範囲内に収まり、「共有保有者」を構成しないことについて、弁護士意見を取得済みであることも、報告書に盛り込むことが必要です。

このような投資家グループとその議決権行使方針は、広く報道され、賛同者が加わって、グループのリストは次第に長くなっていきます。

年金ファンドのようなアセットオーナーや個人投資家といった、アセットマネージャーの受益者にとって、このリストはリトマス試験紙となり、アセットマネージャーが忠臣株主問題に取り組み、真剣に受益者のために働いているのか、明らかにしてくれるでしょう。

忠臣株主問題は、日本企業がその真の力を発揮するために必要な、コーポレートガバナンス改革を妨げる大きな障害になっています。少しずつ改革が進んだ今、資本市場にとってこれが一番の障害です。しかし、機関投資家が上述したような方法で結束すれば、この大問題も数年のうちに解消するでしょう。

多勢に無勢ではないか。忠臣株主があまりに多すぎ、効果がないのでは、と心配する向きもあるでしょう。しかし、日本の経営陣は再任議案に対する低支持率にとても敏感です。投資家が議決権行使の意思をしっかり伝えれば、経営陣を解任するに至る前に、経営陣はメッセージをしっかり受け止め、正しく対処するでしょう。

ニコラス・ベネシュは、公益社団法人会社役員育成機構の代表理事。2013-4年、自民党から金融庁・JPXに提案されたコーポレートガバナンス・コードのかなりの部分は、彼の発案・アドバイスに基づいている。

市川佐知子は、田辺総合法律事務所のパートナー弁護士。有価証券虚偽記載事件を専門とし、役員責任と企業のリスク管理に詳しい。

Comments

  1. (34年間日本に住んだ)外国人が日本を批判しているように聞こえるかもしれないが、、、、信じられないほど、日本人は日本の資本市場の改善策に興味がないですね。この記事は色々な賛同や少なくともコメントを招くと思ったが、ほどんどない。どうしてGPIFの運用業者や(SCを署名していない)日銀は資本市場の改善のためにこのシンプルな方法を何年前からでも使っていないでしょうか?ご意見ください。他の運用業者は?BOJとGPIFはあわせてTSEの11ー12%を保有している。政府の方針はコーポレートガバナンス・コードに書かれているように「政策保有株の縮減」が明確であるのに、、、、政府系アセット・オーナーはどうしてこんなobviousな縮減方法を使わない?使わないなら、「構造改革」ってどういう意味なのか?最も根が深い、市場の競争原理や価格形成機能を歪む問題である持合い・政策保有株を解消しないでは、「改革」は残るに決まている。60年代に「経営の神様」である松下幸之助でも批判したプラクティスでもあるので、一人の外国人の勝手な意見に過ぎないわけではない。  — ニコラス・ベネシュ

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