神戸製鋼の事件は、日本企業が誇りにしてきた品質管理、社外役員の役割、内部統制の不備、過去の不祥事から得た教訓の活かし方、来るべき訴訟など検討すべきポイントが満載です。しかし、現場で何が起きていたのか、誰がどこまで知っていたのか等は、第三者委員会による調査結果を待つ必要があります。今のうちに、分かっていることを整理しておきたいと思います。
2017年10月8日、神戸製鋼による最初のリリースでは、データ改ざんはアルミ・銅製品にとどまっていました。
http://www.kobelco.co.jp/releases/1197805_15541.html
ところが、その後進んだ社内調査は、驚きの展開を見せました。まず、社内調査の過程で妨害行為があったとのことです。
http://www.kobelco.co.jp/releases/1197904_15541.html
データ改ざんが確認された製品は鉄粉や鋼線にも広がり、販売先は525社に登っています。
http://www.kobelco.co.jp/releases/1198006_15541.html
ある特定の製品や工場に限った改ざんではないですし、期間も長期間にわたるようです。10月8日の記者会見で副社長が10年以上前から改ざんがあったと認めています。ある新聞報道によれば、40年以上前からだとする従業員もいるようです。このため「組織ぐるみ」を指摘する人も出はじめています。「組織ぐるみ」には明確な定義はなく、トップ経営陣が知っていたかどうかで「組織ぐるみ」を判断する見方があるようです。しかし、不正行為が企業の業務プロセスの中に定着していたなら、経営陣の期待や思込みとは別に、「組織ぐるみ」は成立するような気もします。
10年間改ざんをしなければならないような企業が置かれた状況とは、どのようなものだったのでしょうか。神戸製鋼のROEの推移は、次の通りです。
2.4% (2001), -10.5% (2002), 0.6% (2003), 7.1% (2004), 14.5% (2005), 18.6% (2006), 19.5% (2007),
14.9% (2008), -5.8% (2009), 1.3% (2010), 9.9% (2011), -2.7% (2012), -5.3% (2013), 11.9% (2014),
12% (2015), -2.9% (2016), -3.4% (2017)
http://www.kobelco.co.jp/english/ir/library/annualreport/2011annual/__icsFiles/metafile/2011/08/26/all.pdf
http://www.kobelco.co.jp/english/ir/library/annualreport/2017annual/__icsFiles/metafile/2017/08/24/annualreport_2017.pdf
直近10年間を見ると、プラスになった年のROEは決して悪い数字ではないように思えます。しかし、連続3期は維持できず、マイナスに転落してしまうことを繰り返しています。
神戸製鋼の不祥事の歴史を振り返って見ると、総会屋への利益供与を巡って株主代表訴訟が提起され、2002年4月5日に和解が成立した事件が思い返されます。
http://www.kobelco.co.jp/column/topics-j/messages/158.html
この件では、解決のために裁判所から「所見」が公表されるという異例の取扱いがなされました。その中では、役員の内部統制システム構築、監視の義務について、知らなかったと弁明すればそれで済むわけではないなど、厳しい見方が示されました。もっとも、裁判所が役員の義務違反を認定したわけではなく、その前に和解が成立したわけです。知らなかったという弁明が通じる場合と、通じない場合の区別はまだついていません。
この件を機に、コンプライアンス委員会が設置され、現在まで続いています。
http://www.kobelco.co.jp/column/topics-j/messages/158.html