ニコラス・ベネシュ:「生産性向上に向けた提言」

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日本経済の長期化した低迷の主な要因は、日本企業が不採算事業からの撤退・企業統合を行うことができず、企業資産の再配分が進まないこと

⇒  これを打開するためにいま必要なのは、

① ガバナンスのさらなる強化

コーポレートガバナンス・コードの継続的な見直しを中心としたコーポレートガバナンスのさらなる強化
スチュワードシップ・コードを浸透し機能させることを目的とした、年金基金ガバナンスの改善

② 労働市場の硬直化の改善

新たな雇用類型として「正社員タイプ2」の創設

 

第1  コーポレートガバナンスの強化
1 コーポレートガバナンス・コードの継続的なフォローアップを制度化

コーポレートガバナンス・コード導入によるガバナンス向上を実現させたドイツの例に倣い、コーポレートガバナンス・コードを毎年検証して継続的に改訂を検討すべき


○ そのための検証・提案を行う永続的な少人数の
専門機関を正式に創設する

・  「コード」の制定は大いに評価できるが、スタートラインに立ったに過ぎないとの認識が重要である。
・ 他国では失敗に終わった「コード」がたくさんある。「コード」を日本で成功させるためには、これを最後まで責任をもってやり通すこと(follow through)が重要である。
・ 永続的な機関を正式に創設することで、政府の長期的なコミットメントを打ち出すことができる。責任の所在を明確にする。

○ 直近でコーポレートガバナンス・コードに追加すべき事項

「独立社外取締役諮問委員会」の創設

・ 指名、報酬、その他経営者の利害と会社の利害が相反しそうな課題について、役員会に対して書面をもって助言を行う独立社外取締役のみによって構成される会議体

退任後の役員(相談役や顧問等)に支払われる報酬の開示

・ 株主の承認を受けない事実上の「役員報酬」の排除に繋がる。株主に対する責任を負わない「役員会の幽霊」の存在は、国内外の投資家の懸念材料の一つであるとともに、現職の経営陣の果断な意思決定を阻害し、企業の発展を妨げる要因になっている。
2 法律改正等により改善すべき課題

○ 対話型の充実した株主総会の促進

株主総会の「集中日」問題に本格的にメスを入れる

・ 法人税の申告期限(法人税法第75条の2)がネックになっている。法人税法の改正又は通達により、申告期限の問題を取り除く。
・ 具体的には、①会計監査人の無限定適正意見が得られない場合に申告期限の延長(1ヶ月→3ヶ月)を認めるとともに、②1日当たりに開催される上場会社の株主総会の数に上限を設ける(法令又は金融商品取引所のルールで対応)。

インターネット、スマートフォン時代の対話型株主総会の実現を促す体制作りを進める

・ 「形だけの」株主総会から脱却するためには、対話型株主総会の実現に向けた取り組みが不可欠である。

・ 具体的には、経済産業省所管の「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」に以下の検討課題を追加し、最終的には会社法改正、上場規則又はコーポレートガバナンス・コードの改訂で対応する。①株主総会のインターネット配信②リアルタイム議決権行使 ③多数の株主が匿名で参加して会社との間で質疑応答できるインターネット空間を提供することで、株主総会に先立ち会社との効率的な対話を可能にする

○ 執行役制度の拡充

「執行役員」制度の廃止に向けた取り組みを始める

・ いわゆる「執行役員」制度は、取締役会の構成員数を減らしガバナンスの向上を図るために生まれた制度であるが、会社法上の制度ではないため、実質的には取締役と同様又は類似の立場と位置付けられているにもかかわらず、株主から責任追及を受けることがなく(株主代表訴訟の対象とならない)、結果として、ガバナンスの弱体化をもたらしている。問題点は、会社法が、指名委員会等設置会社以外の会社において、取締役を兼ねない業務執行者を認めない点にある。
・ 具体的には、会社法を改正し、指名委員会等設置会社以外の会社においても、取締役を兼ねない業務執行者(“執行役”)の設置を可能とする。

第2 年金基金ガバナンスの改善

眠れる巨人である年金基金をフル稼働させるためのガバナンスの改善を推し進める

・ コーポレートガバナンス・コードの成否は、投資家(特に資産の保有者である年金基金)が実質的な行動をとれるかにかかっている。これこそがスチュワードシップ・コードの意義である 。スチュワードシップを機能させ、投資家に実質的な行動を促すためには、投資家自体のガバナンスの改善が不可欠である。

(具体的な方策)

1. 年金基金の理事等に対する責任追及の手段を創設
・ 現状では、年金基金の受益者(労働者)が年金基金の理事等に直接に責任追及を行う手段がなく、年金基金の理事等は、事実上運用の責任を負わない状態になっている。

2. 年金基金の理事等に求められる専門知識基準を策定
・ 「そこ(AIJ事件を指す。)では、だまされた年金基金の理事たちが実は投資の素人であり、さらに旧社会保険庁からのいわゆる天下りである場合の多かったことが強く批判されている」(樋口範雄「AIJ問題が示唆するもの―信認法なき社会―」(商事法務No.1985))

3. 年金基金によるスチュワードシップ・コードの受け入れを促進
・ 非金融系企業年金基金のうち、現状でスチュワードシップ・コードに署名しているのは、1社のみである。

4. 年金基金に確実に議決権を行使させるとともに、当該議決権の行使記録(個別企業・ 個別議案毎)の開示を義務付ける
・ 年金基金以外の機関投資家についても同様の義務付けを行うべきである。

5. GPIFに、コーポレートガバナンス・コードの支持を言明させる
○ スチューワードシップ・コードを毎年検証して継続的に改訂すべき

発祥の地であるイギリスの例に倣い、スチュワードシップ・コードの実施状況に関するアンケート調査を行い、その結果を検証して改訂に反映する。

第3  正社員タイプ2の創設

○ 勤続年数に応じた補償金を支払えば解雇することができる期間の定めのない労働契約形態(正社員タイプ2)を導入すべき

・ 従来の製造業中心の産業構造から、GDPの8割がサービス業という構造にシフトしている以上、労働市場の硬直化の改善が急務である。
・ 現状では、解雇の困難な正社員か、有期の非正規社員かという2つの選択肢しかないが、正社員を採用するには企業にとってのリスクが大きく、他方で非正規社員については有期であるために人材開発に投資するリスクが大きい。そのため、結果として優秀な人材が育ちにくなっている。
・ 正社員タイプ2は、企業に解雇についての予測可能性を与えるものであるため、企業の不採算事業からの撤退を可能にする。また、妥当な補償金を設定することで、労働者の利益にも資する。

(※ 新たな選 択肢を加えるだけであるため、安倍政権のこれまでの姿勢とも矛盾せず、労働者のためになる政策であるから、民主党にも反対する理由はない。)
○ 正社員タイプ2のメリット

1. 企業は従業員を雇いやすくなる。
・女性、非正規社員などを正社員として雇うことを躊躇していた企業が多い。
2. 生産性向上に繋がる人材開発、研修などに企業が投資するインセンティブが働く。
・人材開発により企業の生産性が上がれば、従業員への還元も増加する。
3. 企業の不採算事業からの撤退を可能にし、企業資産の再配分を可能にする。
4. スキルミスマッチ問題の解消に繋がる。
~改革を推し進めるために~

○ 改革を阻害する要因

・ 既得権益にこだわる関係当事者(年金商品業者)

・ 縦割り行政(厚生労働省 VS 金融庁 VS 経済産業省 など)

○ 政治的なしがらみを取り除いた政策作りが必要

・ 客観性のあるデータ分析に基づき政策作りを進める

・ 外部の専門家の活用を拡大し、省益の絡んだ官僚による妨害が生じない体制を整えるとともに、外部の専門家には適切な対価を支払うことで責任ある活動を行わせる

・ 官僚を排除した政治主導で、明確な政策内容を初期の段階で策定する

・ 内閣府をサポートするための、官庁から独立した中立性のあるシンクタンクを設置し、データの分析だけでなく具体的な政策の策定を主体的に行わせる

上記の内容をプレゼン資料としてダウンロード

ニコラス ベネシュ
(個人として)

BDTIについて BDTIでは、取締役や監査役など役員として、また業務執行役、部長など役員を支える立場の方としての基本的な能力を身に着けるための役員研修「国際ガバナンス塾」を定期的に開催しています。(オーダーメイド役員研修も、承っております。)また、「会社法」「金商法」「コーポレートガバナンス」の基礎をオンラインで学べる低価格のeラーニングコースを提供しています。詳細はこちらから。講座の概要は以下の通りです。

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