女性登用のためのパネルディスカッション概要

11月4日、BDTIは『国際ガバナンス塾女性版』を開催し、その後の懇親会では、女性登用について考えるパネルディスカッションを行いました。キャシー松井さんをはじめとするパネリストから、制度改革と意識改革の必要性や実例が紹介されました。女性登用というテーマで議論を始めたのですが、雇用市場の変革にまで話が及び、女性登用が日本人全体の働き方の問題解決に繋がっていることが分かりました。詳しくは、次のディスカッション概要をご覧下さい。社会が変わろうとする胎動、変えるためのアイデアが満載です。

                      国際ガバナンス塾女性版
                     パネルディスカッション概要

日時:2015年11月4日20:20-21:30
場所:如水会館
テーマ:女性が活躍するために、企業で、政府で、社会で、何が必要か?
パネリスト:キャシー松井、八代尚宏、八木洋介、Nicholas Benes
​ファシリテーター:市川佐知子

自己紹介を兼ね、女性登用に関する普段の活動

八木:Diversityの必要性は、改めて考えるまでもない、自明のものである。企業トップと二人三脚で女性登用に邁進している。社内では「混ぜて育てる」がモットーであり、女性管理職はまだ少ないが、管理職研修にはあえて女性を多く参加させている。すると、その成果発表プレゼンで高得点を取るのは女性である。女性登用には外部からの中途採用も有効であり、積極的に行っている。少しくらい実力に差があっても、女性を採用する方針である。女性には「吹いた風には乗ってくれ」とアドバイスしている。

松井:投資家にアドバイスする立場から見れば、日本にとって女性登用は、必須の要素である。投資家は、企業に、国に、成長が期待できると思うから投資する。日本のGDPを目に見える形で上昇させるには、女性の力を有効活用することが必要不可欠である。それを後押しするために、様々な場で発信を続けている。

八代:男性の意識を変えるのは大変困難であり、意識の改革より制度の改革が大事である。女性を優遇する制度にするのではなく、現在の男性を優遇する制度を改革し、より競争的な労働市場にすれば良い。女性の雇用を男性並みに安定化させるのではなく、男性の雇用を流動化するのだ。定年制の廃止も含め、性別や年齢による差別禁止を提唱する。競争市場で大きな利益を得るのは女性である。

ベネシュ:ACCJ成長戦略タスク・フォースは、5年前、深尾京司教授の分析に基づき、提言書を出した。提言の多くは、政府の「三本目の矢」として取り入れられたが、最も重要なものの一つが労働市場の柔軟化だった。M&Aアドバイザーとして、事業再編を通じ、日本の雇用の現実を見てきた。長期雇用は神話に過ぎないと知ったし、ただ長期間の雇用が重要なわけでもないと気付いた。Earn to learnというように、雇用の価値は、スキルと経験を身につける機会にある。企業側に人材に投資するインセンティブがあって初めて好循環が生まれる。この好循環なしに、ただ雇用が長期間に渡っても、労使双方にメリットをもたらすとは限らない。製造業の発展に寄与した長期雇用システムが、これからのサービス業の時代に適しているのか、考え直す必要がある。

競争の中では公平なパフォーマンス評価制度が必要と思われるが、その点に関する意見を伺いたい。

八木:評価は必然的に主観的なものである。定量的に測ろうとして数字だらけの評価シートを作り、例えば85点とか付けることにどれ程の意味があろうか。上司の恣意性を排除するのは、本人、上司、さらにその上司との議論である。ある時の成績は、その1年限りのものであり、運もあるし、将来を約束するものではない。Leadership valueを評価しようとすれば尚更これらの傾向が強い。Expertiseとして「少しくらい実力に差があっても」会社のvalueを上昇させてくれれば、高評価に値すると考える。

松井:一定の定量的なスケールを使って、全社員について360度評価を行うことの意味は依然としてあると考える。人は結局、自分に似た人が好きなのであり、Unconscious biasを持っている。これを克服して企業の生産性に繋げるのが、Diversityの意味なのである。大企業で成功を収めた経営者の多くは、実は、Ivy league出身ではない。オーケストラのオーディションをカーテンで仕切ったら、女性が採用される率が大幅に増えたというも有名な話である。

八代:透明性の高い評価システムが必要である。上司の部下への評価について、反論の機会を与え、それを上司の上司が判断するシステムが優れている。評価はあくまで成果に対して行うものであり、女性を優遇するものではない。子育て期の女性のために何をするか、と考えると、男性だけでなく、女性対女性の対立構造も生んでしまう。しかし、今は、親の介護や資格の取得など、WLBが必要な人が、男女・年齢を問わず増えている。このようなグループが共闘することで、従来の専業主婦モデルから新しい働き方に変えていくのだ。

ベネシュ:日本企業の人事は遅れているように思えてならない。客観的尺度を持った評価システムがないように感じる。30年前になるが、JPモルガン投資銀行で働いていた時代、多くの女性同僚がいたし、上司も女性だった。彼女は定時に帰宅したが、それを奇異に感じなかった。それは、労働時間ではなく成果に対する評価がなされていたからだと思う。公正な評価には、議論が欠かせない。今年1年の成果だけではなく、将来性、継続性、リーダーとしての可能性を考えるときには、どうしても主観的な判断が必要となる。このとき納得感を高めるのは、議論なのだ。

日本人が長時間労働の軛から逃れるには何が必要か。

八木:人生は仕事だけではないと気づくこと。私は家族がもっと大事と、ある時気付いた。仕事も大事だが、他にもっと大事なことがある、と若い人にはアドバイスしている。仕事に割く時間を決めること。自分で線を引いた瞬間から、仕事は早く済むようになる。男性の意識改革が可能であることは、このような私自身の例をもっても実証できる。

松井:日本では長時間労働を評価するような暗黙のルールが未だあり、評価制度等の制度を変えることが必要と感じる。もっとも、最近、子育てに関する質問を、いの一番にしてくる、若い男性社員に勇気付けられた。このようなミレニアム世代が、2020年には世界の労働人口の6割を占める。これにより日本の仕事の仕方も大きく変わっていくと期待したい。このような男性の意識改革をさらに推し進めるのに、研修やインセンティブ付与が有効であると考える。

現在はプライバシー不可侵としてタブーとなっているが、社員個人の人生設計について、オープンに話し合える人事管理が必要となっていくかもしれない。話変わって、ACCJ、MHLWにおける解雇補償金の検討(*)に関する動きを聞きたい。

(*)在日米国商工会議所(ACCJ)は、2014年4月10日、「労働契約法の柔軟化による社会的格差の解消と経済成長の実現へ」と題した意見書を発表した。また、厚生労働省(MHLW)では、2015年10月29日、透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会の第1回目が開催された。

八代:解雇補償金を「首切り自由」などと評する新聞があるが誤解である。現状では解雇紛争が、事実上、法律ではなく裁判に委ねられているため、大企業では解雇の和解金が法外な額になる一方、中小企業では10-20万円程度で解雇されている。このアンバランスを防ぎ、法律で解雇補償の上限と下限を決めたら、中小企業の労働者には大きな利益となる。外資や起業者にとっても、将来の雇用調整のコストが予測可能になり、正社員の雇用促進になる。

ベネシュ:解雇は、スキルミスマッチの誰かが仕事を失うことで、残念ではあるが、同時にリプレイスという新たな雇用を生む。スキルミスマッチによって企業の生産性向上を停めてはいけない。ACCJの提言は、新たな契約形態(正社員タイプ2)という選択肢の追加であり、現行の労働契約で満足している人は、そのままで良い。現行の期間の定めのない契約は、保護が厚いと思われているが、本当にそうか。子どもを産むために辞めれば、正社員資格という入場券を自ら放棄した、だから社会復帰しようとすれば契約社員だ、と言われているのではないか。それが保護なのか。それより、期間の定めのある契約を増やし、女性であろうと外人であろうと、長期的に働いてほしい人材に、会社が投資するインセンティブを働かせるべきではないか。こうして、人も成長する、会社も生産性を上げるのである。

社会で企業で女性を登用するため、というテーマで始めたが、この問題は女性だけの問題ではない。この問題を解決することは日本人の働き方自体を良くすることに繋がる。会社で、政府への提言で、公益法人で、この問題に取り組むパネリストから有益な意見を頂戴できたことに感謝する。

BDTIについて BDTIでは、取締役や監査役など役員として、また業務執行役、部長など役員を支える立場の方としての基本的な能力を身に着けるための役員研修「国際ガバナンス塾」を定期的に開催しています。(オーダーメイド役員研修も、承っております。)また、「会社法」「金商法」「コーポレートガバナンス」の基礎をオンラインで学べる低価格のeラーニングコースを提供しています。詳細はこちらから。講座の概要は以下の通りです。

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