http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MF10A20150319?sp=true
「[東京 19日 ロイター] – 5月の改正会社法施行をにらみ、監査等委員会設置会社への移行を表明する上場会社が相次いでいる。従来の監査役を「監査等委員」として取締役に起用する監査等委員会設置会社は、独立社外取締役が見つからない企業の駆け込み寺の様相だ。
しかし、社外取締役に経営の重要判断を委ねたくない企業の本音も垣間見える。一方で、監査役がいなくなることで経営監視の機能低下を危惧する声も専門家からは出ている。
<駆け込み寺>
監査等委員会設置会社への移行を表明した上場企業は、18日に新たに1社が加わり、3月に入って現在までに18社に上る。すでに2月の1カ月間に表明した10社を超えた。指名委員会等設置会社(現在は、委員会設置会社)への移行表明が、2月末の三菱UFJフィナンシャル・グループを最後に1社も出ていないのとは対照的な勢いで、約60社にとどまる指名委員会等設置会社よりも増える可能性もある。
移行表明した企業にほぼ共通するのは、独立社外取締役の数が現状で1かゼロという点だ。6月から導入されるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)では独立社外取締役の複数選任が求められる。採用しない場合には、企業側が説明義務を負わなければならない。
しかし、監査等委員会設置会社になれば、東証の方針ですでに一定程度普及している独立社外監査役を、新たに独立社外取締役に横滑りさせることができる。ガバナンスコードを意識しながらも、社外取締役が見つからない会社にとって、監査等委員会設置会社はうってつけの受け皿となるわけだ。
ある不動産会社の関係者は「新たに社外取締役を選ぶのは当面は難しい。適任者がいない」と話し、ひとまず独立社外監査役を独立社外取締役に据えて、コーポレートガバナンス・コードの要件をクリアする意向を示した。
<社外取締役への不信感>
もう1つ、監査等委員会設置会社が選ばれる背景にあるのが「社外取締役に対するアレルギー」だ。
経済協力開発機構(OECD)が公表しているコーポレートガバナンス原則は、取締役会の機能強化のために社外取締役の役割を強調している。
しかし、日本企業でこの考え方は必ずしも広く受け入れられていない。監査等委員会設置会社への移行を最近決めた上場企業の法務担当者は、社外取締役の役割が高まる流れについて「そもそも社外の人に適切な経営判断が下せるのだろうか」との疑念を漏らす。
改正会社法の施行で、上場企業は「監査役会設置会社」「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」の3つから企業統治の仕組みを選べるようになる。
このうち、社外取締役に最も大きな権限を委譲するのが指名委員会等設置会社だ。「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」の設置が義務づけられ、いずれの委員会も過半数は社外取締役にしなくてはならない。社外取締役の権限を高めることで、経営の監督と執行を明確に分離し、ガバナンス機能を強化するのが狙いだ。
他方、監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社ほど社外取締役の存在感は大きくない。「指名委員会」や「報酬委員会」を設置できるが、任意の委員会のためメンバーは社外取締役でなくてもいい。社外取締役に経営の主導権を握られずに済むというわけだ。会社法に詳しい弁護士は「指名委員会等設置会社へ移行するまでの過渡的な位置づけとも言える」と説明する。
<監査等委員の監視は機能するか>
一方で、専門家の間では、監査等委員が新設されることで経営監視機能がきちんと発揮されるのか、疑問の声も出始めている。
新設の監査等委員会設置会社では監査役が廃止され、「監査等委員」が取締役として経営の監視にあたる。あるメーカーは「議決権がない監査役が取締役会で発言するのは無責任」(関係者)として、監査等委員会設置会社への移行を決めた。監査等委員が取締役会での議決権を有することでガバナンスの向上につながると期待する。
しかし、青山学院大学法務研究科教授で弁護士の浜辺陽一郎氏は「監査役は議決権がないからこそ、独立して意見が言えるのが強み」と指摘する。社外から迎えられた監査等委員が取締役会に参加しても、経営陣に取り込まれるリスクが高いと懸念する。
また、監査等委員会は社内に設けられた内部統制部門と連携しながら監査を行うが、「内部監査チームは社長の影響下にある社員で構成され、こうした調査がどれだけ機能するのか疑わしい」と危ぐする弁護士もいる。
意思決定にあたって監査等委員に十分な情報が提供されるのか、監査等委員が独自の判断で議決権を行使できるのかなど運用面での課題は山積みだ。実効性のあるガバナンス体制の構築に向けて、手探りのスタートとなりそうだ。
(和田崇彦 編集:布施太郎)」