常勤監査役の経営者からの独立性を確保せよ ~コーポレートガバナンス・コード有識者会議の議論について~ (安田正敏氏)

常勤監査役の経営者からの独立性が担保されていないというこの実態が監査役制度の最大の欠陥であり、海外の投資家から日本の監査役制度が評価されない最大の理由ではないかと思われます。この問題を解決するに「中立的・独立的な職務執行を担保するため、常勤監査役として社外監査役が務める制度を導入すべきである」ということと「経営者の指揮・命令系統下に置かれている内部統制部門を監査役会の指揮・命令系統に並列させ監査役の業務監査の機能を強化する」ということをコーポレートガバナンス・コードに明記することを提案したいと思います。

日本のコーポレートガバナンス・コードについて考える場合、監査役(会)制度の役割を考えることを避けて通ることはできません。この点について監査役監査を機能させるためにはどうすればよいかを考えてみたいと思います。
先のブログで、「取締役の職務の執行を監督する常勤の監査役は内部出身者であり経営者の人事権の下にありその独立性が担保されていないこと。場合によっては、社内人事の都合で4年という法定任期を全うせずに社長から退任を迫られるようなケースも珍しくない」という日本の企業の実情を指摘しましたが、常勤監査役の経営者からの独立性が担保されていないというこの実態が監査役制度の最大の欠陥であり、海外の投資家から日本の監査役制度が評価されない最大の理由ではないかと思われます。つまり、日本のコーポレートガバナンスの実態が、会社法第381条第1項の「監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。」という規定を守ることを難しくしているという点は極めて重要なコーポレートガバナンスの欠陥であり、コーポレートガバナンス・コードではこの点を是正することを明確に表明すべきであると考えます。
具体的には、第4回有識者会議に冨山メンバーが提出した2014年10月20日付けの意見書にある「中立的・独立的な職務執行を担保するため、常勤監査役として社外監査役が務める制度を導入すべきである」という点をコーポレートガバナンス・コードに入れるべきであると考えます。これは「実情をしんしゃく」すれば多数の人が無茶だと思われるかもしれませんが「現状維持はあり得ない」という立場に立てば大変重要な提案であると思います。
「社外の常勤監査役という考えは、社内の事情に精通していない外部者に常勤監査役を任せるのは無理だ」という反対意見がおそらく出てくると想像されますが、そこで重要な点は、内部監査部門の活用と連携です。現在、経営者の指揮・命令系統下に置かれている内部統制部門を監査役会の指揮・命令系統に並列させ監査役の業務監査の機能を強化するという改革を行うべきであると考えます。日本内部監査協会も監査役と内部監査部門の連係を重視して2014年には日本内部監査協会の改正内部監査基準で、監査役(会)等への報告経路確保を義務付けています。
「中立的・独立的な職務執行を担保するため、常勤監査役として社外監査役が務める制度を導入すべきである」ということと「経営者の指揮・命令系統下に置かれている内部統制部門を監査役会の指揮・命令系統に並列させ監査役の業務監査の機能を強化する」ということをコーポレートガバナンス・コードに明記することを提案したいと思います。特に、内部監査は直接的に法律で裏付けられておらず、間接的には金商法による内部統制(J-SOX)の実施基準において内部統制の整備と運用についての監査を内部統制部門に期待しているにすぎないので、コーポレートガバナンス・コードで内部監査の位置づけを明確にすることは重要であると考えます。さらに、監査役会設置会社にも設置すべきであると考える指名諮問委員会と報酬諮問委員会において内部監査部門のスタッフの指名と報酬を決めることにすると内部監査部門の経営者からの独立が担保されると思います。
監査役の業務監査においてより重要な監査領域として統制環境の監査があります。この統制環境の監査においては社内の体制にどっぷりとつかってきた社内出身の監査役よりは社外監査役の方が” tone at the top”をより新鮮な外部の目で見ることができます。

(文責:安田正敏)

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