原理原則に立ち返ろう ~コーポレートガバナンス・コード有識者懇談会の議論について~ (安田正敏氏)

「あまりに実情を踏まえると前向きな議論になりません。実情をしんしゃくし過ぎているからこういう現状が起きているかもしれない」という大場メンバーの発言や「現状維持ではなく、日本らしい結果を出すために、ぜひ抜本対策を取っていただきたい」というキャメロン・メンバーの発言は、原理原則に立ち返って実情を白紙から見直すことこそ有識者懇談会に求めてられていることだと言っているのだと思います。

第4回有識者懇談会の議事録が公表されました。会議は依然としてOECD原則の項目に沿って議論をしており、前回は「株主の権利及び平等性」と「ステークホルダーとの関係」について議論されましたが、今回は「情報開示」と「透明性」に加えて別途「株主との対話」についても議論しています。善意に解釈すれば現在はブレーンストーミングの段階なのでしょうか、議論が原則に関することから細則に属するようなところまで入り乱れています。そこで、そもそもの出発点に立ち返り、原理原則論に立って考えてみたいと思います。
まず、なぜコーポレートガバナンス・コードの策定が必要なのかという点です。第1回の会議で大場メンバーが「そもそも再興戦略のテーマですが、『稼ぐ力を取り戻そう』って書いてあるんですね。稼ぐ力が弱くなっているのでこの会議が設定されていると思うので、あまりに実情を踏まえると前向きな議論になりません。実情をしんしゃくし過ぎているからこういう現状が起きているかもしれないという観点があるので、稼ぐ力を取り戻すためにコーポレートガバナンス・コードをどのように策定したらいいか議論する必要があるのではないでしょうか」とコメントしています。また第4回の会議ではキャメロン・メンバーが「今回の会議の目的は、現状維持戦略じゃなくて日本再興戦略の1つだと私は認識しており、『改革の必要性』が前提でつくられた組織だと認識しております」、「なので、現状維持ではなく、日本らしい結果を出すために、ぜひ抜本対策を取っていただきたい。株主目線で考えれば、現状維持はあり得ないと思います」と言っています。このあたりが議論の出発点になるべきであると考えます。
「実情をしんしゃくし過ぎている」ということについて第3回有識者懇談会での議論の例をひとつ挙げてみます。株式の持ち合いについて議論しているところで神田メンバーが「良い持ち合いと悪い持ち合いがあるということかとがあるかと思いまして、(中略)企業とか株主の観点から見れば、どういうものが良い持ち合いで、どういうものが悪い持ち合いであるかということについては、おそらくある程度コンセンサスが得られると思います」と発言しています。
これに対して、キャメロン・メンバーが「本当にすみません、辛口に申し上げてしまいますけれども、良い持ち合いと悪い持ち合いの話が出ましたが、お聞きしながら良い交通事故と悪い交通事故みたいな話のように聞こえたんですね。(中略)議決権行使においては、持ち合いというのは基本的に利益相反取引です」と明確に上記の考えを否定しています。「良い持ち合いと悪い持ち合い」というように実情をしんしゃくすることによって原理原則が見えなくなっていくわけです。「『物言わぬ安定与党株主』として不祥事があっても経営問題があっても賛成票を入れます。この利益相反の議決権行使が株主民主主義を毀損する極めて大きな障害になっています」と言うキャメロン・メンバーのように原理原則に立ち返って実情を白紙から見直すことこそ有識者懇談会に求められていることではないでしょうか。

(文責:安田正敏)

 

 

 

 

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