日本再生ビジョン:https://www.y-shiozaki.or.jp/contribution/pdf/20140523184536_1GxK.pdf
同章では法人税低減とコーポレートガバナンス改革について提言されている。
一般的には低い法人税が企業誘致の誘因になると考えられてきたが、企業の社会的責任の議論が最も高まっている現在ではむしろこの考え方に警鐘が鳴らされている。以前は節税対策として一般的だったタックス・ヘイブン(租税回避地)へのエクスポージャーや低法人税国への移転が欧米で問題視されている。最近でも米製薬大手ファイザーは英製薬大手アストラゼネカを買収し、拠点を英国に移すことで法人税負担の軽減を画策していたが、租税回避という側面が社会的批判を浴びたこともあり、提案は撤回された。それ以外にもグーグル、アップル、スターバックスといった日本でも知名度の高い企業が利益と税負担の不一致でメディアで非難されている。企業は法人税支払いが当然の責任であることを再認識し、政府は法人税低減の企業誘致への効果を再考すべきである。
またコーポレートガバナンス改革の一端として株式持ち合いの解消・抑制が提言されている。当然ながらこれは一部の大株主と企業の間の不透明な関係として一般株主に認識され、一般株主への不十分な説明の原因として捉えられてきた。しかし一方で株式持ち合いが戦後から1970年代までの日本企業成長において安定的なヒト・モノ・カネの提供に一役買っていたことを思い起こす必要がある。そして今後も近視眼的な投資家を避け、企業の中長期的な成長を促すには安定的な資本提供は不可欠である。そこで株式持ち合い解消の議論の前に、日本版スチュワードシップ・コードに基づく議決権行使・エンゲージメント内容の開示を強力に進めるべきと考える。大手国内機関投資家、主要銀行がスチュワードシップ・コードへの参加及び開示に及び腰であれば、本格的に持ち合い解消への圧力を掛けるべきだ。
一方で株式持ち合い解消に伴う株価への悪影響が指摘されている。これは一時的な市場要因であり、中長期的な企業成長を考える上では些細なことである。ただ企業は持ち合い解消を自社株買いとセットで実施することで市場での悪影響を緩和できるだけでなく、問題視されている低ROE解消の一端ともなり得る。