企業における非財務情報の開示のあり方 に関する調査研究報告書

Executive Summary:  I. 非財務情報の開示に関する動向

欧州を中心として、ESG(環境、社会、ガバナンス)をはじめとした非財務情報の適切な開示や
その制度化を求める動きが強まっている。欧州委員会では、2011 年に発表された「新CSR コミュニケーション」の具体的アクションとして、全セクターを対象にした社会・環境面の情報の透明性に関する法規制の立案などを示した。GRI(サステナビリティ報告のガイドラインを策定する国際的なNGO)では、現在、2013 年の発行に向けたガイドラインの改定作業を進めている。国際会計基準審議会(IASB)では、2010 年に「経営者による説明(MC: Management Commentary)」の実務ステートメントを発表するなど、国際会計基準の中で財務諸表以外の情報(=非財務情報)の開示を促進してきた。国際統合報告審議会(IIRC:投資家等に対する財務情報と非財務情報とを統合的に報告するための国際的な枠組みの構築を目的とした国際的なNGO)では、2011 年にディスカッション・ペーパーを発行し、現在、統合報告の枠組みの開発を目指して、パイロット・プログラムを実施している。

II. 企業による非財務情報開示と投資家等とのコミュニケーションの実態企業IR 担当に対するアンケート調査ESG 情報に関する関心は徐々に高まりつつあるものの、メインストリーム投資家からの関心や理解はまだ薄く、企業は投資家に対するESG 情報の説明に苦慮していること、また、社内のIRの運営においてCSR 部門が参加していない企業も少なくないことなどが明らかになった。

国内のディスクロージャー優良企業の事例調査
自社の企業価値や社会性を長期のビジョンや戦略と結びつけて積極的に投資家に説明することで、短期的視点に傾きがちな投資家の行動を変える努力している企業も少なからずみられること、リスク情報の重要性がより強く認識されるようになったものの、その開示については制度上求められていること以上に行う積極性はみられないこと、ESG を投資家に効果的に説明するには、経営トップがCSR を経営戦略に位置付けること、IR 部門とCSR 部門との連携が重要であることなどが明らかになった。

海外のディスクロージャー優良企業の事例調査
財務情報と非財務情報との統合化、事業戦略の道筋の明確化、自社にとって特徴的な要因の見える化などが共通点として挙げられた。

投資家側の意向調査
投資判断の基本は財務情報であり、事業戦略の実現性を裏付ける財務情報との関連性が強い非財務情報を重視していること、リスク情報については、事象への対応を迅速に体系的に説明することが企業の信頼性を高めると考えていること、経営トップによる主体的で一体感のある「顔の見える」説明が望ましいと考えていること、メインストリーム投資家の投資時間軸は短期化しており、投資判断の材料も短期的なの財務情報に偏りがちになっているなどが明らかになった。

III. 我が国企業にとっての非財務情報の戦略的な開示のあり方

1. 基本的視点

持続可能な社会に構築が要請される中、企業が持続的に成長していくためには、ESG を経営に取り組むことにより、事業機会の創出、競争力の強化、ブランド価値の向上を図り、企業価値向上につなげていく、経営とCSR が一体となった「戦略的CSR」が重要である。

戦略的CSR は、企業、投資家の中長期的な利益の確保に適うものであることを認識し、投資家に対して、十分な対話を通じて、戦略的CSR の視点に立ったビジネスモデルなどを良く理解してもらい、中長期的な視点に立った投資を促していくことが求められている。

2. 非財務情報の開示の意義
近年、企業価値の説明要因に占める非財務情報の割合は増加傾向にあり、8 割にまで達すると言われており、その重要性が増している。我が国企業においては、財務情報はもとより、非財務情報についても、既に多くの情報が開示されているが、膨大な情報が関連付けのないまま開示されても、投資判断の材料としては有効性に乏しいと言われている。このため、我が国企業が、投資家から適切な評価と理解を得るには、自らの自発的な意思にもとづき、自社の財務情報と非財務情報を関連付け体系的に整理して、分かりやすく説明するといった戦略的な開示が重要である。

3. 非財務情報の戦略的な開示に向けての提言

・提言1:経営トップが主導的役割を果たして、情報開示戦略を構築するとともに、そのための社内体制を整備し、企業側からの積極的な情報開示を経営トップや担当役員が率先して実行する。

1) 経営トップが主導的役割を果たして、投資家に中長期的な視点に立った投資行動を促すための情報開示戦略を構築
2) 社内の情報開示体制の整備、特にIR 部門とCSR 部門の連携がとりわけ重要
3) 経営トップ自らによる積極的な開示
4) 海外投資家等への発信力の強化

・提言2:持続的な企業価値の創造につながる非財務情報を明確にし、財務情報と統合・関連付け、投資家にわかりやすく説明する。

1) 事業特性、事業戦略、取引先や従業員等との関係など、企業価値の創造に直結する非財務情報の明確化
2) ESG の経営戦略への組込みと価値創造との関係の明確化
3) 非財務情報と財務情報を統合・関連付け
・提言3:国際レベルでの非財務情報の開示に関する議論に積極的に参画する。
現在、国際レベルで検討が進んでいる非財務情報開示の枠組みづくりについても、注視し
情報収集していくとともに、日本側の意見を十分反映できるよう努めていくべきである。そ
のためには政府、産業団体、企業の立場から多面的に関与し、積極的に発言、提言して参画
することが求められる。

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