アジア・コーポレート・ガバナンス協会(ACGA)は新しいレポート、「監査委員会」との比較における監査役会の役割と機能」、を発行しました。当法人のデータライブラリーからこちらでダウンロードができます。 http://bdti.mastertree.jp/f/6rmx0y28。
執筆者:チャールズ・リー、研究部長、北アジア、ACGA、香港 ジェミー・アレン、事務局長、ACGA、香港
外部アドバイザー: ニコラス・ベネシュ、会社役員育成機構代表理事
一部の抜粋は以下にあります。
「目次
1. 序説
2. 歴史的背景 .
監査役 .
「監査委員会」
三委員会制度の下での監査委員会
監査・監督委員会
3. 法的地位及び形式的役割
監査役
「監査委員会」.
4. 期待される役割及び「ベストプラクティス」
監査役
「監査委員会」
5. 実際の機能
監査役
「監査委員会」
6. 励行
7. 結論と提言
8. 付属
監査役の法的権限
1. 序説
本稿の目的は、主に日本の監査役会1、そして、副次的に三委員会制度の下での監査委員会の目的及び機能を、アジア及び西洋の他の先進国市場において運用されている「監査委員会」の目的及び機能と比較することにある。日本で過去数年にわたり啓発活動を行ってきた結果、日本国外においては監査役制度ついて充分に理解されておらず、三委員会制度の下での監査委員会との違いについても十分理解されていないことが我々にとってますます明白となった。他方、日本では、日本国外でいう「監査委員会」(三委員会制度の下での監査委員会との混乱を避けるために、本稿においては括弧書きにする。)について幾分誤解があるようである。監査役は「監査委員会」に代わるものであるという主張が日本でなされることがあるが、我々はこの見解には賛同できない。なぜなら、二つの機関の権限及び機能は、重複する部分はあるものの、重要な点において極めて異なるものであるからである。
詳細に基づき我々が出した結論は、純粋に独立性があり上手く運営されている「監査委員会」は、取締役会のガバナンスの強化と経営に対する監視を、監査役制度より効果的に行える可能性があるというものである。「監査委員会」は、通常、その全員又は過半数が独立取締役から構成されており、独立取締役の委員長がいる(これは、日本の三委員会制度の下での監査委員会を持つ会社には該当しない場合が多い。)。「監査委員会」の構成員は、議決権を行使する取締役として、取締役会の決議に直接的な影響を行使する能力がある。このために、彼らには、監査役と比較して、財務報告書の健全性、外部監査人の独立性、会社の内部統制、内部監査実務及びリスク管理制度の堅牢性に影響を及ぼすより大きな権限及び能力がある。近年、一部の「監査委員会」は、内部告発制度の実施状況の評価等の追加的業務を引き受けている。
これとは対照的に、監査役は、取締役会の正式の意思決定及び承認プロセスに完全には組み込まれておらず、(監査役は取締役会に出席し、会社によっては社長兼最高経営責任者の信頼できるアドバイザーとして活動している場合があるが)取締役としての権限はない。常勤監査役の仕事の多くは、「業務監査」で占められ、このため多くの点において、常勤監査役は、会社が法令及び規則を遵守していることを確保するコンプライアンス・オフィサーのように機能することが求められている。また監査役は「会計監査」も実施するが、その主な役割は、監査方針の設定、会計監査人(外部監査人)の仕事の監視、常勤監査役の報告の聴取、会社の財務状況の機械的チェックである。
我々は、日本の規制当局が、近年、監査役制度を強化すべく取り組んできており、また、真に独立した、意識の高い監査役が、日本企業のコーポレート・ガバナンスに貴重な貢献をしていることを認識している。さらに、我々は、監査役のプラクティスの一部は、「監査委員会」によって有効に取り入れることができることも認める。また、我々は「監査委員会」は、時にその可能性を活かしきれず、その制度が完璧からはほど遠いものであることも認める。
しかしながら全体としてみた場合、我々は、取締役会の不可分の一部であり、構成員が取締役会の決定の完全な参加者である「監査委員会」と比較すると、監査役会の権限はその構造及び実際の実務の両方において弱いと考えている。現代の資本市場において、仮にゼロから、取締役会のガバナンスと経営監督システムを設計しようとするならば、現行の監査役制度が設計されるとは考えられない。この制度の弱さは、逆説的ではあるが、個々の監査役に与えられた形式的な権限のほとんどが、独立の調査権、取締役の行為の差し止め請求等のように、非常に強力で対立的なものであるがために、ほとんど行使されることがないという事実に由来するものである。
本稿では、監査役と「監査委員会」の正式な役割、期待される役割及び実際の役割を比較することによって、我々の見解を詳述する。また、我々は、二つの制度が、日本と西洋で進化してきた簡単な歴史的経緯にもふれ、今後に向けて幾つかの示唆を提供する。
最初に、本稿の主な目的は、複雑な課題を浮き彫りにし、できれば日本企業と外国人投資家の間の相互理解を深めることにあることを明確にしておきたい。我々は、適切に機能している場合の「監査委員会」の方が監査役会よりも日本企業にとって有効だと確信しているものの、現時点で日本における「監査委員会」設置の義務付けを求めるものではない。このためには、少なくとも日本の会社法の大幅な改正が必要であり、それについては下記7(結論と提言)において詳述する(このような改正は、政府の考え方や行動に大胆な変化がない限り容易に行えるものではない。)。また、「監査委員会」は、完全に独立した取締役なしには機能し得ないことから、独立取締役に関する確固としたルールを導入することが必要である(日本はこの分野において前進しているもののその速度は依然として緩慢でかつ最低限のものに留まっている。)。言い換えれば、監査役会設置会社である日本のほとんどの上場企業は、監査役会の代わりに「監査委員会」を設置するための制度的及び法的な基盤を欠いている。そのような制度が有効に機能するためには、まず、それ以外の変革が必要である。
本稿が、企業、投資家、規制当局、その他日本におけるコーポレート・ガバナンス改革に関わり、関心を有する人々に考察の材料を提供できれば幸いである。また、我々が日本について著した他のレポート、即ち、当協会の2008年の白書、2009年の意見書及び、独立取締役と会社法改正に関するその他の提言書と関連付けてお読みいただきたい。これらの文書については、当協会のウェブサイトwww.acga-asia.orgを参照されたい。これらの文書は、「ACGA Archive / Reports」の下で閲覧していただくことができる。
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7. 結論と提言
本稿が示すように、監査役制度と「監査委員会」制度の両方とも長所と短所がある。多くの点において、両方の制度の最も良い点と悪い点は、それぞれの鏡像である。
我々は、監査役制度にも一定の長所があることを認めている。第一に、監査役制度は、会社をよく知っており、前提として、法的に規定されている監査に関連する義務がある常勤の執行権のない人の存在を認めている。第二に、同制度は、それぞれの監査役に、あらゆる情報に対する十分な権利を背景に独自の調査を行う権利、及び、法的に認められている強力な措置をとる権利を与えている。コーポレート・ガバナンスに関するあらゆる制度と同様に、最も効果的な監査役は、その役割について、単に形式的な要件だけではなく、その精神を受け止めている者である。
しかしながら、この制度には、意図した結果と実際の結果の間に著しい相違をもたらし得る制度設計上の重大な欠陥がある。例えば、監査役に与えられている権限の多くは、(裁判所に仮処分の命令を申し立てること等)その本質において対立的であり、したがって、コンセンサスを重視する企業文化においては(特に一人で活動している監査役により)行使されることはほとんどあり得ない。そして、投資家が、詳細な開示なしに、それぞれの企業において監査役がその義務を如何に効果的に実施しているかを評価することは難しい。
一方、「監査委員会」の最大の短所は、その構成員が、会社の主要な状況について情報を得るために、経営陣に依存しすぎることが多い(あるいは、依存することを余儀なくされる)ということである。したがって、「監査委員会」の構成員は、彼らが知っている必要があるほどには、会社の中での出来事について多くを知らない可能性がある。常勤の監査役とは異なり「監査委員会」の構成員は非常勤であり、自分自身のキャリアー等他に時間を奪い合う仕事を持っている可能性がある。したがって「監査委員会」の実効性は、多忙な人々の確かめることができない様々なコミットメント、並びに、彼らが仕えている会社の取締役会の文化に大きく依存している。
逆に、「監査委員会」の最大の潜在的な強みは、その構成員のほとんどが、取締役会において議決権を行使し、経営陣がいないところで会議することができて、内部監査責任者及び外部監査人の両方に直通電話することができる独立取締役であるという事実に由来する。これによって、構成員は、取締役会の意思決定に際し情報を提供することが可能になり、原則として、他の執行取締役及びその他の非執行取締役とイコールフィッティングになる。監視制度として、これは、明らかに、一層堅牢な結果が生じる可能性を提供するものであり、財務報告及び内部統制における問題がより速やかに明るみに出ることに寄与するものである。
我々は、日本におけるコーポレート・ガバナンスは、会社が「監査委員会」の採用に向けて動けば、長期的には一番効果的なものになると考えている。監査役が持つ機能の最も良い点を取り入れる形でこれが行われたならば理想的である。我々としても、これは容易ではなく、一夜にして達成できるものではないことは承知している。しかし、我々は、次に挙げる措置をとることが、前進するための建設的な方法であると考えている。
1. 会社は、2013年に加速している二つの傾向に注目すべきである。一つは、独立取締役に対する公的なサポートの充実。二つ目は監査役会設置会社を含む多くの優良企業が独立取締役を取締役会に自主的に選任していること。
2. 監査役会設置会社は、監査役(及び、当然ながら取締役)の選択及び指名のために取締役会の下に完全に独立した指名委員会を創設すべきである。この委員会の構成員は、会社によって開示される任意のコーポレート・ガバナンス・ガイドラインに従って、全員が独立社外取締役とすべきである。
この指名委員会の構成員がどのように監査役を選択したかについて、その説明責任に注目するようになれば、監査役の選任が今のような最高経営責任者から大きな影響を受けるという可能性がより小さくなり、また、会計及び法律に関する知識が、監査役の選任の不可欠な資格と見なされる可能性が高くなる。
会社が指名委員会を設置していない場合、取締役会は、その指名過程及び監査役の職務要件について明確な説明を行うべきである。
3. 中期的に、また会社法の改正によって可能になった際には、会社は、特に「監査委員会」及び指名委員会等、あらゆる種類の委員会を法的に有効性がある形で設置することができるように、より独立性のある取締役会に向けて動くように検討すべきである。
このように移行することのほうが、新しい「監査・監督委員会会社」という取締役会構造を採用するよりも望ましい。監査・監督委員会は監査役会に代わるものであり、その構成員の過半数は社外取締役になるであろうが、上述した二段階の指名及び「監査委員会」のようには堅牢なものにはならないと考える。
我々が推奨する改革の不可欠な根幹は、会社法の改正である。我々は、日本政府に対し、すべての会社が「監査委員会」及び指名委員会を含む、(a) あらゆる目的のために、(b) 法的に有効で、認められている取締役会の委員会を設置することを認めるように会社法を改正するよう強く提唱する。独立取締役のみからなる「監査委員会」を設置することを選択する会社は、同時に、独立の指名委員会を設置するのならば、監査役を選任あるいは、監査役会を設置する必要がないようにすべきである。」