内閣府特命担当大臣(金融担当)中塚 一宏様に対して、代表理事が役員研修に関するルールを促しました

内閣府特命担当大臣(金融、「新しい公共」、少子化対策、男女共同参画)中塚 一宏氏に手紙を送り、代表理事が役員研修に関するルールの導入を促しました。「他のほとんどの国と違い、日本には役員研修、もしくは役員のコンピテンスに関するルールが存在しません。」 手紙の内容は以下の通りです。

衆議院議員
内閣府特命担当大臣 (金融、「新しい公共」、少子化対策、男女共同参画)

中塚 一宏 様

拝啓

晩秋の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
先日は米国大使公邸でお目にかかれましたことを大変嬉しく存じます。

先日、中塚様の事務所にお送りいたしましたメールにてお約束しましたように、役
員や役員の補佐的立場にあるエグゼクティブを対象とした、ガバナンス関連の研修に
ついての情報を喜んで共有させていただきます。金融市場への信頼の回復だけでなく、
男女共同参画、「新しい公共」の促進(私が代表を務めております公益社団法人会社役
員育成機構もこれに当たると存じますが)、という役割を担っていらっしゃることから、
このテーマにご興味をお持ちいただけると確信しております。

以下は、私からの説明でございます。

「他のほとんどの国と違い、日本には役員研修、もしくは役員のコンピテンスに関す
るルールが存在しません」

2011 年のオリンパス事件を含め、コーポレート・ガバナンスに関連した不祥事や投
資家の損失が長年続いているにもかかわらず、日本は、株式市場が存在する国の中で、
証券取引所が役員研修や役員の知識水準に関して何のルールも定めていない稀な国で
す。最近、アジア・コーポレート・ガバナンス協会(ACGA)がコーポレート・ガバナ
ンス評価において、日本のランクをアジアではマレーシアと同じ4位に下げたことに
も示されているように、認識されている日本のガバナンスの質は近年、相対的に向上
していません。そして、役員研修において最も遅れをとっています。

日本とは異なり、海外のほとんどの市場では役員研修に関するルールを設けていま
す。そのようなルールは通常、取引所の上場規則や、情報開示要件、もしくは「コー
ポレート・ガバナンスコード」に含まれています。ルールは通常、新任役員への研修
と現役員への継続教育の義務付け、もしくは役員を対象とした研修やオリエンテーシ
ョンに関する方針の開示(方針の有無を含む)を少なくとも要求しています。アジア
では、昨年の11 月に役員研修がOECD の重点課題の一つである、と同意されたことも
受け、シンガポール、韓国、香港、インド、マレーシアを含む多くの国が、各国のコ
ーポレート・ガバナンスコードの中で、役員研修の重要性を強調しています。

「この問題は金融市場における自信を失わさせ、男女平等を遅らせます」

この重要なテーマについて日本が何のルールも定めていないことは特に不思議であ
り、以下で詳しく説明いたしますが、株式市場とコーポレート・ガバナンスに対する
自信を大きく失わせてしまいます。

1. 役員としての仕事を、責任を持って全うするために必要なスキル、知識、考え方
は、会社で昇進されるために必要なものとは異なります。例えば、営業部長や、製
品開発部長、人事部は、研修を受けない限り、コーポレート・ガバナンス、会社法、
金商法、会計、財務、リスク管理、コンプライアンス、M&A 取引の監視に関する
非常に重要な事に関してあまり知らない、ということがよくみられます。

2. 問題が顕著に表れている例として、監査役があげられます。日本の法律では監査
役の役割と義務は「会計監査」と「適法性監査」になっていますが、現在の日本の
株式市場にはルールが存在しないため、監査役が会計や法律に関する研修や知識を
何も求められなくても済む、という状況になってしまっています。驚くべきことに、
この二つに関して全く知識がない人でも監査役として指名、選任されることが可能
で、名目上、4年の任期を務めることになります。また、その任期中にも必要な新
たな知識をつけることを求められていません。

3. 日本企業において、約85%の役員が「社内役員」であるため、新任の取締役は、
上場企業で役員として務めた経験がない社内から昇進された執行役員であるケー
スがほとんどです。これは多くの役員が「社外役員」であり、そのため他の会社で
役員として務めた経験を持つ、という他国の状況と大きく異なります。大半の日本
企業では役員研修を提供していないため、日本の株主総会では「就任後に学ぶ」役
員を選任していることになります。これは、取締役会という「間違いから学ぶ」と
いうことが許されない場であるにもかかわらず、「取締役会でのOJT」ということ
を意味します。日本社会、当局、ステークホルダーはこれでよしと感じているでし
ょうか。

しかし、社内役員が多いということは、逆にいえば、就任前に徹底的な研修を提
供することが非常に容易であるともいえます。ただ、以上で述べましたように日本
の上場企業に対してインセンティブをあたえるルールが存在しないことがネック
になっています。

4. ほとんどの日本の上場企業において役員研修が役員に選任される前に提供され
ておらず、研修が提供されていたとしても研修を行ったかどうかの開示が要求され
ていないため、投資家は、適任であるかどうかを合理的に判断するのに十分な情報
を持たずに、85%の役員を選任せざるを得ない状況となっています。

5. 最後に、よくご存じのこととは思いますが、日本政府はアジアでも最低レベルで
あるプライベートセクターにおける女性管理職の割合、1、2%を引き上げるという
政策を掲げています。日本企業は役員に適格な女性の候補者がいない、と訴えてい
ますが、役員研修の導入はこの状況を改善できますし、企業内で女性を早く昇進す
るための環境整備にも貢献します。

「現在までの、金融庁と東京証券取引所のポリシーでは不十分です」

オリンパス事件後、東京証券取引所は「証券市場の信頼回復のためのコーポレート・
ガバナンスに関する上場制度の見直しについて」という提案へのパブリックコメント
を募集しました。この見直しは、上記で示しましたように上場企業の役員の15%しか
占めていない「社外役員」のありかたに集中しています。この見直しでは、役員研修
や以上で説明した問題、特に日本の上場企業のガバナンスをコントロールする85%の
役員に関わる問題については何も検討されませんでした。

その結果、提出されたパブリックコメントや、その他の公表された意見の中では、多くの影響力のある方々や組織が、東証や金融庁が役員研修の実施、もしくは少なくともそのような研修に関わる方針を開示させるルールを公布することは必要不可欠である、と不満とともに表明しました。

私が把握している限りでは、以下の方、組織が役員研修の必要性について意見を表
明しています。

アジア・コーポレート・ガバナンス協会(ACGA)
公益社団法人 経済同友会
在日米国商工会議所
CFA 協会
Japan Society of Northern California
The Economist (雑誌)
CLSA(証券会社)
マイケル・ウッドフォード 氏
財団法人 日本総合研究所会長 野田 一夫 氏
森田祐理 氏 (株式会社アドバンテスト元監査役)
Steven Towns (ファンド・マネジャー)

みずほフィナンシャルグループの2012 年株主総会で議決権行使した28%の株主
東証にとって、東証に上場している企業が提出しなくてはならないコーポレート・ガ
バナンス報告書に、(1)指名前の役員候補者への研修の実績、(2)全ての役員に対す
る教育、継続教育の提供、および必要性の評価に関しての方針、を記述していただく
欄を追加するのは、金融庁の後押しさえあれば容易なことです。方針がない会社はそ
の事実を開示し、その場しのぎでやっている会社はその状況を開示することになりま
す。反対に、明確な方針を持ち、よくやっている会社は投資家に対して開示をするこ
とで、市場への自信を回復します。このようにすれば、指名前の役員研修はいずれ経
営陣自身のためになると理解され、健全なインセンティブを与えることが出来ます。

実際、今年の 6 月に、ある株主がみずほフィナンシャルグループの株主総会に上記
よりもさらに詳細に亘る開示を要求する株主提案を提出しました。この提案は定時株
主総会で28%もの賛成票を獲得し、これは今年のみずほフィナンシャルグループの株
主総会で最も高い支持を得たものになりました。また2012 年6月に提出された全株主
提案の中でも、4 番目に高い賛成率を得ています。日本では今まで、株主提案がこのよ
うな高い賛成率を得ることはとても珍しいことでしたので、多くの投資家は役員研修
に関する開示を支持しているということでしょう。

「提案」

日本企業、多くの従業員、ステークホルダー、金融庁が守る義務がある投資家達を
代弁して、私は日本政府が、役員研修に関するルールを公布する(もしくは取引所に
公布させる)ことを提案いたします。

(別紙もご参照ください) (クリック)

敬具
公益社団法人会社役員育成機構
代表理事
ニコラス・ベネシュ

中塚大臣への手紙(別紙付き)-1-19-2012
http://bdti.mastertree.jp/f/w3my01p6

(右下の、「アセットのオリジナルをダウンロードする」をクリックしてください)

 

 

 

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