もしあなたが「社外取教訓#8:役員会の役割」で述べたような、CEOを解任しなければならないような状況に陥った場合、どうすれば良いでしょうか。まず初めに、株主総会よりも前の時点で、投資家が後任のCEOとして望んでいる(と思われる)人物に会いに行きます。その人が本当にそのポジションに就きたいのか、その理由は何なのか、どのようにリーダーとして舵を取るつもりなのか、尋ねることから始めてみましょう。CEOはどんな時だって大変な仕事で、他の仕事もあればなおさらです。はっきりした答えが返ってこないかもしれないし、消極的な合図を送ってくるかもしれません。それ自体、重要な情報なのです。
次に、日本ではほとんどの場合、株主総会の直後に取締役会が開催され、すぐさまCEOの選定(または再選定)やその他の決定事項を済ませます。代表取締役(CEO)は後でいつでも変更できますが、従前の代表取締役が任期満了後に取締役として再任された場合、その人をCEOに再び選定するか、別の人を選定するか、あるいはもう一人別の人に「代表取締役」の肩書を与えるかを決めなければなりません。すぐに選定しないと、法的に会社を率いる代表取締役がいなくなってしまいます。
つまり、総会直後にこの話題が出ることは分かりきっているのですから、あらかじめ取締役会で言うセリフを用意しておく必要があります(必要に応じて、個人として弁護士とも相談してください)。取締役会議長か他の取締役の誰かが、新任取締役の一人(Xさん)を新しい代表取締役CEOに選定すると提案したとします。前のCEOは総会で取締役に再任されたとしても、代表取締役として改めて選定されなければ、事実上CEOとして解任されたことにほかなりません。Xさんを後任とするの議案が出たときに、十分な判断材料がないのであれば、「この決議には賛成できません」と答えてよいのです。 「新しいメンバーが揃ったばかりの取締役会で、皆さんはどうしてこんなに早く意見がまとまるのか不思議だ」と思ってもおかしくありません。ですから、「当面は現CEOを続投させる方が理にかなってます」とコメントしても良いのです。
そして、「2ヵ月後にCEOの交代を検討してもよい」と逆に提案してみましょう。「それまで、このテーマについて意見をまとめることができるはずです。決断はしばらく延期しましょう。 私たちには、すぐに対処すべき緊急の事案が他にもたくさんあります。しかも、Xさんは「社外取締役」、つまり「業務執行役員ではない」と招集通知で明言したばかりです。株主総会から5分後にすぐさま彼を代表取締役に選定することは、少なくとも会社として誤解を招きかねない開示であり、金商法上の虚偽記載とみなされる可能性さえあります。」と言えるでかもしれません。
日本では、いや、どこの国でも、ほとんどの取締役会は全会一致で決定することを望みます。このような「とりあえず反対することが妥当だ」アポローチをとれば、ほぼ確実に解任計画は止まり、会社にとって何が最善かを考える時間を持てるでしょう。それでも中止されない場合には、採決の前に自分が議案に反対する(上記の)理由を取締役会議事録に細かく記載するよう具体的に要求してください。それでも結果が変わらなければ、最後に、辞任を検討すると発言する選択肢もあります。そんな状況では辞任を真剣に考えているかもしれませんが。
ニコラス・ベネシュ
(個人的な立場で書いており、いかなる組織を代表する立場ではありません)。
備考:私がライブドアの取締役会で起こったことを語れるのは、同社がもう存在しないからです。通常、取締役は会社に対して「守秘義務」を負っており、取締役会の議論や機密事項については、死ぬまでその義務が続きます。しかし、ライブドアはもう存在しないので、私が義務を負うべき対象会社はもう存在しないのです。
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この投稿が役立ったと思われた方は、他のシリーズもありますのでぜひご覧ください。今後もまだ続きます!
社外取教訓#7:D&Oがなければ…自分で確保せよ(クリック)
社外取教訓#4:会社が潰れることよりも悪いことは?(クリック)
社外取教訓#3:こんなにも早く会社が倒産するのか(!)(クリック)
社外取教訓#2:社外取締役として初めて経験したこと(クリック)
また、以下最初の投稿をお読みいただき、BDTIがより良いガバナンス、日本の未来、そしてサステナビリティに貢献し続けられるよう寄付をご検討いただけると(クリック)ありがたいです。これらの投稿を広く共有してください!
2023年4月16日、私ニコラス・ベネシュは67歳を迎えました。そこでぜひお願いがあります。私が代表理事として14年間、日本で3,000人以上の方に役員研修(e-ラーニングを通すともっと多く)を提供してきた益法人会社役員育成機構(BDTI)への寄付をご検討いただけないでしょうか。また、これを機に、今後、コーポレート・ガバナンスに関連する論点やメッセージを、最近の出来事や私自身の15年にわたる社外取締役経験(又は友人の経験)に基づき、短く、読みやすく、しかしできれば考えさせられるような投稿を、このブログで連載していこうと考えています。
BDTIの仕事は、情熱と責任を必要とする「mission work (ミッション・ワーク)」であります。これからの投稿は、私がなぜこのような仕事をしているのか、日本や日本企業、投資家が直面する課題、そしてそれをどのように克服できるのかを明らかにするという意味で、興味をもっていただけると思います。これは、15年近く日本企業で取締役を務め、20年以上にわたってコーポレート・ガバナンス改善についてアドボカシーを積極的に行った者の視点を紹介するものになります。
日本には本格的な取締役研修の習慣や義務がないため、BDTIは研修をいわゆる「補助金」を出す形で安く提供しなくてはいけません。質の高いプログラムを、(倹約家である)お客さまを引き付けるに十分な価格帯、つまり、1人1時間当たりで他の先進国の市場の3分の1の価格で提供できるようにしなくてはいけません。 (安い給料を支払って、私自身で多くの寄付しても、これが市場の現実です)。しかも、「G」は「ESGの大黒柱」であるにもかかわらず、その事実があまり認識されていないのです。
では私たちはどのようにしてこの「補助金」を出しているのでしょうか。 1)第一に、東京郊外に小さなオフィスをかまえ、経費をケチること、2)第二に、日本のコーポレート・ガバナンスの有効性と信頼性を高めることが重要だと考える個人や機関投資家から寄付をいだだけること、3)第三に、長期にわたる「ビッグデータ」構造化データベース(テキストを含む)を収集・正規化し、そのアクセスを大手ファンドマネージャーに販売すること。
ようやく日本の機関投資家も支援を検討してくれるようになりましたが、もう少し時間がかかりそうです。…なので、今はまだ数千円でも良いので、皆さんのご支援が必要なのです。
2022年度活動報告・2023年度 次年度予定: https://blog.bdti.or.jp/2023/03/16/fy2023/
(BDTI女性役員研修奨学金制度2023の情報も含める)
BDTIの研修プログラム: https://bdti.or.jp/director-training/
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公益社団法人会社役員育成機構 https://bdti.or.jp/
代表理事
ニコラス ベネシュ
(個人的な立場で書いており、いかなる組織を代表する立場ではありません)。