BDTIとMETRICALは、「CGプラクティスと価値創造のリンケージ」を共同研究しているが、このほど時価総額約100億円超の約1,800社の上場会社について2019年7月末の分析結果をアップデートした。ちなみに、今回の分析データは2019年3月期決算後の有価証券報告書提出後のデータを用いていることから、3月決算会社のボードプラクティスの変化の多くを含んでいる。
本分析では、CGプラクティスをボードプラクティスとアクションに分けて考えた場合、ボードプラクティス(取締役会の運営体系)とアクション(実際の企業行動)が価値の創造の指標とされるROE, ROA, トービンのqと有意性のある相関があるかを分析している。
CGコード導入以来、それ以前に比較して一定程度のボードプラクティスの改善は進んだと言えるが、株式会社の目標が価値の創造であるという前提に立った場合、その改善が価値の創造に繋がっているか定点観測することに意義があると見ている。
今回の分析結果において確認されたことは、次のようにまとめられる。
(1)ボードプラクティスと価値創造(3つのパフォーマンス指標(ROE, ROA, トービンのq))に有意性のある正の相関が確認されたのは、
- インセンティブ(報酬)プランファクターと実績ROE
- 顧問・相談役ファクターとトービンのq
- 独立取締役比率とトービンのq
- インセンティブ(報酬)プランファクターと実績ROA
- 顧問・相談役ファクターと実績ROA
顧問・相談役ファクターの分析は2018年11月より対象となったが、独立取締役比率インセンティブ(報酬)プランファクターがROE, ROA, トービンのqと正との相関関係は2018年4月の前回の本レポートでも報告されており、ボードプラクティスの改善が価値創造に直接つながるファクターであると期待される。一方で、今回は2つの負の相関が確認された。
- 報酬委員会ファクターと実績ROE
- 報酬委員会ファクターと実績ROA
もちろん、おそらくROE, ROAは単年度の業績を表す指標であることも、ボードプラクティスの改善との相関を見出しにくい理由であることは考慮する必要がある。しかし、今後この負の相関が続くのか注目していく必要がある。プラクティスの比較的良いとされた会社の一時的な業績の下振れに起因するものなのか?それとも、パフォーマンスの低い会社がプラクティスを良く見せようとして報酬委員会を設置に動いたのか?など。
(2)アクションと価値創造の分析では、本分析の開始以来多くの評価項目において有意性のある正の相関が継続している。
- 政策保有株式が総資産比少ない
- 自己株式消却が多い
- 成長戦略が明瞭でしっかりしている
- 買収防衛策がない
- 株主総会・IRのディスクロージャーがしっかりしている
一方で、現金保有が売上高比多い、大株主の持分が多い(親会社のある会社や創業者持ち株の多い)会社のROE, ROA, トービンのqのパフォーマンスは高い傾向があることも継続して確認されている。政策保有株の削減、自己株式消却、成長政略などの実際の企業行動は直接的に価値の創造に寄与することがわかる。また、結果的に利益率の高い会社は現金がバランスシートに積み上がるため株式の評価が高い、親子上場の子会社や創業者経営会社の利益率が高いことが多い。
(3)独立取締役比率のグループごとの分析では、今回多くの会社が独立取締役の人数を少し増やすなどして、独立取締役比率が全体的に上昇した。今回の分析の特徴は次の通り。
- 今年6月の株主総会で独立取締役が過半数の取締役会を持つ会社が85社(東芝を入れると86社)と前進した。
- これまで(2019年6月まで)の分析では、独立取締役比率が50%超のグループの価値創造指標は全体平均値(実績ROE=9.3%, 実績ROA=4.5%)をかなり上回るレベルであったが、今回の結果では全体平均値を下回った。
50%超のグループの平均値:実績ROE=8.5%, 実績ROA=3.4%
全体平均値:実績ROE=9.3%, 実績ROA=4.5%
今回新たな動きであることから、上述(1)と同様に、こちらも注意深く分析していく必要がある。パフォーマンスがあまりよろしくない会社がプラクティスを良く見せようとして、独立取締役比率を引き上げたのか?プラクティスの比較的良いとされた会社の一時的な業績の下振れに起因するものなのか?
一方、5%以下のグループにも収益力の高い会社が含まれていて、当然METRICALのCGスコアは低いが、価値創造にかかる数値は高い傾向がある。こちらは継続して確認されている。
詳細は下記のウェブサイトをご参考にしてください。
松本 昭彦, CFA
Executive Director, Metrical Inc.