2024年1月は2023年6月以来の海外投資家の日本株買い越しによって、日本株は大きく上昇しました。東証の売買高の70%超を占める海外投資家の売買が日本株を牽引する構図に変化はありません。一方で2023年3月末の東証の要請以降、上場会社は株価バリュエーション(P/B)の引き上げに苦労しています。海外投資家の買いに期待を寄せるような上場会社からの開示も増えてきました。今回は外国人持株比率に注目して、海外投資家が投資する会社にはどのような傾向があるのか分析します。海外投資家はもとより、上場会社にも注目してほしい内容です。
Metricalユニバース1,822社(2024年1月)を外国人持株比率で5つのグループ(30%以上、20%以上30%未満、15%以上20%未満、10%以上15%未満、10%未満)に分けて各項目で分析します。外国人持株比率の中央値は15%です。15%以上の会社は外国人持株比率がよりも高い会社といえます。また、以前の拙記事「Takeover Defense Measures and Foreign Shareholder Ratio」で述べた通り、30%に閾値のようなものがあると考えられます。外国人持ち株比率が30%を超えると会社にとっては株主総会で特別決議の1/3の確保が難しくなるため、外国人株主の影響力が強くなり、その結果会社の経営改善が進むことが期待できます。
下表はMetricalユニバース1,822社(2024年1月)を外国人持株比率で5つのグループ(30%以上、20%以上30%未満、15%以上20%未満、10%以上15%未満、10%未満)に分けてプロファイルを示しています。外国人持株比率30%以上の会社は時価総額が圧倒的に大きい会社に投資しています。そして、それらの会社はROEとROAが高いといえます。海外投資家は機関投資家として流動性の高い会社で、収益性の高い会社に投資しています。その結果、市場の評価(株価バリュエーション)が高くなります。別の特徴としてはLarge Shareholder Score(高いスコアは20%以上の持分を保有する大株主が存在しない)が示す通り、親子上場の上場子会社への投資は避ける傾向があります。外国人持ち株比率20%以上30%未満の会社でも、外国人持株比率30%以上の会社にやや近い傾向が見られます。逆に、外国人持ち株比率が中央値よりも低い会社(外国人持ち株比率15%未満)では時価総額が小さく、20%以上の持分を保有する大株主が存在し、ROE、ROAが低めでTobin’s Qが低めの会社が含まれています。外国人持株比率との相関係数が高めなのは、時価総額と大株主スコアですから、海外投資家はこの2つについては投資する上で重要な要素と考えていると見られます。
下表は外国人持株比率の5つのグループに分けてボードプラクティスの特徴を示しています。ボードプラクティスでも、顕著な結果が確認されます。外国人持株比率30%以上の会社は顕著に優れた値を示しています。外国人持ち株比率20%以上30%未満の会社でも、外国人持株比率30%以上の会社に次いで、概ね優れた値を示しています。逆に、外国人持ち株比率が中央値よりも低い会社(外国人持ち株比率15%未満)ではボードプラクティスの値も芳しくありません。外国人持株比率が上昇して海外投資家の影響力が増すと、ボードプラクティスは改善する傾向があると考えて良さそうです。この意味において、海外投資家のエンゲージメントがコ―ポレートガバナンスの改善に果たした役割が大きいことが再確認させられます。
下表は外国人持株比率の5つのグループに分けてキー・アクションの特徴を示しています。キー・アクションでも、外国人持株比率30%以上の会社はGrowth Policy Score、Policyshare Holding Score、Treasury Stocks Retirement、AGM Disclosures Score、IR Disclosures Scoreで優れた値を示しています。Dividend Policy ScoreとCash Holding Scoreはいずれのグループも同じ中央値なので、安定配当を基本としている会社が多い、手元キャッシュを余分に抱えている傾向が全ての上場会社にあると言えます。一方で、外国人持株比率30%以上の会社はPolicyshare Holding Scoreが他のグループよりも優れた値を示していることから、海外投資家のエンゲージメントによって政策保有株式の削減が進むことを示しています。Treasury Stocks Retirementについては、外国人持株比率15%以上の会社では同じ値を示しているので、自己株式買い戻しおよび消却は外国人持株比率が中央値の15%以上の会社には浸透したと言えます。一方で、興味深いのは、Disclosures in English Scoreはいずれのグループも変わらないことです。東証が英文開示をプライム市場上場会社に求めるのは2025年4月からですから、決算短信の英訳はしている会社が多いものの、まだそれ以外の文書の英文開示には手をつけていない会社が多いことを示しています。今後英文開示の質と量が増えていくと、外国人持株比率の差になって現れるかもしれません。
まとめると、外国人持ち株比率で会社を5つのグループに分けて、どのような特徴と傾向があるかを考えてみました。
Metricalユニバース1,822社(2024年1月)を外国人持株比率で5つのグループ(30%以上、20%以上30%未満、15%以上20%未満、10%以上15%未満、10%未満)に分けて分析しました。
海外投資家がどのような会社に投資する傾向があるかに関しては、時価総額が大きい会社で、収益性の高い会社に投資しています。その結果、株価バリュエーションが高くなります。別の特徴としては、親子上場の上場子会社への投資は避ける傾向があります。
次に、外国人持株比率の高い会社のボードプラクティスの特徴に関しては、外国人持株比率30%以上の会社は顕著に優れた値を示しています。外国人持ち株比率20%以上30%未満の会社でも、概ね優れた値を示していることから、外国人持株比率が上昇して海外投資家の影響力が増すと、ボードプラクティスが改善すると考えて良さそうです。海外投資家のエンゲージメントがコ―ポレートガバナンスの改善大きく寄与していると言えます。
最後に、外国人持株比率の高い会社のキー・アクションの特徴に関しては、外国人持株比率30%以上の会社はGrowth Policy Score、Policyshare Holding Score、Treasury Stocks Retirement、AGM Disclosures Score、IR Disclosures Scoreで優れた値を示しています。海外投資家のエンゲージメントによって政策保有株式の削減が進むことが期待されます。Treasury Stocks Retirementは上場会社に一定程度浸透したと思われますが、株主還元においては安定配当を基本としている会社が多く、手元キャッシュを余分に抱えている会社が多いことから、キャッシュ・アロケーションには全ての会社に課題があります。また、英文開示については、まだ外国人株主比率で差がありませんが、東証が2025年4月から今後英文開示を要請したことから、今後はディスクロージャーの質と量によって外国人持株比率の差になって現れるかもしれません。
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