前回の独立取締比率の分析に続き、今回は女性役員比率の分析です。ご案内の通り、政府がプライム市場の上場会社に対して2030年までに女性役員(取締役、法定執行役および法定監査役)の比率を30%にするとの目標を掲げました。これに呼応して東証も同じ努力目標を設定しました。9月末Metricalユニバースのデータを用いて、女性役員比率のグループごとの特徴から考えてみます。
9月末Metricalユニバース1,781社のうち女性役員比率30%以上を達成した会社は74社(4.2%)です。また、政府および東証は途中経過の目標として2025年までに1名以上の女性役員を選任する目標も設定しています。9月末Metricalユニバースのうち1名以上の女性役員を選任している会社は1,567社(88%)あります。Metricalユニバース1,781社の中にはプライム市場以外の上場会社も含まれます。また、キヤノンのように今後のAGMにおいて女性役員を選任すると予想される会社が含まれるので、プライム市場の上場会社の大半が女性役員を2025年までに選任することになりそうです。
下表はMetricalユニバース(2023年9月末現在)の女性役員比率ごとの特徴を示したものです。女性役員比率を30%以上、25%以上-30%未満、10%以上-25%未満、0%超-10%未満、0%の5つのグループに分けて、時価総額、外国人株主比率、独立取締役比率、ROE、ROA、Tobin’s Q、Metrical Score(コ―ポレートガバナンス総合評価)の各項目について示しています。
これを見ると、30%以上と25%以上-30%未満のグループは各項目において優れた数値を示しているとともに、とても近い数値を示しています。女性役員比率が25%以上-30%未満のグループはとても近い将来に女性役員比率を30%以上に引き上げると考えられ、コーポレートガバナンスのプラクティスにも意識が高い会社が含まれていると考えられます。それを示すように、女性役員比率が25%以上-30%未満のグループは独立取締役比率の中央値は女性役員比率を30%以上のグループと同じ50%です。コ―ポレートガバナンス総合評価を示すMetrical Scoreでは、女性役員比率が25%以上-30%未満のグループは女性役員比率を30%以上のグループよりも少し上回っています。また、女性役員比率を30%以上のグループおよび女性役員比率が25%以上-30%未満のグループはROE、ROAにおいて他のグループに対して抜きん出て優れた数値を示しています。Tobin’s Qに関しては、女性役員比率を30%以上のグループおよび女性役員比率が25%以上-30%未満のグループはともに他のグループよりも優れた数値を示していますが、とりわけ女性役員比率を30%以上のグループは圧倒的に高い値を示していることは特筆すべきです。
次に、時価総額と外国人株主比率を見てみると、女性役員比率を30%以上のグループおよび女性役員比率が25%以上-30%未満のグループは時価総額では他のグループと異なって大きな時価総額の会社が含まれていることがわかります。外国人株主比率でも30%以上のグループおよび女性役員比率が25%以上-30%未満のグループは高い数値であることから、時価総額が大きな海外投資家が投資対象とする会社では、女性役員比率が高い傾向があることがわかります。女性役員比率0%のグループは時価総額が圧倒的に小さく、外国人株主比率が極めて低いことから、女性役員比率の上昇には外国人株主比率が大きく関係していることがデータからも確認されます。一方で、外国人株主比率に注目すると、女性役員比率10%以上-25%未満および0%超-10%未満でも一定程度の外国人株主比率であることから、海外投資家のエンゲージメントに助けられて、前述の政府および東証の努力目標に沿う形で女性役員比率は今後徐々に上昇していくと予想されます。
女性役員比率0%のグループはROE、ROAおよびTobin’s Qにおいて女性役員比率0%超-10%未満のグループよりわずかに高い数値を示していることから、収益性および株価評価では女性役員比率0%超-10%よりも劣るものではありませんが、女性役員を選任していません。女性役員比率0%のグループは独立取締役比率では女性役員比率0%超-10%未満のグループと同じ37.50%である一方で、Metrical Score(コ―ポレートガバナンス総合評価)では断然低い値です。このことから、女性役員比率0%のグループはコーポレートガバナンス・コードにおいて「プライム市場の上場会社は独立取締役比率を1/3以上にすべき」と明示されたような項目には対応するが、コーポレートガバナンス・プラクティスの本質的な改善にはそもそも興味がなかったと考えられます(女性役員比率も今年になるまで政府・東証の方針は明示されていなかった)。よって、女性役員比率は今後政府・東証の方針に沿う形で徐々に引き上げられるかもしれませんが、数字合わせにとどまり、実質的な改善は期待できないと考えることができます。
最後に、今一度Tobin’s Qに関して考えてみます。女性役員比率を30%以上のグループは女性役員比率25%以上-30%未満のグループに比べて、時価総額、外国人株主比率、ROAおよびMetrical Scoreにおいてやや低い値を示す一方で、ROEおよびTobin’s Qで目立って高い数値を示しています。女性役員比率を30%以上のグループは女性役員比率25%以上-30%未満のグループに比べて、やや低いROAの一方でROEで差をつけて、Tobin’s Q(株価評価)で圧倒的です。圧倒的なTobin’s Qの差はROEに基づくものであると考えて良いでしょう。株主還元を含めた適正なキャピタル・アロケーションを投資家が評価した結果、高い株価評価につながっていると考えるべきです。女性役員比率を30%以上をすでに達成した会社は、数字合わせでなく企業価値拡大という株式会社の目標を遂行する上で、情勢役員の選任が重要であるとの本質的な意味でプラクティスを改善してきたと前向きに捉えたいと思います。東証のP/B引き上げ要請以来、P/Bに注目が集まっています。株価評価の引き上げのためには、ROEを引き上げるためのROAの収益力改善と適正なキャピタル・アロケーションがキーになります。同時に、株主会社の目標を遂行するための企業価値拡大に至る本質的なポリシーも重要であると再認識されます。
以上をまとめると、9月末Metricalユニバース1,781社の女性役員比率を軸にして考えてみました。
女性役員比率30%以上と25%以上-30%未満のグループは時価総額、収益性、株価評価、独立取締役比率、コ―ポレートガバナンス評価の各項目において優れた数値を示しています。女性役員比率30%以上のグループは、今年7月に政府および東証が2030年までに女性役員比率を30%以上に引き上げるとの目標を打ち出す前にすでにその目標値を達成しています。女性役員比率が25%以上-30%未満のグループもとても近い将来に女性役員比率を30%以上に引き上げると考えられ、コーポレートガバナンスのプラクティスにも意識が高い会社が含まれていると考えられます。そのドライバとなっているのは、やはり海外投資家のエンゲージメントによるものと推察されます。女性役員比率30%以上と25%以上-30%未満のグループは高い外国人持株比率が示されていて、彼らが投資対象とする時価総額が大きい会社がそれら2つのグループには含まれていることがそのことを裏付けています。
逆に、女性役員比率0%のグループは外国人株主比率が低く、時価総額が小さい会社が多く含まれています。このグループは政府および東証の目標が対象としているプライム市場の上場会社でない会社が多く含まれています。また、これらの会社は仮に政府および東証の途中経過の目標「2025年までに女性役員1名選任」を達成するかもしれませんが、今なお女性役員を選任していない状況からすれば、コーポレートガバナンス・プラクティスを改善する意識は相当に希薄であるという見方もできます。
女性役員比率を30%以上のグループと女性役員比率25%以上-30%未満のグループはどちらも他のグループに比べて、各項目で優れた値を示しています。しかし、女性役員比率を30%以上のグループは女性役員比率25%以上-30%未満のグループに比べて、株価評価(Tobin’s Q)において目立って高い値を示しています。これは、高いROEによるものと考えられます。女性役員比率を30%以上のグループは女性役員比率25%以上-30%未満のグループよりもROAでは低いにも関わらず、ROE が高いことから、適正なキャピタル・アロケーションに勤めていることがより高いROEをもたらし、その結果投資家が株価に高い評価を下したと推測できます。
コーポレート・ガバナンス・ランキング Top 100 をもっと見たい。
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株式会社メトリカル
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