ファミマ事件から、特別委員会の社外取締役の役割

ファミリーマート株式公開買付にかかる株式買取価格決定申立事件
東京地裁決定2023年3月23日

この事件は、親会社である伊藤忠が子会社ファミマを完全子会社とするため、まず公開買付し、その後株式併合により少数株主をスクイーズアウトするスキームをとったところ、スクイーズアウトの株主総会議案に反対したオアシスを含む少数株主らから、ファミマに対し公正な価格での買取が要求され、協議が整わず、双方から裁判所に対し、価格決定の申立てがなされた事件である。

東京地裁の決定文は長文であるが、裁判所の判断の枠組み、一般に公正と認められる手続、公正な価格の算定を記載する3箇所に分けることができる。そして、一般に公正と認められる手続の中では、特に特別委員会が役割を果たしたか、が真っ先に取り上げられている。社外取締役が特別委員会の委員となった場合、何に注意すべきか、参考となる点を多く含むので、ここでは、この箇所に限って、キーポイントを紹介する。

東京地裁決定はファミマの特別委員会に非常に厳しく、その役割を十分に果たしたものとは評価することができない、とした。ただし、決定について双方とも抗告中であり、東京高裁において地裁とは異なる判断がなされる可能性はある。

決定文の要約:特別委員会は、2022年6月22日頃までは、公開買付価格提案を2800円とし、2500円では合意できないと明示し、伊藤忠が公開買付価格2300円を引き上げられないなら、協議終了することを伝えるという交渉方針を決定していた。ところが、伊藤忠が引上げに応じず、特別委員会の推奨意見がなくても公開買付に踏み切る意向を示し、ファミマ経営陣も公開買付を実施しても悪影響はなく、結論を早く出したい旨の意向を述べると、上記交渉方針を放棄し、価格以外の条件(伊藤忠が出来上がりで3分の2を保有することを公開買付の成立条件とする)について交渉するという方針へ転換し、その変更理由を示していない。

決定文の要約:特別委員会は、アドバイザーの助言に基づき、3分の2条件の設定を伊藤忠に求め、設定できない場合には、公開買付について中立意見とするという方針を有していた。ところが、伊藤忠が下限条件(伊藤忠が出来上がりで60%を保有することを公開買付の成立条件とする)を譲歩しないと、上記方針を変更して賛同意見を出すこととし、その検討過程を明らかにしない。

ここで押さえるべき注意点:公開買付への応募については、推奨、非推奨、二つの意見がありえ、意見を分けるのは、対価としての十分性とされた。他方で、公開買付自体については、賛同、反対、中立という意見がありえ、意見を分けるのは、対価としての合理性、公正性担保措置があるか等とされた。応募と公開買付自体という二つのレベルの意見が出現する場合、それらの異同について留意したい。

決定文の要約:これらの方針転換の経緯に照らせば、特別委員会は、相互に特別の資本関係があるファミマと伊藤忠から独立した立場から、ファミマの意思決定過程が恣意的になることを排除するための機関として、その役割を十分に果たしたものとは評価することができない。

ここで押さえるべき注意点:方針転換にはその理由が求められることを意識する必要がある。特に、会社の経営陣と会う場合は、それが方針転換を惹起したのではないかと疑われる可能性があることを意識する必要がある。交渉事項(価格、下限条件)の交渉のタイミング・順序(優先付、同時並行)を注意する。

決定文の要約:2300円は、特別委員会が選定したPwCのDCF方式による株式価値算定結果のレンジ下限を下回るもので、そのプレミアム水準は類似事例と比べて低かった。しかし、PwCの算定結果や類似事例プレミアム水準を材料とした交渉は奏功しなかった。公開買付価格が一般株主に対して応募を推奨できない水準であるのに、公開買付実施を優先した。

決定文の要約:特別委員会は、ファミマの選定したMLのDCF方式による株式価値算定結果のレンジに入っている、一般株主に投資回収機会を提供する観点では一定の合理性があり、妥当性を欠くものとは認められない、とする。しかし、ファミマの選定したMLの算定が、自身が選定したPwCのそれより信用できるとは言えないだろう。また、この程度の価格でも投資回収しようとする者も中にはいるだろうという程度のことしか言えていない。

決定文の要約:自身が選定したNTMから、実務的には第三者評価機関のDCF法による算定結果のレンジに入っていない公開買付価格に賛同することはあり得ないと言った助言を受けていながら、2300円がPwCのDCF法によるレンジの下限を下回っていても一般株主に不利益を生じさせるものではなく対価として十分であるとする合理的な理由を示せておらず、交渉の努力を途中まではしていていたとしても、最後までは行いきれていない。最終期にはPwCから、応募するか否かを株主の判断に委ねることを合理的に説明できる水準である旨の助言を受けるに至ったが、それは公開買付実施を前提に、そのための特別委員会としての答申を行う限度で、助言を受けたというにすぎない。

ここで押さえるべき注意点:特別委員会の財務アドバイザーと、経営陣の財務アドバイザーの間で算定結果が別れた場合、自身の財務アドバイザーの算定を劣後させることには特別な注意が必要である。交渉は局面により変節するものであるが、努力が途中で途切れたかのように見えないか、注意を払う必要がある。専門家から擁護的な意見書がもらえても、裁判官が意見書を読めば、どのような前提で書かれたものかは看破され、神通力は弱まるかもしれないことに留意が必要である。

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