今年の株主総会では再び東芝が話題をさらいました。ご存知の貴兄も多いと思いますが、「昨年6月の定時株主総会で否決された筆頭株主エフィッシモ・キャピタル・マネージメントの人事提案を巡り、東芝と経済産業省が一体となって一部の株主に不当な圧力をかけた」との外部報告が明らかにされました。このことを発端に定時株主総会の取締役選任議案(会社提案)がその後差し替えられ、株主総会では取締役会議長を務める取締役などの再任が否決される事態になるなど、当社のコーポレートガバナンスおよび取締役会の運営など経営のあり方があらためて問われています。東芝は2015年に発覚した会計スキャンダルを受けて現在では、11名の取締役のうち10名が独立社外取締役とし、指名員会等設置会社に移行するなどガバナンス体制を一新したとみられていましたが、今回再びスキャンダルに見舞われています。また、今年1月には子会社の東芝ITサービスで架空取引の粉飾決算が発覚しています。東芝以外にも過去に日産自動車、三菱自動車などがリコール隠しや検査データ不正などでスキャンダルを繰り返しています。なぜ、スキャンダルが繰り返されるのでしょうか?
スキャンダルを引き起こした企業は多くの場合、独立または社内に調査委員会を設置してスキャンダルの調査をしたあと関係各所に調査結果を報告して今後の改善に生かすよう努めるという一連の行動をとります。なぜ今後の改善に活かされないで、スキャンダルが繰り返されるのでしょうか?この命題に関するリサーチはあまり多くはない(日本以外で何度もスキャンダルを引き起こす会社が少ないからなのか?)のですが、調べてみたところJanis, Irving, Groupthink: Psychological Studies of Policy Decisions and Fiascoes, 2nd edition (Boston: Houghton Mifflin Company, 1982)による「Groupthink」の考え方が参考になリました。「冷静で客観的な判断よりも、集団としてのまとまりや居心地のよさを維持するように行動してしまいがちで、その結果、解決の質が低下し、客観的に見ればおかしな判断や決定がなされてしまう傾向がある」という考え方で、次のような環境下では、Groupthinkに陥りやすいとされています:(1)集団のまとまりが強い、外部から孤立していて、(2)事案を検討する過程での意見のチェックや情報提供がない、(3)強いリーダーや有力者がいて、(4)行き過ぎた統制がなされている、時間がない、手がかりが少ないなど、強いストレス下にある。個の意見よりも集団のまとまりを優先することが多く、同調圧力が強い日本社会では上記の「Groupthink」に陥りがちで、結果として客観的に見ればおかしな判断や決定がなされてしまうことは少なくないと推測します。
しかし、前述したように東芝ではガバナンス体制を一新し、取締役会メンバーの多くは独立社外取締役で占められています。独立社外取締役には女性や外国出身の方も合計4名含まれるなどダイバーシティにも配慮された取締役会構成になっているように見受けられます。今回の事件の発端となった昨年の株主総会に先立って、当該筆頭株主の人事提案に関して取締役会でオープンな議論がなされたのか?独立社外取締役全員に執行側と同等の公平かつ十分な情報が提供されているのか?当社取締役および執行役にガバナンスおよびコンプライアンス遵守の意識が十分に浸透しているのか?など疑問が浮かび上がります。このようなスキャンダルが繰り返されることは、表向きのガバナンス体制を整えたとしても、実際には十分に機能していない事例として示される結果になっています。
上述したスキャンダルを繰り返す会社の特徴は、歴史の長い大きな会社であると言うことです。大きな会社の社長(および執行取締役)は日本語で言うところの「サラリーマン社長(および執行取締役」として、いわばローテーションで一定期間社長(および執行取締役)職を務め、また、これらの社長(および執行取締役)は自社株式の保有が少ないこともあって株主目線で経営を行う意識が希薄になりがちではないか、と考えられます。その点で、創業者ファミリーが経営する会社の経営者とは考え方は大いに異なります。逆に、さほど大きくない会社の場合、一度のスキャンダルで会社は存続の危機に直面してしまうので、大きな会社でなければ何度もスキャンダルを引き起こすことはできないと言うこともできます。「大きすぎて潰せない」と言う言葉もあるように、「潰せないのだから問題があると認識していても多少のことをやってもなんとかなるのではないか」「政府や規制当局が最後は守ってくれるのではないか」(事実、今回の東芝のケースでは政府が一部株主に対して議決権の行使をしないうように動いた、日産自動車のケースではルノーによる統合案を懸念した経済産業省がカルロス・ゴーンを経営から排除するべく動いたのではないか、との報道もあります)との甘い考えが経営に隙を与えてしまっているのかもしれません。現状の繰り返されるスキャンダルの事例に接するにおいて、「一度スキャンダルを起こした会社は再びスキャンダルを起こす場合が多い」というリスクを現時点で否定することはできません。ガバナンス体制を良くしたとしても、本当によくなっていると判断するには十分な注意が必要です。実際にプラクティスやアクションが改善しているか慎重な判断を要するため、ガバナンス体制の変更が実質的な経営の質の改善につながるか即断できず、判断には時間を要するのです。そのような会社は現時点では長期投資には向かない、というのが結論になります。
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