安倍総理大臣の要請により、全国の小中高校の臨時休校、在宅勤務の推進、スポーツ・文化イベント自粛が続く中、我が国の働く母親たちは大きな負担を強いられています。このような時にこそ、政府はすでに掲げた政策である外国人家事労働者(FDW:Foreign Domestic Workers)の受け入れ戦略を加速させ、一般家庭での身元引受を解禁すべきです。
政府は、女性労働者が将来、会社役員として取締役会の席に着くことを期待して、労働市場への参入を奨励しています。政府が掲げた、「企業における役員の女性比率を今年中(2020年中)に10%とする目標」を達成したいのであれば、家庭内での子育てと介護に対する女性の「選択肢」を可及的速やかに増やしていく必要があります。
最新の統計によると、家事労働の実に75%を女性が担っています。これでも以前よりは若干の改善が見られます。とは言え、依然として家事労働の重荷の大半は女性の肩にのしかかっているのが現実です。
2017年に政府は外国人家事労働者の受入事業を東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、愛知県、千葉県の「国家戦略特区」に限定して解禁しました。これにより、家事労働者派遣事業者6社が主にフィリピンからの外国人家事労働者の身元引受人となることが許されました。
しかし、日本では個人の立場で直接FDWの身元引受人(スポンサー)になることはまだ許されておらず、仲介業者を通してFDWを採用しなくてはならないのが現状です。現在の特区規制では、FDWの身元引受人となる権利が与えられているのは事業者に限られており、しかも、契約期間は5年間という上限が設けられています。
事業者も、積極的にFDWを採用し、各家庭に派遣できているとは言えません。FDW派遣業を専門とする株式会社シェヴを経営する柳基善氏によると、この理由として「職業訓練や滞在費といった初期コストが高く、5年間というビザ・契約期間の制約の中では、コスト回収もままならない状況なのです」と指摘しています。
2019年現在、日本に入国したFDWの人数は累計でもわずか1,000人と少ないのは、こうした状況がネックになっていると推察されます。政府の目標では2021年までにFDWを3,000人に増やすことになっていますが、それでも香港の200,000人やシンガポールの250,000人と比較すると、かなり控えめな数値目標と言えるでしょう。
「日本人は家族以外の人間を家庭に入れたがらない」という文化的バリア説もまことしやかに唱えられていますが、根拠のない話に過ぎません。現に、一度でも外国人ヘルパーを受け入れたことのある日本人は結果に非常に満足しているのです。「私たちの調査では、お客様の97%がFDWの仕事ぶりに満足しています」と柳氏は述べています。
更に問題なのは、現在の規制の下では、永住ビザを持つ「高度外国人材」と認定されている外国人であっても、日本定住の日本人配偶者、もしくは日本人パートナーとの間に13歳以下の子供が1人以上いない限り、FDWの身元引受人となることを認められていないことです。つまり、極めて高度なスキルを有するフルタイムの外国人重役や会社経営者であっても、FDWの身元引受人になることが許されていないのです。
国内企業・外資系企業問わず、CEOが未婚の外国人の場合、たとえ家で老人を介護する必要がある場合であっても、FDWの身元引受人になることは許されていないのです。このような状況では、超高齢化社会の日本において、欠くことのできない「グローバル人材」を誘致することなど、果たしてできるものなのでしょうか?
日本で働く全ての女性がもっと様々な選択肢の中から個々の状況に合った子育てや介護支援の方法を選択できるようにしていくべきだと私は考えます。政府が本気で女性の労働市場参入を望んでいるのであれば、今こそ「個人によるFDWの身元引受解禁」の決断を下すべきです。
ご参考: Proposal by Kisun Yoo of Chez Vous Co., Ltd.
株式会社コスモ・ピーアール代表取締役社長 佐藤 玖美