メトリカル:株式消却はどのくらい進んだのか?

昨今では自己株式消却の開示情報も耳にする機会が増えました。少し前までは自己株式を買い戻しても消却する上場会社は多くはありませんでした。では、どのくらい自己株式消却は進んでいるのでしょうか?下の表は約1,800社の2018年3月と2020年1月のデータの比較を示しています。

2018年3月から2020年1月までの期間で、株式消却スコアは2.32ポイントから2.75ポイントに0.43ポイント上昇しました。株式消却スコアが高い会社はより頻繁に自己株式を消却したことを示しています。より多くの会社が自己株式を消却するようになったのですから、このことはとても良い兆候であると言えます。一方で、同表の現金保有スコアは同じ期間で1.02ポイントから1.04ポイントに0.02ポイントだけのわずかな改善にとどまりました。この2つのスコア変化の結果から、会社はより頻繁に自己株式消却 (株式買い戻しも) をするようになったけれど、手元資金の減少はわずかなものにとどまった。この結果はバランスシートにキャッシュが積み上がる方が使うよりも早かったことを示しています。また、同じ表には配当方針スコアが合わせて示されています。配当方針スコアは2.28 ポイントから2.63に0.35ポイント上昇しました。同期間に会社は利益から配当性向を引き上げました。つまり、会社は手元資金を現金/総資産の水準を概ね維持する一方で、キャッシュフロー自己株式買い戻しと配当に配分したと考えられます。

ユニバース上場会社のROE (実績)とROA (実績)の平均値を合わせて表に載せてあります。一般に所与の条件で会社が株主資本から自己株式を消却すると、ROEは上昇します。自己株式消却スコアが同期間に上昇した時に、平均ROE (実績)は8.3%から7.1%に1.2 ppt低下しました。同時に、平均ROA (実績) もまた4.2%から3.7%に0.5 ppt低下しました。もちろん、分子 (純利益) は経済状況によって増加・減少しますし、同期間に利益率またはリターンが低下したと一概にいうことはできないです。しかしながら、資金配分方針がROEまたはROAに何らかの影響を及ぼしていないか、気になるところです。もっと正確に言えば、上場会社の多くが将来成長のための投資よりも株主への還元にキャッシュを配分してきたのではないのか?つまり、多くの上場会社が将来の成長の機会を見出せないで、結果として配当や自己株式消却にキャッシュを使っていたとすればより深刻な問題ではないかということです。

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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦

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