日本の上場企業は3つの形態の取締役会の組織形態 (機関設計)によって運営されています。その3つの組織形態とは、監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社です。この中で、現時点で指名委員会等設置会社の形態がが最終系と認識されています。しかしながら、下記の円グラフを参照いただく通り、数少ない会社しかこの指名委員会等設置会社の形態を採用していません。下記の円グラフの数値はメトリカルの調査対象となる1,754社の内訳なので、前上場企業の数よりも少ないのですが、実際には指名委員会等設置会社の形態を採用している企業数は前上場企業に広げたとしてもそれほど変わりません。
メトリカルではコーポレートガバナンスの評価をする際に取締役会の組織形態によってスコアに差を設けていません。しかしながら、指名委員会等設置会社のCGスコアが結果として際立って高く、監査等委員会設置会社と監査役設置会社がほぼ似たような平均値で並んでいます。指名委員会等設置会社のROE(実績)とトービンのQの平均値でも際立って高いパフォーマンスを示しています。優れたパフォーマンスを達成する会社は最終系である指名委員会等設置会社に移行するなどCGプラクティスも向上させ、またその逆も同様であろうと考えられます。一方で、監査等委員会設置会社の数値は3つの形態の概ね中間に位置しています。この3つの携帯の中で比較的新しい組織形態は2015年5月の改正会社法施行によって、採用することが可能となったものです。メトリカルでは上述の通り、組織形態によってスコアに差をつけていませんが、監査等委員会設置会社の平均スコアは指名委員会等設置会社のそれから数段水をあけられていて、監査役設置会社のそれとほんの少しだけうわまっているだけです。メトリカルでは3年ほど前に監査等委員会設置会社に移行する会社の問題点と当組織形態への変更がCGを本当に向上させるのか懐疑的であることを指摘しました。その問題点には、(a) 監査役設置会社の監査役には調査権があったのに対し、監査等委員会設置会社では監査の実効性が弱まる懸念があること、 (b) 監査等委員会設置会社では、社外取締役が過半数を占めるまたは定款で定めた場合、事業に関する重要な問題を取締役会にはかることなく社内取締役で決定することができるため、取締役会の機能が無効化する懸念があること、などが含まれる。下表の結果の数値が示すように、図らずも監査等委員会設置会社に移行した会社の多くは社外取締役数(移行前の監査役設置会社時代の社外監査役を監査等委員会専門の社外取締役に移行する)などの見た目よくすることに主眼があり、CGプラクティスを真剣に向上させようとしてこなかったのではないか?すべての会社がCGプラクティスの向上に後ろ向きであると思ってはいませんが、最終系の指名委員会等設置会社への移行には相当に時間がかかると予想されます。例えば、CGを担当している事務方はCGプラクティスを向上させたいと考えている場合でも、とりわけ伝統的な会社の場合には取締役を説得して取締役会でコンセンサスを得るのは時間がかかることが予想できます。その結果、事務方ではステップ・バイ・ステップでまず監査等委員会設置会社に移行して、次のステップで最終系に移行すると考えていることも考えられます。それでも、このことは日本企業の経営決定の期待よりも時間がかかる多くのケースととても似ています。このことが2015年にコーポレートガバナンスコードが導入されてから、期待ほどのスピードでCGプラクティスの向上が進まない理由の一つです。よって、監査等委員会設置会社を採用している会社が今後どのように最終系に移行するのかを注視するべきです。もしも監査等委員会設置会社に長くとどまるのであれば、その会社はCGを真剣に考えていないと見ることもできるでしょう。
CG スコア Top100:
コーポレート・ガバナンス・ランキング Top 100 をもっと見たい。
http://www.metrical.co.jp/jp-cg-ranking-top100
ご意見、ご感想などございましたら、是非ともお聞かせください。
また、詳細分析やデータなどにご関心がございましたら、ご連絡ください。
株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦