パナソニックによるパナホームの買収 「会社非公開化」取引において少数株主は脆弱である

パナソニックによるパナホームの買収

「会社非公開化」取引において少数株主は脆弱である

Seth Fischer / セス・フィッシャー

Oasis Management Company Ltd. /

オアシス・マネージメント・カンパニー リミテッド

当社は日本の上場企業の幅広いポートフォリオに投資するファンドを勧めている。私は、日本のコーポレート・ガバナンスをグローバルスタンダード並みに向上させるという安倍政権の取り組みに励まされた。しかし、私も投資をしている係争中の住宅販売会社パナホームの支配株主である電子工業大手パナソニッックによる買収を見ると、日本にはまだ非公開化取引の不均整なリスクに対応する安全装置が確立されていないことがわかる。

米国および欧州のコーポレート・ガバナンス原則では、「会社非公開化」取引(すなわち、支配株主または現経営陣が上場企業の株式をすべて買い取ること)は特に慎重に扱われている。会社非公開化は当該会社の株主にとって異常に高いリスクを課すため、特別な配慮を要するものとされている。取得側には、大きな相反があるだけでなく、非継続株主に不利となるように会社の価値や価格を操作するのに絶好の立場にあるからだ。

パナホームの株主が米国であれば受けられる保護と、パナホームの株主が実際に受けている待遇を比較してみたい。

パナソニックはパナホームの議決権の54%を有する支配株主であると同時に、パナホームの群を抜いての最大サプライヤーでもある。(パナホームが建てた家には日立や東芝の家電は使われていないと言ってもだれも驚かないだろう。)このたびパナソニックは、株式交換によりパナホームを完全子会社化したいと考えている。その際、パナホームの株主は保有するパナホーム株をパナソニック株と引き換えに手放すことになる。パナホームの株主に提供される取引の経済的価値は、提示された交換比率、すなわち放棄するパナホーム1株に対してどれくらいのパナソニック株を受け取ることができるかに直接依存する。

パナホームの株主はいくつかの点で脆弱である。第一に、日本の会社法により株式交換の決議には株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要であるが、パナソニックはすでに54%を有しているため、決議を通すためにはあと13%あれば足りる。第二に、取得者としてのパナソニックと強制的に排除されるパナホームのその他の株主との間に、直接的経済的な利益相反が存在する。第三に、パナソニックはパナホームの支配株主であり最大サプライヤーである立場として、パナホームの利益性と企業価値を操作することができる。例えば、パナソニックがパナホームに販売する食洗機の価格は度重なる交渉の末に決定されたものではないかとの疑念を抱くかもしれない。

米国のコーポレート・ガバナンス・システムであれば、パナホームの株主に日本の現行ルールでは得られない一連の重要な予防対策が提供される。

一つに、米国のコーポレート・ガバナンス・システムでは、パナホームの真に外部の有資格の取締役から成る特別委員会が、それぞれの外部顧問の助言を得て取引の公正性を承認することが求められる。例えば、2013年に完了したデルコンピュータの買収における社外取締役による特別委員会は、デルのコンピュータ事業に関連のない業界のフォーチュン500企業の著名なCEO二名、ゴールドマン・サックスの上級パートナー、そしてホワイトハウスの元上級職員で構成された。一方、パナホームの特別委員会はソニーの元人事担当役員、以前パナホームの社外企業に雇用されていた弁護士、そして会計士2名で構成されている。特別委員会のメンバーのいずれも財務モデリングや企業価値評価の手法について特筆すべき経験がない。日本では、求められる独立性、評価もしくは専門知識を備えた有資格の社外取締役はまだまだ少なすぎる。

加えて、米国の特別委員会と異なり、パナホームの特別委員会のためだけの独立した財務顧問や法律顧問がいない。株式交換比率を計算している財務顧問は、いずれも長年にわたってパナソニックやそのグループ企業とつながりのある野村証券とSMBC日興証券である。法律上の助言は、株式交換後もパナソニックグループからの継続的な発注が当然のように期待されるパナソニックの社外企業二社が提供している。

第二に、米国の法律と実務において、当該特別委員会は「マーケットチェック」の実施が義務付けられており、事実上は第三者オファーを募集するために会社を競売する。デル社の取引では、当該特別委員会が有名な未公開株式投資企業からの入札を募り、そのうちの一社が最高額を提示して、デル社の創設者で最大株主のマイケル・デル氏による会社の乗っ取りを阻止した。反対に日本では「マーケットチェック」を要さない。パナホームについて他の入札者を募っていない。入札参加者が一社しかいない競売である。パナソニックには現実的で公正な市場価格を設定するための競争入札者がいない状態である。

第三に、米国の特別委員会であれば、外部の財務顧問は提案された株式交換比率の公正性を公式に認める「公正性に関する意見(fairness opinion)」の提出が求められる。パナホームの財務顧問は、正式な公式性に関する意見については責任を持たないと明確に宣言した。

最後でおそらくもっとも重要なことに、米国の裁判所は会社非公開化取引における少数株主の保護のために積極的な役割を担っている。会社非公開化取引は、「全体の公正性」基準を要求することで判断される。つまり裁判所は、その非公開化取引の手続きと買収価格が少数株主にとって公正であると完全に納得しないかぎり、ためらうことなく買収価格を調整してくる。デル社の取引では、外部特別委員会が監修して実施された公開買付手続きの後も、少数株主が買収価格を再評価するよう連邦裁判所に提訴した。その結果、買収価格は22%上方修正され、デル社の少数株主にとっては249億ドル相当の追加報酬となった。一方、会社非公開化取引に関する日本の法的基準は弱くあいまいであり、裁判所も少数株主の保護に積極的な役割を負いたがらない。

提示された株式交換比率の根拠についてパナソニックとパナホームに尋ねたところ、日本国の法に技術的に準拠する手順で計算されているので、定義上公正であるとの回答であった。株式交換比率の算定にあたってしようした仮定および手法について提起した問題点に対する回答はまだ受け取っていない。提案された交換材料の詳細な分析についてはhttps://www.protectpanahome.comを参照されたい。

日本国の法とコーポレート・ガバナンスの慣行の下でパナホームの少数株主に与えられている脆弱で不十分な保護を考えると、パナソニックとパナホームの経営陣が、日本国法の下で要求される「プロセス」を技術的に満たしているという口実の陰に隠れて、我々が提起した合法的な異議について対処しないのは残念である。パナホームの少数株主を含め、日本の株主は他国の管轄権や市場では当然与えられる保護を要求していくべきである。

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