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年金ガバナンス強化はアベノミクスのガバナンス改革を完成するのに不可欠
コーポレートガバナンス・コードが最大限に機能するために、スチュワードシップ・コードは実効的に機能しなければなりません。いくら「建設的な対話」と唱えても、本来、ファンドマネジャーにとって対話活動及び議決権行使は「コスト・センター」であって手間暇がかかるので、そのファンドマネジャーの重要顧客がその活動を具体的に求めなければ、どちらかと言えば運用業者は手を抜いて表面上の行動で済ませがちです。
残念ながら、政府の努力にもかかわらず、日本ではこの「インベストメント・チェーン」には大きいな問題がまだ残っています。ファンドマネジャーの一番重要な顧客は年金基金です。多額の額の掛け金を定期的に委託してくれるのですから、神様のようなものです。年金基金がファンドマネジャーの選定に当たってスチュワードシップ活動およびESG分析が重要な基準であることを明確にすれば、あっという間に「建設的な対話」は半分PRようなものと思われている「コスト・センター」ではなくなります。
ところが、スチュワードシップコードの受け入れを表明した何百社の機関投資家の中には、何社の非金融上場企業の年金基金が含まれていると思いますか?現時点では、一社のみです(セコムの年金基金)。たった一社!これでは、同コードがそのフル・ポテンシャルを発揮するはずがありません。
また、「従業員を大切にする」ことが日本の企業習慣であると一般的に思われていますが、制度的にいえば米国のERISA法、UK Pension Actほど労働者の退職後生活収入を保護する法制度は整備されていません。理事に求められている専門的な知識と忠実義務および善管注意義務の責任内容は不明ですし、多くの場合には加入者は法律上又は事実上、理事を訴訟できません。ERISAと違って、ファンドマネージャーその他の業者に対しても訴訟できません。また、労働者が違反を主張する場合、米国とイギリスのような当局による能動的な摘発体制になっていません。
同時に、退職金制度は従業員の立場から、客観的に評価すればかなり怪しいです。会計上の引当金があっても、実際にはお金がそこに入っているわけではありません。会計上の数字(紙にしか存在しない勘定)に過ぎない、という事実は労働者の何パーセントは知っているでしょうか。「分離された銀行口座」がないどころか、退職金負債の担保になる他の口座も仕組みもどこにもありません。会社が倒産すれば、退職金をもらわない可能性が大です。実は、ドイツには似たような制度があります。一般的に、「従業員が会社にお金を低利子で貸し付ける仕組み」と思われているようです。この解釈は現実に合っています。
上場企業(だけで)年金積立不足は26兆円になっていますし、この数字はマイナス金利政策で更に膨張するに違いません。なのに、以上の問題点および各企業年金基金のスチュワードシップ責任行動の遂行状況などについて、企業は労働者に対して詳細に開示する義務を負いません。なにしろ、上記に書いた「一社」が全てを語っています:企業年金はスチュワードシップコードの受け入れを表明する義務がありませんし、その殆どが「スチュワードシップ」を重視していません。
コーポレート・ガバナンス及びスチュワードシップ改革が実効的に機能するためには、一番大事なのは、企業年金基金のようなend asset owner(「経済的資産保有者」)が真のスチュワードになって、専門的な知識をもってfiduciary dutyを貫くことであります。そのために、年金のガバナンス、加入者に対する情報開示義務を強化することが不可欠であります。
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私の提言
従って、企業年金について、以下の具体的な提案を政府に提出いたしました。
1)スチュワードシップ責任の重要性を反映するために、 企業年金基金がコミットする「運用の基本方針」に「スチュワードシップ責任に関する事項」の説明を義務付けます。
- 方法: 以下の「確定給付企業年金法など(抜粋)」のページ4に示されているように、「確定給付企業年金法施行規則」の下線の文言、「スチュワードシップ責任に関する事項を含む」を入れます。(つまり、施行規則のその部分は、「七 前各号に掲げるもののほか、運用業務に関し必要な事項(スチュワードシ ップ責任に関する事項を含む)」になります。)これによって企業の確定給付年金基金は基金の運用の基本方針にチュワードシップに関する事項を説明しなければなりません。現在、これは義務付けられていません。ですから、「一社の非金融上場企業の年金しか受け入れを表明していません」。
ご参照: 確定給付企業年金法など(抜粋)
2) 上記の説明及び開示義務の内容を明確にするために、以下のファイルの 「追加文言案」に沿って、「確定給付企業年金制度について」に以下の文言を追加する。
- 「確定給付企業年金制度について」(平成14年3月29日発第0329008号 厚生労働省年金局長から地方厚生(支)局長宛通知)において
1. 同通知の「第六 積立金の運用に関する事項」の「一 運用の基本方針について」の規定の後(「・・・運用の基本方針の策定指針(別紙1)のとおりとすること。」の後)に以下を追加
規則第八十三条第一項第七号に定める事項には、(1)スチュワードシップ責任に関する事項(「責任ある機関投資家」の諸原則(金融庁「日本版スチュワードシップ責任に関する有識者検討会」平成二十六年二月二十六日)にあるスチュワードシップ責任をいう。)の受け入れを表明しているか否か、及び受け入れを表明している場合には同諸原則に対する対応方針、受け入れを表明していない場合にはその理由、(2)業務概況の加入者への周知方法(規則第八十七第二項第四号の方法を選択した場合には、その具体的な方法を含む。)、並びに(3)法第六十九条の事業主の義務を継続的に遵守するための体制に関する事項、を含むものとする。
2. 同通知の「第八 その他の事項」の「三」の第1文の後(「・・・加入者全員に確実に周知が行われる方法を選択すること。」の後)に以下を追加
規則第八十七条第一項第八号に定める事項には、(1)加入者が事業主等に対して確定給付企業年金に係る業務の概況について情報の開示を求める場合における窓口その他の連絡先(責任者の氏名を含む。)、及び(2)違法又は不正な行為が行われた場合に、加入者がいかなる者に対していかなる責任追及(法的、公的・私的仲裁手段も含む。)を行うことができるかについての具体的な説明、を含むものとする。
ご参照: 確定給付企業年金制度 – 追加文言案
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自民党の「AIJ問題に関するポロジェクトチーム」の提言(24年)
実は、24年(4年前)に、自民党の「AIJ問題に関するポロジェクトチーム」は以下のことを提案したが、その最重要な部分は実現されていません。 「自民党-AIJ問題プロジェクトチーム提言」 から引用いたします:
【1】 厚生年金基金の「構造問題」への対応
(1) 「日本版エリサ法」の創設
① 立法上の位置づけ: 退職給付・年金に関わる基本法。年金確保法、厚労省ガイドライン等の関連法・運用規定で別途制度設計。
② 盛り込むべき内容: 運用責任者への社保庁等 OB の天下り廃止、運用責任者の投資教育の促進、年金運用の分散投資義務の強調、プルーデントマン・ルール及びデューデリジェンスの徹底、受託者運用方針の大幅逸脱の責任明確化、年金数理計算の透明性・開示性の向上、加入事業者・監督官庁への報告義務の強化、企業年金連合会支払保証事業の強化
、、、
【2】 厚年基金の運用成果にかかわる自己責任・受託者責任の確立
(1) 厚年基金の市場価格変動リスクに対する自己責任の原則の周知徹底
(2) 厚年基金の受託者責任の明確化と運用結果に対する受託者説明責任の徹底
、、、
(6) 金融犯罪の金商法上の刑事罰並み罰則強化
ニコラス ベネシュ
個人として
その他のご参照資料