トヨタが「AA型種類株式」という種類株の発行を決めました。
下記にリリースがあり、適時開示でプレゼン資料やスキームの説明資料が開示されています。
http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/7764179/
皆さんは本件についてどのようにお考えでしょうか?
トヨタのように日本を代表する会社がガバナンスコードの重要性について認識も示しつつ、このような新しい取り組みをすることは、非常に意味があると思います。
一方で、種類株の発行には常に「フェアなのか?」という問題が付きまといますが、本件では色々疑問に思うこともあります。
①資金調達ではなく株主の入れ替え
5%の上限で種類株を発行する一方、同数の自社株を買い入れる予定です。
種類株は現値より2割高く発行するので、2割分は新規の資金調達になりえますが、市場の価格変動次第では資金純減の可能性もあります。
加えて、本種類株では5年目以後2.5%の利回りを約束していますが、トヨタならば社債でそれより遥かに安いコストで資金調達できます。
従って、本種類株は余分な金利を支払って長期の株主を獲得するという株主入れ替え策と言えるかと思いますが、そのような種類株の発行は株主全体の利益になるのだろうかと、疑問があります。
②普通株主=短期主義という前提
種類株を発行するのは中長期的経営を可能にするためと言っていますが、要は普通株主は短期主義であると決め付けています。
確かに現状短期主義の株主も多いのですが、だからこそ中長期的な対話を可能にするための材料を開示し、場を設け、普通株主に中長期的志向を根付かせる努力をすることが「筋論」なのではないかと思います。
一方、本種類株に応募する株主が本当の意味で中長期株主と言えるのか、疑問があります。本種類株では個人をターゲットにしているようですが、社債よりも利回りがよい上に株価の下値リスクも限定的なので、某証券が売りさばけばあっという間に売れるのだろうと思います。
しかし、そのような株主は「トヨタなら安心」と思って銀行口座からトヨタ銀行に預け替えをした株主に過ぎません。本当に事業の中長期的なリスクを見極め、時には会社に苦言を呈する、よきパートナーとしての株主にはなりえないと思います。
普通株主を短期主義と見限って、一方で会社追従型の株主を増やすことは、結局経営を弛緩させてしまうのではないかとも思えます。
③トヨタがやることの意味・責任
かつてソニーがトラッキングストックを発行したときには、後に続く会社はありませんでした。トラッキングストックにもいろいろとガバナンス上の問題がありますが、本種類株式にはもっと問題がある気がします。しかし「トヨタさんが発行したのだから」とこれの後に続く会社が出てくると、再び経営者資本主義に逆戻りしてしまうのではないかと危惧します。
繰り返しになりますが、少し前まで社外取締役もいなかったトヨタがこのような新しい取り組みをすることには非常にポジティブです。今朝の経済教室にもありましたが、新しい「エクイティガバナンス」のあり方を自主的に考える、良い取り組みだと思います。しかし一方で、どこか前世代的なものにしがみつく思想が隠れているようにも見えます。
皆さんはこの種類株をどのように評価されますでしょうか?