「オリンパス社はなぜ競り売りされていないのか? 単純にいえば、競り売りは日本型資本主義に馴染まない治療薬であるからだ。
もし仮にオリンパスの役員が欧米人であったとすれば、競売における事業の売却は当然な仕様になる。ところが、オリンパスはそれをしようとしない。グローバルスタンダードではなく、日本型資本主義の「漢方薬」を通じて健康を取り戻そうと努めている。会計粉飾スキャンダルを経て、コーポレートガバナンスをグローバルスタンダードに合わせようしているはずのオリンパスが日本型資本主義の「漢方薬」を通じて健康を取り戻そうとしている姿は皮肉だ。
オリンパスは第三者の援助が必要だと認識している。そのため、ソニー、テルモ、その他の「スポンサー」候補と「お見合い」をしてきた。しかし、オリンパスとその経営陣の取引後の独立が守られることが交渉の大前提だ。噂によると、相手が外国企業でないことも暗黙のルールだ。
スポンサー案には3本の柱がある。まず、スポンサーは約500億円を出資する。現在の市場株価で済めば、スポンサーは約11%の筆頭株主になる。次に、資本提供と同時にスポンサーはオリンパスと何らかの事業提携を締結することになっている。そして最後に、スポンサーとオリンパスの本格的な合併が将来あるかもしれないと予測されているが、そのタイミングと具体的な経済条件の決定は先送りされる。
これは日本企業の間によくある典型的な「資本・事業提携」であり、オリンパスのステークホルダーの利害関係から考えて、オリンパスの多くのステークホルダーにとって、この案の魅力は明確だ。しかしオリンパスの一般株主にとってはそうではない。一般株主の立場から考えると、スポンサー案の利得は見えにくい。解釈によっては、一般株主以外のステークホルダーが一般株主を食い物にして私腹を肥やしているようにも見える。
日本型資本主義の主要「ステークホルダー」であるオリンパス経営陣と従業員にとってのスポンサー案の利点は分かりやすい。企業買収、合併と違って彼らの独立性が守られ、戦国時代に敗戦した大名の運命を避けることができる。腰を低くして、スポンサーやメインバンクにお伺いをたてる必要はまだ当分の間あるだろうが、これは本格的な吸収合併に伴ういじめに比べれば、軽く、耐えられるものだ。メインバンクが会社売却を求めない御恩に対し、オリンパス経営陣の奉公はこれから重くのしかかってくるだろう。日本型資本主義は未だに「会社」=「藩」から出発する。」
– 外国法事務弁護士・米NY州弁護士スティーブン・ギブンズ(Stephen Givens)