「 オリンパスの損失隠し事件で疑惑を指摘し、解任された英国人のマイケル・ウッドフォード元社長が、上場制度の変更を計画している東京証券取引所のパブリックコメント募集に対して、意見を寄せた。独立社外取締役がきちんと役割を果たすためには、まずは社内取締役の教育訓練が不可欠だという。「企業統治を強化しても、株式投資のリターンには無関係」との声もあるが、筆者の分析では日本の家計がゆっくり豊かになるためには、無視して通れないテーマだと思われる。
コーポレート・ガバナンス(企業統治)というだけで、総論賛成各論反対の禅問答のような議論を思い浮かべる人は多い。しかも、「それで株価が上がるのか」と問われると、真っ先に企業統治改革に取り組んだソニーが、かつては比較対象でもあった米アップルに大差を付けられたことや、委員会設置会社でもある大手証券の株価下落を前に「株価は生き物だから何とも言えない」としか答えようがない重い現実が横たわってしまう。
しかし、ウッドフォード氏の視点は明確だ。「独立社外取締役が少数いたところで、大勢の社内取締役が取締役としての法的義務や忠実義務を真に理解していない現状では、十分な役割を果たせない」。従って社内取締役を教育・訓練することが最も重要であり、「東証は上場企業に対し、取締役の就任前及び就任後の教育訓練の諸方針、並びに教育訓練を受けた人の取締役の氏名、内容、時間の公表を求めるべきだ」と訴えている。
実際、オリンパスにも東京電力にも社外取締役はいたわけだし、大王製紙には社外取締役はいなかったが、社外監査役はいた。しかし、株主価値、あるいは企業価値を守るために何か積極的な活動をしたという情報はない。社外取締役の機能についての理解が共有されないままに、さらに社外取締役の設置義務付けなどが決まっても、第一線から退いた人の老後の小遣い稼ぎの場が増える程度のことに終わる恐れもある。ウッドフォード氏の指摘は経営現場の声として重みがある。
ただ、それでも投資家は「企業統治の実効性を高めれば、株価は本当に上がるのか」という疑問を発し続けるかもしれない。そこで、プロのアナリストや運用者の国際団体であるCFA協会の「世界における株主権の現状・投資家のための手引き」をもとに、各国・地域の上場企業の取締役会における独立取締役の平均割合と、株価指数の上昇度合いとの関係を調べ、グラフ化してみた。」
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