メトリカル:東証の要請の後は投資家の期待感のあるうちに会社が成果を出せるかがキー

東証は、2024年8月30日に「「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の施策について」を公表しました。本資料の概要を下記にお示し、論点を考えてみたいと思います。

Ⅰ.要請から1年の振返りと今後の方針
 多くの上場企業で開示が始まるなど、取組みに着手する動きが見られる一方で、中長期的な企業価値向上に結実するまでには、相応の時間が必要であり、改革は「途上」と認識
 東証は、上場企業が、資本コストや株価を意識した経営や投資者との建設的な対話などを通じて企業価値向上に取り組むことが「当たり前」となる市場を目指す
 今後の取組みを進めるにあたり、東証は、市場運営者の立場として、上場企業と投資者との建設的な対話を通じて企業価値向上が図られるための環境整備に主眼を置く
 その結果、上場維持コストが増加し、非公開化という経営判断が増加することも想定されるが、そうした判断も尊重(東証として上場企業数に重点は置かない)
 上場企業のみならず、機関投資家に対しても、短期的・表面的な視点のみに偏らず、中長期的な企業価値向上を支えるという視点で、上場企業との対話に臨んでもらうよう働きかけ
 今後の進捗を測る評価軸として、PBR・ROE・時価総額など定量的な指標(国際比較含む)に加え、上場企業の取組み・開示内容や国内外の投資者の評価を定性的に把握し、全体の進捗をレビュー

メトリカル:エンゲージメントの効果をより上げるために投資家と会社がすべきことは….

2024年6月7日付で金融庁が「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」に関する資料を開示しました。本資料の中の「スチュワードシップ活動の実質化」概要を下記にお示し、論点を考えてみたいと思います。

スチュワードシップ活動の実質化
課題:
チェックボックスを埋めるような形式的な対話が行われており、投資先の深い理解に基づく建設的な目的を持った対話や、双方向の対話が行われていないとの指摘がある。協働エンゲージメントについても、単に協働するのみならず、テーマを絞った意味のある対話が行われることが重要との指摘がある。
また、対話の担当部門、議決権行使の担当部門、運用部門等が分離しており十分な連携が図られていないなど、対話と議決権行使を一体とした実効的なエンゲージメントが行われていないとの指摘がある。
そもそもスチュワードシップ・コードへの対応についてはその遵守状況が確認されていないため、当局において実際の取組みを点検することが必要ではないかとの指摘がある。

メトリカル:エンゲージメントが時価総額上位と下位の会社で収益性の差拡大を継続させる

以前の拙記事で何度か時価総額の大きい会社と小さい会社で、収益性およびコーポレートガバナンスの取り組みにおいて差が広がっていくことを述べました。今回はそれを検証してみたいと思います。以前の拙記事「Increasing Profitability to Gain Support from Overseas Investors Is a Condition for Higher Valuation」および「Why Are Companies with High Corporate Governance Practices Ratings More Profitable?」において、外国人持ち株比率が高い会社は時価総額が大きく、収益性が高い傾向があると述べました。また、それらの会社はコーポレートガバナンス・プラクティスも優れていると述べました。その背景には海外投資家の長年にわたるエンゲージメントを通じて、会社が収益性とコーポレートガバナンス・プラクティスを改善してきたことがあります。海外投資家は企業価値を高めるためには取締役会の改善の必要性とキャッシュアロケーションを含めたキャッシュフローおよび手元キャッシュの効果的な使い方を求めてきました。これまでの分析で外国人持ち株比率30%台が閾値として経営者に意識されているようです。この水準に達すると海外投資家の意見を取り入れざるを得なくなる傾向が顕著です。海外投資家のエンゲージメントがドライバとして彼らの投資先会社(時価総額が大きい傾向がある)は収益性とコーポレートガバナンスを一層高めると期待されます。よって、時価総額が大きい会社とそうでない会社でますます差が広がると推察されます。

CG Top20株価パフォーマンス(2024年8月)

8月の株式相場は月初大幅下落した後は次第に落ち着きを取り戻して、月末にかけて下落分の多くを取り戻して引けた。
8月のCG Top20株価はTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対して4ヶ月連続で大きくアウトパフォーマンス。

日銀の7月の金融政策決定会合で決めた0.25%の利上げを受けて始まった8月の株式相場は、大きく上昇した円相場による円キャリー円高トレードの巻き戻しから混乱に陥り大幅下落。その後は落ち着きを徐々に取り戻した円相場に加え、ジャクソンホールでのパウエルFRB 議長講演とエヌビデア決算などの重要イベントを通過した米国株式相場が堅調だったことから、買い戻しが先行した。
8月のパフォーマンスは、TOPIXおよびJPX400の両株価指数がそれぞれ-1.96%および-1.23%下落した。CG Top20株価は2.89%の上昇と両インデックスに対して大きくアウトパフォーマンス。

CG Top20は7月1日より構成銘柄が見直されました。荏原製作所(6361)、テクノプロ・ホールディングス(6028)、ENEOSホールディングス(5020)、イノテック(9880)、ユナイテッドアローズ(7606)、パーソルホールディングス(2181)が新たに加わり、H.U.グループホールディングス(2146)、花王(4452)、ワコム(6727) 、ケーズホールディングス(8282)、エーザイ(4523)、トレンドマイクロ(4704)が外れました。構成銘柄の詳細は下記の表の通り。

【メトリカル】収益性を高めることによって海外投資家の支持を得ることがバリュエーション上昇の条件

Metricalの分析
日本の会社のコーポレートガバナンスの分析を本格的に始めたのは2015年6月からで、その当時は500社をカバーしていました。その後2018年2月から現在まで約1,800社を分析しています。これら1,800社をユニバースとして、有価証券報告書、コ―ポレートガバナンス報告書、決算短信など公開情報をもとに月次でアップデートしています。Metricalのコーポレートガバナンス分析はボードプラクティスとキー・アクションに分かれています。それは取締役会の構成などボードプラクティスの部分を形式的に整えたとしてもそれが価値を生み出す経営に生かされているか懐疑的なためです。というのは、理想的にはコーポレートガバナンスの改善は価値を生み出すことに直接つながるか、あるいはボードプラクティスの改善がキャッシュ・アロケーション、自己株式買い戻し・消却などのキー・アクションを通じて価値を生み出すという仮説に基づいているのです。よって、キー・アクションをコーポレートガバナンスの評価に加えるべきだと信じています。

メトリカル:CG Top20株価パフォーマンス(2024年7月)

7月の株式相場は月初大幅上昇した後、今度は下旬にかけて大きく下落して月末に値を戻して引けるボラティリティの高い展開。
7月のCG Top20株価はTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対して3ヶ月連続で大きくアウトパフォーマンス。

米国金利低下期待から上昇した米国株式相場を好感して上昇して始まった7月の株式相場は、その後日銀の利上げへと円高を懸念した売りから大幅下落した。月末最終日は日銀政策決定会合が無事通過した安堵感から買い戻しが先行した。
7月のパフォーマンスは、TOPIXおよびJPX400の両株価指数がそれぞれ0.99%および1.47%上昇した。CG Top20株価は3.53%の上昇と両インデックスに対して大きくアウトパフォーマンス。

メトリカル:東証の要請後もバリュエーション引き上げのキーは海外投資家を惹きつける収益性改善

2023年3月末に東証がP/B引き上げを要請(「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」要請)して1年間経過しました。株価の上昇に伴ってバリュエーションの上昇が期待されています。今回の分析では、2023年3月から2024年3月の期間にMetricalユニバースにおいてTobin’s Qを上昇させた会社にはどのような傾向があったかについて検証しました。

2023年3月から2024年3月で比較可能なMetricalユニバース1,750社において、Tobin’s Qの変化率で5つのグループ(50%超上昇、25%超50%以下上昇、0%超25%以下上昇、変化なし、低下)に分けて各項目で分析します。この期間のTobin’s Qの変化率の中央値は2.06%でした。

メトリカル:コーポレートガバナンス改善のドライバは外国人持株比率

2024年1月は2023年6月以来の海外投資家の日本株買い越しによって、日本株は大きく上昇しました。東証の売買高の70%超を占める海外投資家の売買が日本株を牽引する構図に変化はありません。一方で2023年3月末の東証の要請以降、上場会社は株価バリュエーション(P/B)の引き上げに苦労しています。海外投資家の買いに期待を寄せるような上場会社からの開示も増えてきました。今回は外国人持株比率に注目して、海外投資家が投資する会社にはどのような傾向があるのか分析します。海外投資家はもとより、上場会社にも注目してほしい内容です。

Metricalユニバース1,822社(2024年1月)を外国人持株比率で5つのグループ(30%以上、20%以上30%未満、15%以上20%未満、10%以上15%未満、10%未満)に分けて各項目で分析します。外国人持株比率の中央値は15%です。15%以上の会社は外国人持株比率がよりも高い会社といえます。また、以前の拙記事「Takeover Defense Measures and Foreign Shareholder Ratio」で述べた通り、30%に閾値のようなものがあると考えられます。外国人持ち株比率が30%を超えると会社にとっては株主総会で特別決議の1/3の確保が難しくなるため、外国人株主の影響力が強くなり、その結果会社の経営改善が進むことが期待できます。

メトリカル:CG Top20株価パフォーマンス(2024年4月)

4月の株式相場は月間を通じて振幅が大きいながらも月末にかけて値を戻した。
4月のCG Top20は株価はTOPIXおよびJPX400の両株価指数に対して大きくアウトパフォーマンス。

インフレ長期化リスクを懸念や半導体セクター株式が売られたことから弱含んだ米国株式相場を受けて、日本株相場もつき半ばから値を下げるも、日銀の金融緩和継続を受けた円安進行から月末にかけて買い戻しが進んだ。
4月のパフォーマンスは、TOPIXおよびJPX400の両株価指数がそれぞれ-0.77%および-0.30%上昇した。CG Top20株価は1.30%の上昇と両インデックスに対して大きくアンダーパフォーマンス。

メトリカル:ROEおよびROA上昇がバリュエーション上昇のキーだが、バリュエーションが低い会社にとってそれは容易ではなかった

過去1年間にどのような企業の株価評価が上昇したかを検証したいと考え、比較可能なMetrical universeのうち、2022年12月末から2023年12月末の間にトービンのQが上昇した1,755社の特徴を分析しました。下表は、6つのグループごとのトービンQの変化の中央値を示しています。