メトリカル:海外投資家が必要な書類と会社が英訳する書類にミスマッチがある

東証が2022年8月3日に月末に2022年7月末現在で英文開示実施状況調査を開示しましたので、ご報告したいと思います。

開示資料の冒頭で、東証は次のように述べています。「この度、2022年4月の新市場区分への移行後の状況を明らかにするため、2022年7月時点の調査を行い、調査結果をとりまとめましたので、お知らせいたします。グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場であるプライム市場上場会社においては、英文開示実施率が92.1%(2021年12月末時点85.8%)に達し、新市場区分への移行を機に上場会社における英文開示の取組に一定の進展が見られました。他方で、昨年実施した海外投資家アンケートにおいて7割超が英文開示を必要とした適時開示資料(決算短信除く)や有価証券報告書であっても、プライム市場上場会社の英文開示実施率が半数未満に留まる状況も見られます。新市場区分への移行以後に適用されているコーポレートガバナンス・コードでは、「特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである」(補充原則3-1②後段)としており、英文開示の範囲の拡大・内容の充実、開示タイミングの差異の解消に向けて、更なる進展が期待されます。」

上記の東証の調査結果まとめのステートメントに述べられている通り、プライム市場の上場会社の多くは何某かの資料を英訳しています。英文開示をする会社が増えたことは一定の評価ができます。しかし、まだ緒についたばかりというのが事実で、東証も後段で述べている通り、有価証券報告書のような重要な開示資料の英文開示をする会社はとても少ない状況です。有価証券報告書は来年度からは従来の四半期の提出から年次の提出に変更される代わりに、サステナビリティ項目が記載事項に含まれる計画であることから、その重要性が一層増しています。以下にて、東証の調査結果を見てみましょう。

英文開示を実施状況の概要
英文開示を実施している上場会社の割合は全市場では56.0%(前年末比+3.2ポイント)、プライム市場では92.1%(同+6.3ポイント)です。プライム市場以外の上場会社で英文開示を実施している会社は多くありません。昨年改定されたコーポレートガバナンス・コードは補充原則3-1②において、「プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべき」と規定しています。しかし、必要とされる情報として具体的にどの書類を英文で開示するのか示していません。コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-2④で「招集通知の英訳を進めるべき」と唯一言及されたのが、招集通知でした。プライム市場の上場会社で招集通知の英訳を実施した会社の割合は76.1%(前年末比+11.9ポイント)と高まりました。英訳の実施率が高かったのが、決算短信の77.1%(同+9.3ポイント)、IR説明会資料の61.1%(同+3.5ポイント)でした。一方で、英訳を実施した会社が少なかった資料は、適時開示(決算短信除く)、コーポレートガバナンス報告書、株主総会招集通知(事業報告)、有価証券報告書で、実施率はそれぞれ38.7%(前年末比+2.3ポイント)、24.5%、(同+2.3ポイント)、22.7%(同+2.1ポイント)、13.3%(同+0.8ポイント)でした。有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書などの重要な資料は大部分の会社で英訳されていないことがわかります。

2021年8月の調査結果になりますが、東証が海外機関投資家(48社)にアンケート調査をした中で重要度が高い開示資料について、「Essential: If listed Japanese companies do not provide disclosure documents in English, we will not make investments.」「Necessary: We need disclosure documents in English.」「Useful: If disclosure documents are available in English, we will use them.」「Not necessary: We do not use disclosure documents in English even if they are available.」の選択肢で尋ね、EssentialとNecessaryの合計回答率が高かった資料の順にお示しします。決算短信(80%)、IR説明資料(74%)、適時開示資料(72%)、有価証券報告書(70%)、アニュアルレポート(69%)、コーポレートガバナンス報告書(61%)、株主総会招集通知の事業報告(61%)、ESG報告書(59%)、株主総会招集通知知の通知本文(56%)でした。海外機関投資家にとって重要度の高い書類と上場会社によって英訳がされている書類とのミスマッチが起こっていることがわかります。本調査結果から1年間経過しましたが、あまり状況は変わっていないように思われます。有価証券報告書とコーポレートガバナンス報告書は英訳したくない理由があるのかもしれないと考えさせられます。

最後に興味深いデータがありましたので、ご報告します。下表は外国人持株比率別に書類を英文で開示している会社の割合を示しています。さすがに外国人持株比率が30%を超えている会社はいずれの書類においても外国人持株比率が低い会社よりも英訳する会社の割合が高くなっています。それでも、有価証券報告書、招集通知(事業報告)とコーポレートガバナンス報告書を英訳している会社は少ないことがわかります。

以上をまとまると、プライム市場の上場会社の90%は何某かの資料を英訳していますが、他の市場に上場している会社で開示書類を英訳している会社はとても少ないことがわかります。プライム市場の上場会社が英訳している書類と海外機関投資家が英訳を求めている資料とのミスマッチが起こっています。外国人持株比率が低い会社よりも英訳を実施する会社の割合が高くなっています。それでも、海外機関投資家が英訳を必要とする書類である有価証券報告書、招集通知(事業報告)とコーポレートガバナンス報告書を英訳している会社は少ないことがわかります。これらの書類を英訳することに消極的にならざるを得ない理由があるのかもしれません。

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株式会社メトリカル
エグゼクティブ・ディレクター
松本 昭彦
akimatsumoto@metrical.co.jp
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