【投稿】 2015年住友化学㈱株主総会出席報告

6/23の住友化学㈱株主総会に、OB株主として4年連続で出席し質問しました。
セレモニーに過ぎない総会でまともに質問をしても適当にやり過ごされるだけで、意味がないとする意見も多くあります。
また経営者にとって触れて欲しくない質問や手厳しい意見を述べれば、「特殊株主」扱いされブラックリストに載ることも覚悟しなくてはいけません。
しかし、小生としては、会社の最高機関たる総会で、本質を衝いた的確な質問を積重ねていけば、経営トップも無視できず、その牽制効果は決して小さくないと考えています。
そして、未だ負の遺産を克服しきれない住友化学のガバナンス・組織風土の改善、ひいては中長期的企業価値の向上に、OB株主として多少でも寄与できればと願っています。
もしご興味あればご笑覧下されば有難い。
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[1]概括
参加者は昨年よりやや多めの感じで、220~30人程度でしょうか。昨年は質問は何と3人だけで、11時過ぎには早々と終了という寂しさでしたが、今年は延6人とやや増えて総会らしい恰好はつきました。11時20分頃終了し、いつものクッキーに加え、開業100周年記念の今治タオルをお土産に無事帰宅しました。

直前に雑誌FACTA7月号『住友化学ー万骨枯る「米倉後遺症」』という刺激的なタイトルの記事が出て、元執行役員・人事部長の死というショッキングな事実も明らかにされましたが、会員制雑誌ということもあり、小生が少し触れた以外は全くその影響はなかったようです。

CGコードの影響か、従来よりも丁寧に説明しようという姿勢が見られたことは、それ自体は喜ばしいことです。しかし、後述するように、口頭では内容がなくともあれこれ説明されると何となく分かった気になりますが、これを文章にすると全く答えになっていないケースがいくつも見られました。
もちろん、株主総会の場で自分の立場を危うくするような「本心」からの発言を期待している訳ではなく、むしろ総会の場以外に牽制効果を波及させることが質問の主な目的ではあります。
とはいえ、今後一連の企業統治改革の中で、説明責任がより鋭く問われてくると、あまりに実態と乖離した建前論で押し通すやり方は次第に通用しなくなることは間違いないでしょう。

[2]小生の質問と答弁
昨年は、質疑応答が始まる前に、議長がいきなり一人一問に限定すると宣言しましたが、さすがに「3人」に懲りたのか、今年はそういう制限はありません。例年通り小生は事前質問状を提出していますので、それに沿って執行部と伊藤邦雄社外取締役に質問しました。

ただ最後に、「FACTA」に敬意を表して下記文言を付け加えました。
『最後に一言。雑誌から指摘されなくとも、問題の所在は皆さんには良く分かっているはずです。執行役員の死を決して無駄にしないように、覚悟をもってガバナンス改革に取り組んで戴きたい。』

(A)質問の前置き
『コーポレート・ガバナンス・コード制定を始めとして、日本の企業統治を巡る状況は大きく変わりつつあります。焦点は、社外取締役による経営者に対する監視監督機能の強化であり、機関投資家や株主との建設的な対話です。なにより求められるのは説明責任を誠実に果たし、経営の透明性の確保に努める経営者の真摯な姿勢です。』

<十倉社長の答弁>
・最近の急激なガバナンスの変化に対応すると共に、単に形を作るだけでなく中身の充実が肝要と考えている
・社外取締役を2名増員し3名体制に移行すると共に、財務会計の専門的知識を有する社外監査役を新たに選任した

(B)執行部への質問 「CEO・COO問題について」
『昨年の総会で、4月に新設されたCEO・COO制度について質問しました。委員会会社でもない当社が、この時期に突然設置したことに疑問を持ったからです。ところが、今年4月1日付けではこの呼称は消えてしまっています。わずか1年で何が変わったのでしょうか。最高経営責任者という会社のトップを定める重要なガバナンス体制が、十分な説明もなく短期間で変わるのは余りにも無定見と言わざるを得ません。改めて昨年に新設した理由と今回呼称が消えた理由を分かりやすくご説明下さい。』

<十倉社長の答弁>
・CEO・COOの任命は行わないこととし、一旦元へ戻したが、未来永劫任命しないということではなく、社則上は任命できることになっている。
・当社にとって何が最適な統治機構・意思決定機構かを総合的に勘案して、機敏に(無定見ではない)対応していく

➤全く問いに答えておらず、「回答不能状況」と言わざるを得ません。
それはCEO新設の目的が米倉グループによる「十倉社長抑込み」にあるという、公には説明できないご都合主義の産物であるからでしょう。(事情に詳しい関係者なら周知の事実かと)

(C)伊藤社外取締役への質問① 「CEO・COO問題について」
『第一は、このCEO・COO問題に関してどういうチェック機能を果されたのかという点です。おそらく背景には社内的な事情があったのでしょうが、まさにこういう社会常識から乖離した経営陣の決定を独立的な外部の目でチェックし、必要な是正を行わせるのが社外取締役の役割ではありませんか。特に、当社のガバナンスには長年のワンマン体制の深刻な負の遺産がまだまだ残存しており是正が必要と指摘される中、社外取締役の重大な責務を是非とも果して頂きたいと念ずるがゆえに、敢えて厳しい質問をさせて頂きます。』

<伊藤取締役の答弁>
・過去3年間事業リスクを含む様々な点で意見や質問を行い経営判断が適切な方向に向くように取り組んできた
・取締役会で活発な議論が行われており、ご指摘のワンマン体制ということは決してなく、それが今期の好業績につながっている
・監査役設置会社でもCEO・COO体制を敷いている会社はある
・1年やってみてCEO/COOの職務の整理が難しいことが分かったので、より適切な経営体制に改めることにした

➤色々説明はしているが、これをもし文章にすれば、何の説明にもなっていないことは明らかでしょう。
しかも、取締役会で活発な発言があるから「ワンマン体制」でないと断言してしまったのは、学者として致命的な発言ではないでしょうか。

(D)伊藤社外取締役への質問②  「兼任の考え方について」
『第二は、兼任の考え方です。伊藤取締役は本年3月末時点で7社の社外取締役を兼任されています。CGコードでも、社外役員はその役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力をその業務に振り向ける必要があり、兼任の数は合理的な範囲にとどめるべきである旨が規定されました。どう考えても、本来職務をこなしながらの兼任の7社は多過ぎであり、常識的に云って2~3社が限度ではないでしょうか。伊藤取締役のご見解をお示し下さい。』

<伊藤取締役の答弁>
・社外取締役に就任している会社では取締役会すべてに出席している
・事前に議案に関して説明を受けて十分に理解した上で取締役会に臨んで、積極的に意見を述べている
・時には経営トップにとっては耳障りなことも申し上げてきた
・専門分野と社外取締役の兼務は一貫しており、他社でのコーポレート・ガバナンスの実践の経験を当社に活かしていきたい

➤説明はありませんでしたが、実は伊藤さんが今期から従来の7社から5社に兼任を減らしておられるのは、さすがに無理があると思われたか批判の声を無視し得なかったということでしょう。
ただ小生の質問の真意は「兼務数」のこともさることながら、むしろ「FACTA」で書かれたような住化の深刻なガバナンス不全に対し充分な牽制機能を果たせていない点を省みて、今後本気になって是正に取り組んで戴きたいということです。これからの、伊藤邦雄さんを始めとした3人の社外取締役の働きに注目したいと思います。

[3]その他質問
(質問①)東芝が不適切会計で問題になっているが、当社の会計監査は大丈夫か。
(答弁)東芝の場合は工事進行基準の扱いが問題になっているが、当社Gでは一部あるが全体に占める割合は僅少。会計監査、内部監査ともしっかりやっている

(質問②)投資有価証券が連結で5200億円資産比18%、単体で1530億資産比10%あるが、含み経営の温床になっていないか。資金効率の面でも問題ないか。
(答弁)不要な資産は持たない方針でやっている。株も必要なものしか保有していない。CGコードでも政策保有株の方針を説明する必要があり、ガバナンス報告書にきちんと記載する(現状1500億円)。

(質問③)国際環境NGO「グリーンピース」の女性、「ネオニコチノイド系農薬(クロチアニジン)について」①消費者の声をどう受け止めるか、②評判の悪いビジネスに起因するブランドリスクをどう評価するか、③持続可能性のない合成化学農薬漬け農業から生態系農業への転換に貢献するつもりはないのか。
(答弁)社会に役立つから事業をやっている。人口増への対応に不可欠な農業の生産性の飛躍的向上のためには農薬がどうしても必要。農薬の安全性の確保、環境負荷の低減、適正使用の推進、消費者との対話に全力を挙げている。

(質問④)前期に比べ増収増益だが、これは円安のせいでそれを除くと増収増益になっていないのではないか。
(答弁)1円の円安で20億円の増益になり、確かに影響は大きい(前期比20円円安)。ただ電子材料関係は10億円の影響だが、価格要請が厳しく理論通りの寄与にはなっていない。円安だけではなく、スペシャリティ部門の拡充、財務体質の改善と合理化の成果が大きく出たと考えている。

(質問⑤)当社の屋台骨にも影響するペトロラービグの状況を事業報告でもっと詳しく説明すべきではないか。
(答弁)やっと200億円の利益を出せるようになってきた。ご指摘の点を踏まえ今後対処していきたい。

以上

エントリ by 板垣 隆夫

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