日本再生ビジョン:https://www.y-shiozaki.or.jp/contribution/pdf/20140523184536_1GxK.pdf
同章ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、大学の資産運用改革について提言されている。今週末(5月30日)GPIFが日本版スチュワードシップ・コード(以下、スチュワードシップ・コード)の受け入れを表明し、大学を含め他のアセットオーナー、運用機関に同様の動きが広がる期待が高まっている。
http://www.gpif.go.jp/public/policy/pdf/ukeirehyoumei.pdf
しかし日本再生ビジョンで提言されている受益者の利益のために行う運用を実行に移すには、単にスチュワードシップ・コードの参加を表明だけでなく、投資バリューチェーンにおける深刻なエージェンシー問題に対する理解・緩和が不可欠である。この場合、エージェンシー問題とは受益者とその資産運用を委託されている主体との行動原理が異なることで、受益者の利益のために行う運用が実現していないことを指す。最大の投資主体である年金基金を例にとると、年金基金参加者・受益者、受託者・統治機関、運用機関等年金運用バリューチェーンにおける主なステークホルダーの間には深刻なエージェンシー問題が存在する。受託者・統治機関、運用機関の想定期間は、通常30年以上という年金基金参加者・受益者のそれよりはるかに短い。年金基金参加者・受益者は運用原資または投資に関して支配権をほぼ持たず、また権利行使できない。そのため十分な知識を持たないだけでなく、投資に関与できないことで、運用結果が不安定な時は不信感を募らせる。受託者・統治機関は通常労働組合、企業、または政府機関であり、金融や投資業務の経験が乏しいにも関わらず限られた時間内で判断を下すことが求められている。反面、十分なスキルを持たず、他の利害関係に影響を受けやすい傾向がある。運用機関は1‐3年の運用成績を基にした短期的な報酬に強く動機づけられており、運用資産額に応じた手数料や年金財務ではなく市場ベンチマークとの相対パフォーマンスの影響を受ける。
日本再生ビジョンではGPIF・大学の資産運用についてリスク管理・ガバナンス体制の必要性が強調されているが、上記の現状を考慮に入れるとより包括的な研修プログラムがGPIFや大学等アセットオーナーだけでなく運用機関にも必要である。過剰な群集行動が経済及び年金基金参加者・受益者に与える悪影響、短期及び長期責任の公平性確保、年金関連業者と年金基金参加者・受益者との利益合致を促進する手数料体系、企業分析におけるESG(環境・社会・ガバナンス)要因の重要性、集団的エンゲージメントのメリット等がその研修プログラムに必須科目として含まれるだろう。