公益通報者保護制度に関して

BDTIでは初めてコメントさせて頂きます、デンマーク生まれ、日本育ち、デンマーク人のキム・ペーダセンと申します。宜しくお願い致します。皆さん程の優れた職歴は私にはございませんが、日本とデンマークを行き来してそろそろ40年が経ちます。貿易が専門ですが、政治経済にも関心があり、いずれは日本の労働環境の改善に影響を与えたいと考えている毎日です。

さて、上記の課題ですが、リンク先の「公益通報者保護制度に関する意見」を読ませて頂きました。読んで単純に思う事も沢山あるのですが、この最初のコメント、多少デンマークと比較した形から入って行きたいと思います。

デンマークは世界でも最も幸福度の高い国という風に評価されている事例が少なくありません。幸福度を計る様々な調査や調査方法がある訳ですが、どのような調査方法を取っても多くの場合デンマークはトップ10位に入ります。その大きな鍵を握っているのが非常に優れた労働環境です。日本は幸福度が多くの調査では非常に低いという評価を受けている事は皆さんもご存じの通り。その大きな理由には日本の苛酷な労働環境があります。そういう意味でも今回の公益通報者保護制度には個人的には興味があり、より多くの日本人が興味を持つべき課題、知るべき制度だと言う風に認識しています。

デンマークの労働環境は世界で最も優れているものの一つです。この優れたデンマークの労働環境は150年、160年掛けて作り上げたものなのですが、最初の100年程は労使の葛藤(?)が多く雇う側も雇われる側もストライキだのロックアウトだのの連続で経済的なダメージが多い結果ばかりで労働環境の改善は最低限の事以外には一向に進まないままでした。しかし、この期間、労使の組織だけはしっかりと出来上がって行きました。使用側の交渉権、労働者側の交渉権を持った組織が出来、組織率も非常に高くなり、双方に交渉権を認めあっていた組織が出来ていたのです。戦後間もなくこの組織は100年の歴史を振り返って、葛藤を繰り返すよりはお互い協力し、ダメージを与えるよりはメリットを与える方法を考えようではないかと考え直し、協力を前提に交渉の場についたのがきっかけでデンマークの労働環境や福祉制度が一気に発達していったのです。つまり、自分の利益の追求だけでは無く、相手に対して自分はどのようなメリットを与えられるのかを考え、その対価として自分も付加価値の一部を受けるという交渉を始めた訳です。労働者は効率をあげる。その代わり会社は給料を上げる、若しくは具体的な労働環境の改善を行う…戦後はそれの連続で今の優れた労働環境が出来上がったのです。意外と当たり前の事なのですが、現実的には世の中、これが出来ていないのです。それぞれ自分の組織やグループ、場合によっては個人のメリットだけを追求するのです。それではいつまで経っても労働環境が改善するはずがありません。

つまり、デンマークが何に成功したかというと、労使供にお互いを認める(!!)、お互いの権利を認める、お互いを育てる事で双方に大きなメリットがあるという共通の認識に辿りついたのです。その為、現在ではデンマークの産業の生産性は非常に高く、その高い生産性のお陰で社員の給料もその分高く待遇も良いのです。社員の権利や自己開発の必要性、休暇を取ったり家族と時間を取る必要性などを会社側が認める代わりに生産性はどんどん上がって行き海外との競争力は抜群なのです。労働環境の改善=競争力向上なのです。

デンマークには日本のような特別な公益通報者保護制度というのは私が知る範囲では存在しません。上記の話からもお分かり頂けると思いますが、労使関係がしっかり出来ているので、元々必要ないのです。この労使の双方を認める基盤が健全な社会、健全な会社を作り上げる上では最も重要な基盤かも知れません。

仮にあるデンマークの職場で問題が発生した場合、社員には二つの選択肢があります。片方は社内(例えば上司と)で問題を取り上げる事、もう一つは労働組合に問題を取り上げて貰う事です。弁護士を介して会社を訴えるという方法もありますが、最初からこの方法を取る人はさすがにデンマークも殆どいないでしょう。労働組合はメンバーからの苦情は当然ながら真面目に受け入れ、労使協定に反するものであれば即会社側に改善なり弁償なりを要求します。労働組合は完全に社員の肩を持ちます。また、会社側も労働組合との関係を悪くしたくは無く、殆どの場合仲良く問題を解決して行きます。

勿論デンマーク人の国民性というのもあります。デンマークは世界一横社会と言われています。日本はその全く逆で世界一の縦社会と言われています(おそらく多くの点で非常に面白い比較の対象でしょう)。調査方法によって多少の順位の違いはあっても日本とデンマークがこの点では180度異なる事は間違いありません。つまりいくら自分より地位が高い人であったとしてもデンマーク人はその人に対して自分の本音をぶつける事が出来るのです。本音をぶつけたからと言って嫌がらせをされたり変な目で見られるといった事は一切ありません。

公益通報者保護制度が必要ない理由はまだまだありますが、ひょっとして最も大きな理由はデンマーク人のリーダーの多くは公益通報の「公益」の部分を良く理解しているからではないかと思います。如何に社員からの意見、批判、コメントがその企業の更なる競争力、利益の拡大に繋がるかを良く理解しているのです。一般的にデンマークでは60年代、70年代頃から、権威主義的リーダーシップは「無能」と評価されてきました。つまり、権威を振り回して社員を動かすよりは快適な労働環境を作り、インセンティブを与える事で社員の能力を伸ばし、如何に積極的に会社の為に役立たせるかという事がリーダーの能力発揮の物差しとなっているのです。「鞭」よりは「飴」の方が、社員が積極的に会社に貢献し、競争力は高まり、利益は増え、更に労働環境は改善され、社員は更に能力を付け、もっと会社に貢献できりうようになるという原理に気付いているのです。今更権威主義的リーダーシップが良いのだと主張するデンマーク人はいないでしょう(軍隊などの特殊な組織は別として)。

日本とデンマーク、異なるところがあまりにも多く、今回の公益通報者保護制度に関する話は多くの課題に触れられるのですが、またその中には様々なヒントとなる要素が含まれているのですが、全部一気に書く事も残念ながら無理です。今回は多少纏まらない文章になっているかもしれませんが、今後このフォーラムではどんどんコメントさせて頂きたく思っております。取り急ぎ、今回は挨拶含めて初めてのコメントとして公益通報保護制度をコメントさせて頂きました。

今後とも宜しくお願い致します。

私の詳しい事はこちらのページを御覧下さい:

http://www.japan-country-manager.com

http://www.roukan.com

本: 「幸福No1のレシピ」  http://bit.ly/16XZ8S3 (BDTI登録ユーザーのみ。 「PDF 6 MB」 の上にクリック)

宜しくお願い致します。

キム・ペーダセン

 

コメント by roukan

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